驚いた。
まさか、少年だったなんて……
「さっさと来い。そのままでいいから。」
と言って服を引っ張られた。
「ちょ……な?!うっわ」
グイっと引っ張られ、前につんのめる形となる。
君、笑ってないで助けてくれ。
あ、隊長相手だからそれも出来ないか……
「ちょ……ちょっと……まッ……」
待ってくれの言葉よりも先に、目の前に門が現れおまけに黒いアゲハチョウまで現れて言葉を失った。
「開錠」
そういうヒツガヤ君(すまん、漢字が思い浮かばん)の声はしっかり響いて、威厳がある。
あぁ、やっぱり隊長なんだな。
と、頭の片隅でそう思った。
扉を開けると、光があった。
こんな急に俺、死ぬの?
というか、こんなものなの?あの世って……
どうなんだ?
というか、生きながらあの世って行けるものなのか?
そんな考えが頭をグルグル回る。
まさか、こんな急に『逝く』ことになるなんて想像すらしていなかったから、余計に混乱する。
「ちょっと待っ……」
「ギャ-ギャー喚くな。霊子変換装置つけてあるから、あんたの体は大丈夫だ。死にゃしねぇからちょっとは黙れ。」
そう言われて黙る。
というより、さっきから君が一言も言葉を発していない。
ただ最近見慣れた笑顔で、さっきからずっと黙ってる。
そして、視線が合うと、少しだけ頷いた。
『大丈夫です』
なんだかそう言ってるような気がして、俺はヒツガヤ君の言うとおり黙ることにした。
ここから先は、俺の領域じゃない。
多分悪いようにはならないだろう。
そう判断して。
ヒラヒラと、蝶が先導する。
そして、光の抜けた先には青空があった。
「へー……ここがあの世か……」
と、思わずでた言葉に君が応える。
「ようこそ、尸魂界へ」
と。
「ま、お前は当分十番隊で預かれって四十六室から命令が来てるから、、後は任せる。」
そう言って、あっという間にいなくなってしまった。
いいのか?そんなんで……
「隊長も、忙しいですから。恐らく現世には、四十六室の命令であなたを迎えに来ただけでしょうから。」
それに、隊長が今回の諍い事に乗り気じゃないのは、分かってますし。
と後半の部分は言わなかった。
これは、市丸と松本の二人で解決してもらおう。
そこまでするほど、僕も日番谷隊長もお人よしじゃない……ですよ。
「とりあえず、着替えませんか?あなたのその服はここでは随分目立ちますから。ついて来てください。」
そう言って、とある建物の中に俺を連れて行った。
「なぁ、ちょっといいか?」
と、渡された着物に着替えながら言った。
「はい?」
と、扉の向こうから返事が返ってくる。
「あの、さっきの隊長さん、ヒツガヤ君って言ってたけど、どんな字を書くんだ?」
そう聞くと
「えっと……日付の日に、番号の番。そして谷です。」
「あぁ、それで「日番谷(ひつがや)」ね……」
珍しい名前もあるもんだ。
ま、漢字が分かっただけでも、今度からその漢字を思いながら呼べるからちょっとは違うだろう。
町を歩く。
所々に説明を求めながら、夕方頃には大体のことは頭に入っていた。
そして、彼等がときに口にした「四十六室」というところが、色々な命令を出しているらしいということも。
更に、その命令は絶対に変更不可だということも。
それに加えて、
「禁踏区域になっているんです。あそこは、ただの隊長クラスでは、踏み込むことも出来ません」
の言葉になんとなく俺は艦のCICを思い浮かべた。
CIC……戦闘情報指揮所
艦の乗員でも船務科の電測や砲雷科の射撃や魚雷の連中が勤める場所。
他の科の連中は、滅多なことでは足を踏み入れない、というより踏み込めない場所。
あそこは、俺が最初に配属されたところで当時上官だった青梅一曹に散々しごかれた部署でもある。
従ってあまりいい思いではないけれど、離れてみれば……またあの二十三度の温室が恋しくもある、そんな場所だ。
だからと言って一年中は居たくないというのが本音だが。
大体真夏にジャンパーを着て外に出てるってどういうことだ?と、本気で思ったものだ。
「ところでさ、さっき聞いたルコンガイっていうのは?」
ざっとしたこの世界の説明で、彼がサラッと流したその名前。
口ぶりから、どうやら街の名前のようだったけど……
「あぁ。流魂街は、この瀞霊廷の外にある、一般の人たちが住んでる街です。行って見ますか?」
と聞いてきたので。
「いや、いい。まだここに来て数時間も経ってないし、それに、この世界のことあまりまだ知らないし。とりあえず、今俺がいるこの世界のことをある程度把握してから行ってみるよ。」
そう言うと
「そうですか。」
と、すごく残念そうに答えた。
尸魂界というところにも、夜は来る。……らしい。
「とりあえず、僕の隣の部屋が空いてますから。どうぞ。」
と言われ、通された部屋は、いかにも和風だった。
というより、昼過ぎに街(瀞霊廷というらしい)を見渡してみたけれど、どこか古きよき日本家屋ばっかりだったような……
というより、洋服がこの世界には一切ないこと。出会う人(?)皆着物というより、袴だったからな。
そりゃ、あのシャツとスラックスという姿は、確かにこの世界じゃ目立つだろうな。
と思った。
それに今着てるのも確かに着物だし。
ま、とりあえず……
……寝るか。