About Death Way
The Balancer
「訓練の続きをやるから」
が出て行った戸口を静かに見つめて、は考えていた。
何故、市丸は彼に声を掛けたのだろうか・・・と
 
 
 
 
あの艦周辺において、死して死神になれそうな人間なら、結構な数が居たはずだった。
それに、死神の力を与えたら、死神代行くらいはこなせそうな人間も、中には居たはずだ。
それを市丸が分からなかったはずはない。
なのに市丸は彼を選んだ。
少しその理由を聞いてみたいと思ったけれど、一介の平である俺にそんな大それたことができるはずもない。
 
 
 
 
それにしても、あれ以降、市丸は彼に接触はしてきていない。
何故?
半ば強引に裏で糸を引いておきながら、どうして彼はさんとの接触を絶ったのか。
命令?
奴の上司の?
しかし、藍染は・・・
『こんなこと』には興味はないだろう。
奴が気にしているのは『死神』が『虚』になるまたはその逆であり、人間が直接『死神』になることには興味の対象外なはずだろうから。
――では、市丸の完全な松本との遊びという可能性は?
急に割り込んできた森羅光玉の声に、一瞬その感情が揺れた。
そう・・・なのかもしれないし、そうじゃないかもしれないからこうして悩んでいるんだろう?
と、あくまで冷静な対応をはした。
彼の言う通りならば、自分の杞憂で終わるのだけれど・・・と。
それにしても、市丸は僕が四十六室と通じているということを知っているからこれまた厄介な話ですよね。
今のところ表立っての妨害などは無い物の、拮抗してると言えばいいんでしょうが、それでも目が離せないというかなんと言うか・・・な状態ですし。
いつ動いてもこちらは対応するしかなく、また出来なければ恐らく・・・
まぁ、この状態が一番よいと言えば良いんでしょうがそれでも、天秤が同じ重さで釣り合った状態で片方だけに腕をガンッ!と乗せてその拮抗を壊してみたいと・・・
――主上・・・
の中の不穏な空気を読んだのか、森羅光玉が声をかける。
分かってるよ。
こちらからは仕掛けられない。
動く前に潰すには、藍染という敵は周りを騙しすぎているからね。
と、後ろに立つ彼に視線を向けて少し自嘲気味に笑った。
「長老、少し彼の様子見てきます」
そう言って扉を開け、彼がいるであろう裏手へと回った。
さん?」
声を掛けると、彼の霊圧が少し動いた。
どうやら一休み中だったようで、壁にもたれながら浅打を両手に持ち空を見ていた。
僕に気付くとその精悍な顔が『ニヘラ』といたずらっ子のように笑う。
そして
「なんとなく、コツは掴んだようなそんな感じ・・・かな」
とその笑顔のまま立ち上がって
「もう一頑張りしますかね」
と一度伸びをして再度精神を集中させた。
その様子を見ていた、銀髪の白の隊長束を着た人物が
「へぇ。なんや、エライ進展してるやん。やっぱ、ボクの目に狂いはなかったってことやんなぁ。」
と言いながら近寄ってきた。
突然のことに流石のも驚きを隠せなかったようだ。
動きが止まり近づいて来る彼、市丸を凝視している。
そして、集中から解けたらしいも市丸を見ていた。
そんな彼に市丸は
「あぁ、ボクのことは気にせんと続きやったって?」
と、掌をヒラヒラさせてに言い、に向き直って
「ちょい君。こっちおいで」
と手招きした。
 
 
 
 
 
「なんでしょう?」
と聞いたに対して市丸は何も答えなかった。
その代わり
「エライ進んでるやん。で、どないなん?彼は」
と自分の用件だけを聞いてきた。
「まぁ・・・進展は実際早いと思います。斬魄刀の名前を言えるようになるのも、時間の問題かと・・・」
至っては事務的に答えてみせた。
市丸の意図が分からない内は、こうして現状のみを伝えるのが一番いいだろうと判断したからだ。
「さよか。ま、預かってるのはソチラさんやからな。ボクがどうこう言える立場やあらへんのやけど」
そこで一度言葉を切って市丸が一瞬で間合いをつめた。
「ま、これからどうなるかは、見ものやねぇ」
と耳元で言うと瞬間的に払いのけたの腕を難なく受け止める。
「お前・・・藍染?」
「おや?分かったかな?流石だねぇ、君は。」
そう言って鏡花水月を解く。
「仕向けたのは、あなたですか?」
と、あくまで『平』としての立場を崩さない彼に藍染が首を振った。
「いや、私もさっき市丸から聞いてね。それで少し興味が湧いた。
 君が彼・・・君だったかな、を死神にすることができるのかどうか・・・」
冷酷な瞳が眼鏡の奥から覗く。
恐らく現時点でこの瞳を知っているのは、彼らの仲間を除けば自分一人だろうが。
「尸魂界の初期の頃の話も、私は聞きかじった程度だから詳しくは知らないが、君が関与していることも調べはついているからね」
そう言って、いつも隊員に見せる暖かな笑顔をに向けた。
「さて、どうする?ひとまず彼を挟んで休戦といこうか。
 君は彼に約束した。私はそれに興味がある。利害は一致する。だろう?」
と、暖かな笑顔を崩さずに挑戦してくる。
藍染には分かっている。
彼の鏡花水月が僕には効かないことも、そして何より僕の方が彼よりも強いという事実も。
分かっていて敢えてこの申し入れは・・・本当に興味が湧いただけなのか?
それとも今後の何か、実験材料か何かに使う気なのだろうか?
もし『そう』なれば、僕は全力で止めますよ、藍染。
そう心に決意して彼、藍染の出方を待つ。
そんな決意など知らない彼は足をさんの方へと向け、何やら話し掛けていた。
顔だけはいつも見せている暖かな偽りの笑顔だったが、心は何を考えているかまでは読めなかった。
 
 
 
 
 
 
 
「やぁ。初めまして。」
そう言ってきた市丸とは違う別の誰か、初対面の人が話し掛けてきた。
「あ・・・はぁ・・・初めまして・・・」
と恐らく人好きのする笑顔なのだろう、温厚そうな人だった。
「僕は、ここの瀞霊廷の護廷十三隊の五番隊隊長の藍染といいます。
 君のことは市丸から聞いているよ。なんでも無理矢理彼の遊びに付き合わされたとか?」
と、あの市丸と知り合いらしいことを言う。
あぁ、そうか。市丸が確か三番隊の隊長だとか何だとかって聞いたような気がするなぁ。
ってことは、この人が五番隊の隊長ってことは、面識があって当然ってわけか。
それにしても、この尸魂界の隊長って、なんだか一貫性がないよな・・・
と、目の前のどうみても三十代だろうと思う藍染という男を眺めてそう思った。
何故なら彼、君のところの隊長さんはどう見ても少年にしか見えなかったし。
まぁ、ここは人間の世界じゃないから、何を規準としてるのかよく分からないのだが。
それにしても、今・・・
「あの、藍染・・・さん。市丸の遊びって、なんですか?」
と、恐らく俺は聞いてはいけなかったと思う。
 
 
 
 
 
 
真相は、時に全てを粉砕する。



 
聞くんじゃなかった・・・
と心底は後悔した。
アトガキ
藍染登場 水面下で火花散ってます
2017/07/20 書式修正
2007/01/07 up
管理人 芥屋 芥