本当に、『霊圧』というものを使わなければ腹は減らない。そのことをつくづく実感する。
昼あれだけ腹が減っていたのに、あれから一度も腹は減らないし、疲れない。
「便利だな……」
と、思わず口から洩れる。
もしここに住むことになったら、その『霊圧』を使わなければずっと食費は浮くわけだ。
なるほどなぁ
と、妙なところで納得と感心をしている。
明日は、流魂街というところに行くのか……
そんなことをつらつらと考えていると、次第にの目蓋は落ちていった。
「まぁ……あいつ、地獄蝶を使ったしな」
あいつ、というのはさんのこと。
ここは、十番隊の隊首室。
仕事の後に、聞きたいことがあるからと隊長に言われ、そして残ってるのです。
まぁ……同僚には同情の目で見られましたけど……
それもこれも、松本副隊長が……まぁ、いいんですけどね。
僕自身も楽しいですし。
「へぇ。人間なのに地獄蝶がねぇ。それって、死神としての霊圧を持ってたってことなんでしょ?どうなのよ、。あんたが一番長く一緒にいたんだから、分かるでしょう?」
というのは、松本副隊長だ。
「まぁ……斬魄刀の声は、聞いたみたいですから、もう少しだと思うんですけれど」
隊長と副隊長に両側から挟まれて、少々の内心は冷や汗ものだった。
いや、別に怖いとかそういうんじゃないんですけど……
なんていうんでしょうか。
一応僕は平という立場なんですから、その辺りは、ね。まぁ、臨機応変ということで。
「そうか、分かった。もういいぞ、下がって。」
そう言われ、「では」と言って足を扉へ向けた時に、後ろから声が掛った。
「そろそろあいつも、現世で仕事が近いらしいからな。、その辺りは配慮してやれよ?」
「……はい」
それにしても、市丸隊長と松本副隊長は、最後の最後まで隠しとおすつもり……なんでしょうか。
まぁ、言わなければバレることもないですし、このまま隠し通せたら、『らっきー』という位にしか考えていないような、そんな気もするんですけれど。
それにしても、災難……ですよね。さんって。
さてと……ちょっと強引ですけど、先に行動しておきますか。
そろそろ現世に戻らなければならないようですし。
と、はそこから、瀞霊廷の外に向かって歩きだした。
「早いですね」
部屋に行くと、既にさんが死覇装に着替えて伸びをしていた。
「あぁ。まぁ、昨日はなんでか知らないけど早く寝てしまったみたいだから。」
と、そう言うと
「なぁ、貸してもらってるあの刀は、置いてってもいいのか?」
と聞いてきたから。
「いえ、持っててください」
と答えた。
「あまり、持ち慣れないものは持たない主義なんだけど……まぁ、ここは君に従うよ。」
そう言って、浅打に手を掛けた。
瀞霊廷から流魂街へ出るために、歩いていく。
「じゃぁ、その流魂街にいる人たちと、死神は違うの?」
「いえ、基本的には同じです。現世で亡くなった魂であることには変わらないんですが……ですが、その中でも霊力が強かったり、また、この世界で生まれた人も居て……中々に複雑なんです。」
一言で説明しきれない程に、この尸魂界は複雑になってしまった。
まぁ、仕方のないと言ってしまえば、仕方のないことなのだろう。
例えば四大貴族と言われる『家』は、朽木家を除き、ほとんどが壊滅状態。
特に四楓院家は、先代の当主夜一が居なくなってから、まだ次の当主が決まっていない。
志波家も、すでに没落している。
「色々大変なんだな、ここも。まぁ、うちの艦でも毎日毎日飽きない位色々あって大変だから、なんとなく分かるような。でも、乗り込めばそこは家同然だし、てか、法律的にも家になってるから、ま、艦が家っていうのもなんか変な感じするけど。でも、慣れてしまえばその大変さも、慣れるんだよな。」
と言った。
ん?
その言葉に、妙に引っ掛かりを覚えた。
なんか、『艦が家』って、そう言いませんでした?
「ちょ……ちょっと待ってください。今、なんか、サラッとすごいことを言いませんでした?」
その言葉に、さんの足が止まる。
その顔には、「俺、なんか変なこと言ったっけ?」と書いてあった。
「何?」
自覚がないのか、聞いてくる。
「あの今、『艦が家』って聞いたような……?」
その言葉にようやく合点がいったような顔をする。
「あぁ、うん。そう。あの「みらい」が俺の家。正確には、あの中のベッドが俺の家ってことなんだけど、でも法律的にはあの艦が俺の家だね」
そう言って、笑った。