「びっくりした……あんなに居るとは思わなかったよ……」
そう呟いてとりあえず階段の前で考える。
まず最初にやるべきことは、市丸が見つけたという「」という人と会ってちゃんと説明をすることだ。
と、は思う。
恐らく向こうにちゃんと市丸は説明をしていないはずだからだ。
大体「自分は死神で、お前を連れて行く」なんて言って警戒しない人間はいないだろうし、しかも「殺さないから大丈夫」と言ったところで疑われるのは目に見えている。
尸魂界にも殺さずに足を踏み入れることができる技術がある、なんて……
そんなの急に言われても信じられないのが当たり前だ。
シン……
目を閉じて霊絡を探る。
市丸から僅かに彼、という人間の波動が出ていたからそれを感覚的に思い出す。
この舟に乗っている人間の中からそれを探し出すことは、にとってはしごく簡単なことだった。
「見つけた」
そう呟いてそれを掴むと、それの先へと足を向ける。
どうやら階段の上の方から霊絡は伸びているようだ。
は一気に階段を抜けるとそのまま霊絡に沿って歩を進める。
やがて、一つの部屋の前には立った。
「ここか……」
だが、踏み込めない。
どうやって説明しよう……
考えあぐねている間に、ドアが開いた。
「お?」
「あ……」
彼は、明らかに自分を見て言葉を発した。
なるほど。これほど能力が高ければ市丸が目をつけたのも頷けますね。
と、冷静な零番隊の隊長としての思考が一瞬駆け巡る。
「えーーーっと……どうなってるんだ?」
恐らく混乱しているのだろう。
だが廊下の端から
「! 何をしている。さっさと持ち場に行かないか!」
との声に
「了解。砲雷長!」
というよく分からない返事をして
「ちょっと……今から通常業務だから用件は後にしてくれ」
と目の前にいるにそう言って足早に階段を下りていった。
残されたは、閉じられた部屋の入り口の前で一息ついた。
とりあえず部屋は分かったのだし、直接本人の顔も見た。
いつでも来れると判断して、邪魔にならないようには舟の外を目指してみることにした。
上にいたときもそう思ったけれど、やはり下の方が潮の匂いがきついし、時折水しぶきが顔に当たる。
空も晴れていて、なんだか気持ちいい。
手すりに手をついて、水平線を眺めてみた。
なにやら舟がもう一隻見えたので、疑問に思い空へと一歩足を伸ばす。
「なるほど……四隻が縦に並んでるのか」
夜に来た時は見えなかっただけで、後ろに一隻・前に二隻いるのがハッキリと分かる。
そして、自分がいる舟は三隻目を走っている。
それにしても変わった舟だ。と素直には思った。
しばらくそうやって上空を歩いていたが、舟の速さにこれまた驚いた。
「速いな……」
といって、元の舟に着地し、歩き出す。
「それにしても随分ごつごつした舟なんだなぁ」
と言いながら、空が見える通路を歩いていく。
この舟は、突起物や何やらが何気に多い。
自分はすり抜けるからいいとしても、普通の人間なら当たればさぞかし痛いだろうに。
と、素直に思う。
「この筒、なんだろう……」
見上げて、首をかしげた。
それが127mm砲だとは全く知らないにとって、それはただの長い筒でしかない。
だがそれよりも、舟の切っ先の方に視線を向けて、そこに立って空を見上げた。
「気持ちいい!」
と思わず言ってしまう。
頬に当たる風のなんと速いこと。
ここにあの副隊長が立ったら一発で気に入りそうな、そんな場所だ。
さて、あらかた外を見回したは、今度は舟の中へと足を向けてみることにした。