それにしても、『霊力』ってもんを使うと、こんなに腹が減るだなぁ
と、はさっき実感した。
あの、『門』らしき物に会った後、意識が浮上すると強烈に腹が減ってるのがはっきりと分かったから。
「ということは、船の上ですね。それにしても、船の上だと揺れとか大変なんじゃないですか?」
そんなの考えとは全然違う方向へと話が向かう。
「いえ……揺れは慣れればなんとかなりますし、今の艦(ふね)はほとんど揺れませんから大丈夫ですよ。」
と、いつも言ってることが口から出る。
とは言っても、最初の頃は……吐きまくった。
慣れるとは言っても、慣れない奴は何が何でも駄目だったりするのが、海の上。
実際、それで脱走……なんてことも試みる奴も後を絶たない。
それで何度朝早くから探しに出たことか……
と、教育隊時代が僅かに蘇る。
「船の中で、補給や医療を……それは、とても大きな船なのですね」
そう言って、卯ノ花隊長がお茶をすする。
「乗員は241人います。大きいですよ」
と言うと
「まぁ……そんなに多くの人を乗せて、沈みませんか?」
と真顔で聞いた。
はぁ?
……いや……これには流石に、返答の仕様もない……っすよ?俺……
てか、想像の範囲外だし……
というか、今この瞬間俺、すっげ間抜けな顔になってるんだろうなぁって思うけど、そんなことは後回しだ。
「いや……多分沈まない……と思うんですけど……」
その前に、イージス艦が沈んだという話なんか、未だかつて聞いたことないし……
それも、乗員の重さで沈んだなんて……そんな逆SFみたいな話、聞いたこと無いし、大体乗員の重さで沈んでたら、「イージスシステム」積めないっす。卯ノ花隊長……
それをどう説明しようか悩んでいると
「卯ノ花隊長、さんの乗ってる船は機械で動いていて、とても大きいもので、人以外にも長い筒状の物が何本かついてますし、空を飛ぶ機械まで積んでるんです。ですから、沈まないと思いますよ?」
と言ってくれた。
ケド……
なんかちょっとイメージが湧かないのは、多分いや、確実に君の説明不足からきてるだろうな。
と、は思った。
空飛ぶ機械は、海鳥かシーホークかってのは分かるけど、長い筒状の物?速射砲のことか?それが
何本かってことは、ハープーンの発射管のことなのかな・・・
多分そうだろう。
と、は見当をつける。
見えてる発射管は、速射砲とCIWSを除けば、ハープーンだけだ。
あとは全部VLSで、艦の中に埋まってる。
「そうなのですか。これは、失礼しました。」
と、とてもすまなさそうに言う卯ノ花隊長に
「いえいえ……こちらこそ、すみません。ところで、この瀞霊廷の広さから考えてもしかしてその……第四隊しか知らないような、補給経路とか何かがあるんですか?」
まぁ、船の話題よりこっちの方がいいだろう。
とりあえず、話を変えてみた。
「はい。地下水路が。といっても、これは皆さん知ってることなんですが、ですが、全てを把握してるのは私の隊の方達だけでしょうね。」
と言ってお茶をすする。
なるほど。
と、は納得した。
確かに艦でも、CPOや曹士しか知らないような『抜け穴』があることは、曹だったときにこっそり教えてもらったから……
それと同じか。
と、は思った。
すっかりゆっくりしてしまった所為か、再び広場に戻ったときは、多分もう三時くらいは過ぎていただろうと思う時間帯だった。
「明日、流魂街へ行って見ましょう。」
と、君が言う。
「はぁ……まぁ、そうだね。」
ちょっと疲れた様子でが答える。
その様子を見抜けない君じゃないことくらい、はこれまでの付き合いで分かってる。
だけど、今は少々……彼女のあの天然ぶりに心情的な疲れが少し出てしまっていた。
まさか乗員の重みで沈む、なんてことを言われるとは思わなかったけど、全く知らない人が聞いたら、そりゃ「そう」思っても仕方ないのかなぁ
などと、考えてみる。
「今日の鍛錬は、ここまでにしましょうか。」
と言ってくれて、気を使ってくれた。
そして、懐から何かを取り出し俺の前に差し出した。
これ……
「艦内マイク?」