About Death Way
I wait you.
「誰だ?」
と言いかけて、止めた。
『あなたの中に、もう一人別の誰かの声が響いたら、それがあなたの力……おそらく斬魄刀の声です』
と、今肩にもたれて寝ている彼の言葉が何故か浮かぶ。
 
 
 
 
 
『あんた、もしかして……』
その思いに、相手が応える。
『そうだ。あの時、初見だったにも関わらず、お前は内なる世界を抑えた。ならば、今度は儂の方から出向くというのが礼儀というもの。』
と、なんとも昔の言葉遣いをする男の声だった。
だが声が若いので、そこまで年老いてはいなさそうだ。
せいぜい同年か、少し上の野郎……か?
『礼儀……ねぇ。別にあの時は海の中が結構気持ちよかったから、もしかしたらって思っただけさ。それに、あのまま荒れてたら、いくらなんでも溺れるだろ?』

海を見る目は、確かだと思ってる。
風を感じる感覚も、海に生きる人間として、大事なものだと思ってる。
もし、あの時あのままだったら確実に溺れていたほどに荒れた天気になっていただろう。
自分の中かもしれない世界で溺れるほど、情けないことはないと、思ったのだ。

『まぁ良い。
 、いつでも儂はお前の来訪を待っている。次こそは、儂の名と共にあの海の上に立て』

そう言い残して、声は消えた。
「無茶言うな。大体海の上に立てるかよ」
そう毒づいた言葉は、だが応えるものは、いなかった。

 
 
 
「随分遅かったんだな。」
ドアを開けると、菊池三佐が出迎えてくれた。
部屋を見渡すと、やはりというか、いつものようにというか。
片付けがしてあって、勝手知ったるなんとやらで布団が一枚引いてある。
そこに背負っている君を寝かせると
「途中で彼が寝てしまいましてね。ついでだから、酔いを覚ましていたんですよ。」
と、半分嘘が混じった半分本当の事実を言う。
「まだ臭いで酔うんだなぁお前は。相変わらずだな、で。大丈夫なのか?」
納得した様子で尾栗が言う。
だが、最後の言葉にの言葉に含まれていた、本当の意味に対する確認が入っていた。
「はい」
その返事に、菊池が軽く息を吐く。
「夜も遅いから、とりあえず寝るか。」
と言い出して、それぞれの場所で寝る。
ちなみに、押し入れはだ。
これは、なんというか。
昔からこうなのだから、なんとも言えない。
「上借りるぜ」
と、押し入れの上段部分には尾栗が寝る。
これも、いつものパターンだ。
実はこの部屋は俺が独身時代に借りていた部屋で、今はが借りているが、昔は俺の部屋だった。
確か、が酒の臭いから逃れるために押し入れに入って、そのまま寝てしまったことが最初のきっかけといえば、そうだったような気がする。
本来なら、家主が布団で寝るのが当たり前……なはずなのだが、長年の慣習とは恐ろしいものだ。
今家主はなはずなのに、未だにこういうときは押し入れに自ら進んで入るのだから……やはり習慣は恐ろしい。
で、純粋な部屋の部分で寝る俺たちはというと、当然雑魚寝になる。
ついでに言うなら、冬は寝袋持参だ。

 
 
 
 
 
朝起きると、誰もいなくなっていた。
その代わりに、台の上には置手紙があった。

 

君へ
は押し入れの中にいるから、起こしてやってくれ。
あいつのことを、よろしく頼む。
頼むぜ、


生ゴミ類は勝手ながらもって帰った。処分できる日がないだろうからな。
ソウルなんとかって所に行って、弱音吐いて帰ってくるなよ!
お前が死神になれるかどうか分からんが、兎に角頑張って来い。
次の出港前準備が始まる前には、帰ってこいよ。

 
 
誰が何の文字を書いたのか、一目瞭然な書き方だった。
メモに書かれたとおりに押し入れのふすまを開けると、確かに押し入れの下段にさんが眠っていた。

さん、朝ですよ。」
そう声を掛けると、目を覚まし中から這い出してきた。
「おはよ」
と僕に言うとタオルを持ち出して
「ちょっとシャワー浴びさせて。」
と言って扉の向こうに消えていった。
程なくして、水の音が聞こえてきた。

 
 
改めて部屋の中を見渡してみると、カレンダーが二ヵ月も前のものだった。
ということは、二ヵ月間もの間海にいたつまりあの艦の中だった、ということになるのだろうか。
そう考えると、さんがここに『行く』と言った理由もなんとなくだが、わかった気がした。
ここは、彼にとってはほんの一瞬の休息の場なのだ。
だから自然と『帰る』という表現ではなく『行く』という言い方になるのかもしれない、とそう思った。
滅多に寄らない場所に対して、改めて『帰る』という表現は使わないだろう。

 
 
 
 
さて、これからどうしようかな……
とりあえず、市丸に連絡を入れてみようか。
それとも……
そう思ったときだった。
異様な霊圧を感じたのは。

これは……虚?

アトガキ
さてさて。
対話が始まりましたね。徐々にですが、進んでますね。
最初から8日目・9日目あたりをターニングポイントに置いていたので、予定通りっていえばそういうことになるんでしょうか。
ちなみに、押し入れがベッド代わりになるというのは、私の大学時代の経験からの実話です。
それにしても、補給長の下宿の前の主は、誰だかおわかりになられましたか?
2017/07/20 書式修正
管理人 芥屋 芥