About Death Way
They are Colanders
「何か買っていくか」
そう言って僕を振り向いたさんに、「はい」と返事をした。
その僕はというと、義骸の中に入っている。
艦を降りて、基地の外に出たら別に姿を隠さなくてもいいというさんの言葉に従ったからだ。
 
 
 
 
 
いや……普通に一般の人に姿は見えないからと一度は断ったのだけれど。
『あのなぁ、じゃ何か?俺にずっと独り言言わせて怪しい人間にしたいのか?』
と、半ば冗談半分本気半分の口調で言われ、それで折れた。
確かに、ずっと独り言を言いつづけなければならなくなるさんの言いぶんもわかる気がするから。

 
 
 
近くのスーパーに寄ってから、下宿先へと足を向ける。
その間に、さっきからずっと気になる言い方をしていることについて質問してみた。
「あの、さん。さっきからずっと気になってたんですが、どうして下宿先に『行く』なんていうんですか?『帰る』とか普通言わないですか?」
と。
アパートらしき階段を登っているその足を止めてさんが言った。
「ま……とりあえず入って。」
彼の下宿先は、二階建てのアパートの階段を上がってすぐの部屋だった。

ブレーカーを上げ、明かりのついた部屋には、何にもなかった。
というには少し御幣がある。
だけど、こうも何もない部屋というのも珍しいかな?と、率直には思った。
「とりあえず、一段落するまで忙しいから。」
といって、ボストンバックの中から服を取り出すとまず洗濯機の中に入れ、回す。
そして窓を開け、部屋の中の換気を促す。
と同時に、恐らく虫除けか何かの小さな機械にスィッチを入れそれを窓辺に置くと今度は台所 足を運び冷蔵庫だろう機械にコンセントを入れた。
そして押し入れの中から、どうしてこんな物が入っているのか謎だったが、ダンボールを出してその中から缶のお茶を数本取り出すと冷蔵庫に入れる。
一連の動作を流れるようにしてこなすの姿には、彼がとてもこういうことに慣れていることを悟った。

 
 
 
「飯作るから、座ってて」とだけ言って、買ってきた食材を袋から出す。
『手伝います』と言いかけたが、普段あまりやらない料理を手伝ったところで邪魔になるのは目に見えている。
ここは、素直に従ったほうがいいだろうと判断して、とりあえず畳の上に座った。
床が畳、というのは助かった。
艦では慣れない鉄板だったから、少し安心する。
典型的な1Kの部屋。
しばらく水の音が台所から聞こえてきたかと思ったら、今度はビニールの音が聞こえてきた。
そしてまた水の音。
やがて切る音が聞こえてきたら、ジュッという野菜が焼ける匂いが漂う。
どうやら野菜炒めを作っていたようだ。
「即席で悪いけど」
と言いながら台の上に置く。
でも、『即席』という割には美味しそうだ。
しかし、少し気になることもあった。
「いいんですか?俺まで……」
そう言うと手をヒラヒラさせて
「いいっていいって。んなこと気にすんな。いつもはあの三人が来て宴会になるのが、下艦後の行動パターンその一。今回は一日俺が遅れて下艦したから何時ものようにはならなかったけど」
と、まるで気にした様子がない。
言葉の中に、の心配していた問の解答が明確に入っていた。
「遠慮せずに食ってくれ。……君、飲める?」
急にそう聞かれるとは思ってなかったが思わず顔を上げる。
その時下の方で車の止まる音が響いた。
「酒だよ酒。言っとくけど中途半端だと、『飲める』うちには入らないからな。言うなら今のうちだよ。」
と、答えを急かす
「はぁ……まぁ、多少なら……」と答えた。

「というわけですよ、お三方。彼に絡まないでくださいね。」
と、扉の方へを体を向けてそう言った。

 
 
 
「よ。」
が開けた扉から入ってきたのは、下艦直前に会った二人ともう一人眼鏡の男の人だった。
確かどこかで見たような顔だったけど、それが何処で見たかまでは思い出せなかった。
「は……初めまして。といいます。」
少し緊張しながらそう言うと
「初めまして。多分から聞いてると思うけど、俺は菊池雅行。後の二人には、もう会ってるんだろ?」
といって後ろの二人を少しみて言った。
「はい。艦でさんの部屋で……」
「そうそう、ずっと気になってたんだけど、市丸って奴も銀髪だったけども銀髪だよな。なぁ、死神ってみんな銀髪なのか?」と、どこかで聞いた台詞を尾栗さんが言う。
「え……っと……」
と、いつかの時と同じようにしては答えた。

 
 
 
「死神か。実際見るまでは信じてなかったんだがな。」
酒を片手で持ち、窓にもたれながらそう言うのは角松二佐だ。
結局、一番最初に酔いつぶれたのは君だった。
そりゃなぁ……飲む量が半端じゃないこの三人相手に、いきなりはキツかったか。
と、は苦笑するしかない。
「お前本気でその……ソウルなんとかって所に行く気か?」
と、そう言ったのは菊池三佐に毛布を掛けていた尾栗三佐だった。
当の俺はというと、やはり急な酒の匂いに毎度のことだけど……酔っていて床にゴロンと転がっている。
「多少の不安はありますが、なんとかなるんじゃないですかね。」
と顔だけ三佐に向けて言った。
「ま、艦で一番長くを見ていたが言うんだ。なんとかなるだろう。」
「っていうより、なんとかしないとな」
と少し前向きに、発言を尾栗三佐が訂正する。
「えぇ。それにどことなく彼らがやってることは、対象は違いますけど我々と似てるんじゃないかなって、そういう印象はありますから。」
というと、それぞれ同じ反応を示した。
「ほう」
「へぇ」
と。

 
 
「つまり守るものが違えど、やってることは同じ。脅威に対する……兵力。そういうことだろ?。」
台に腕をついて寝ていたはずの菊池三佐がそう言った。
「雅行、おきてたのか。」
尾栗三佐が驚いたように言うと
「俺があれくらいで本気で酔えると思ってたのか?」
と、静かにそう言った。

アトガキ
そりゃなぁ……「多少」は飲めるうちには入らないのが自衛官の宴会事情。
そりゃ、勝てないよ……
それにしても補給長は菊池が寝てないことを、天然で気付いていたらしいですね。
2017/07/20 書式修正
管理人 芥屋 芥