上がこの場に居ないって平和だなぁって思う。
 あぁ。このままこの平和が続けばいいのに、状況はそうはさせてくれない。
 あの時、どうしてハンジさんの生け捕り作戦、了承しちゃったんだろうと。
 兵長は断ってほしそうだったし、てかあの後に正式に断れって言われたし、俺も断れたはずなんだけど。
 なんで受けちゃったかなぁ。
 あんな大勢の目の前で大立ち回りしたら、そりゃぁ目立つに決まってるじゃないか。
 それに、あれから班員たちの俺を見る目が変わってるのも辛い。
 団長と兵長に連れまわされてあまり詳しく見てないから分からないけれど、明らかに変わってるんだよな。
 今までの俺じゃ、やっぱりダメか?
Attack on Titan
04.Goodbye my Holiday,Welcomeback to the BigTreeForest
 調査兵団の二人に接触許可が下りたとかで、再び審議所に向かう団長と兵長の二人を見送ったは久しぶりの休みを満喫した。
(ヨッシャー! 自由だぁぁ!!)
 しかしやることは溜まっている。
 それらをさっさと済ませて、は久しぶりに休みを満喫した。
 巨人が大好きすぎて、奇行種とも呼ばれているハンジの隊は生け捕った巨人の実験準備に忙しく、初対面で人の匂いを嗅いでは鼻で笑うミケは正直にはよくわからないが、こちらに干渉してくることはない。
 だから久しぶりに街に出るのも良いし、このまま安眠するのもの自由となるわけだ。
 兵長のいない休みなんて貴重だし、「抜く」のも良いかなぁと思っていると不意にドアがノックされた。
「はーい、誰ですかー?」
 居留守を使おうとしたが何となく出て見ると、制服姿のリヴァイ班の面々が立っていた。
「どーしたの……?」
 驚いたが問うと、リヴァイ班唯一の女性ながらも討伐補佐数は群を抜いて多いペトラが一歩前に出て申し訳なさそうに告げる。
。あなたの実力は先日見せてもらったわ。ごめんなさい。正直、名ばかりの副長だって思ってたから、あなたのこと見くびってた」
 そーいや、彼らと班を組んでからと言うもの、最初の時にリヴァイからがこの班の副長という紹介があっただけで、その後は色々なところに借り出されていた、ということを思い出す。
 行き先はいろいろだったが、主にエルヴィン団長と『人の奇行種』たるハンジの隊に呼び出されていたように思う。
 実は先日の壁外調査も、だけ別行動だったのだ。
「で? 俺の嫌いな呼び方してくるってことは、それなりに何かあるんだろう?」
 スッと目を細めて彼らを睨む。
 普段の明るいは影に潜み、まるでリヴァイのような殺気が漏れる。
 ディープブルーの目に酷薄の色が宿る。
「我々は喧嘩を売りに来たんじゃない。訓練をつけて欲しくて来たんだ」
 グンタが慌ててフォローに回る。
 その瞬間、殺気は何処へやら。
 いつもの『情けない』がそこにいた。
「やめて! 俺の休みを奪わないで!」
「心の声がダダ漏れだ」
「うるさいオルオ! 俺は掃討伐からこっち、ずっと働き詰めなの! あの兵長と! ずっと! だから今すっげぇ休みたいの!!」
「兵長と仕事。なんて羨ましい」
「エルド! じゃぁ変わってくれ!」
「無理だ。兵長があなたを指名してる以上、代わることなんて無理だ」
「無理って2回も言うな!」
「あんただってずっとって2回言った!」
 まるで漫才だ。
 いや、漫才って何だ?
 とにかく、この言い争いは不毛と判断した
「……あのさ。君らに教えることなんてもうないと思うんだけど?」
 と切り出す。
 何度も壁外調査に出て生き残ってきた兵士たちに、今更何をする必要があるのか、ということだ。
のこと、聞いたわ。びっくりした。だから、その、ごめんなさい」
 謝るペトラには、というよりは女性に弱い。
 ただしハンジは除く。
「何を聞いたか知らないけど、それは受け取っとく。……訓練所の手配は?」
「終わってます」
(手際がいい事で)
「準備できたら行く。ちょっと待ってて」
(さようなら、俺の休み)






「リヴァイ班?」
 完全武装した自分たちを好奇な目で見てくる視線。
 特にの姿は人目を引くらしく、
「ホントだ。あ、さんがいる!」
 妙に彼に懐いた感のある兵士が駆け寄って来て
「訓練ですか?」
 と聞いている。
 聞かれた彼は
「うん、まぁね」
 と、力ない声で返していた。
「どうしたんです?」
 心配そうにする兵士に
「なんでもない。それよりアルバン、助け……」
 助けを求める姿がなんとも情けないから、思わずその注意を引くように大声で言ってしまった。
「おい! 行くぞ!」
「はいはい。じゃね」
 分け隔てしない気の抜けた態度が、巨人討伐においての実力が兵長に次ぐものだと言う事を忘れさせる。
「もう少し威厳のある態度取れないのか、あんた」
「無理です」
「即答かよ」
 フランクな態度、威厳のなさが兵団内実質No.5だということを忘れさせる。
 馬小屋につくまでの間、自分はそんなことを考えていた。
 おまけに馬の世話をしているネスさんまでが、一人でいるについて感想を述べている。
「珍しいな。お前が一人なんて」
「上がお出かけだからね。ネス、馬借りてくよ」
 そういや、今日リヴァイ兵長が何をやっているかを知っているのは、こいつだけだったな。
 と思った。





 訓練用に使っている巨大樹の森まで来て馬を繋ぎ、これから行う『訓練』については説明した。
「ルールは簡単。俺が森の中を行って帰ってくる間に捕まえられたら君達の勝ち」
「俺たちが負けたら?」
「明日、午前中だけで良いから俺と変わってくれ」
「それってリヴァイ兵長が黙ってなくないですか?」
 神経質な兵長のことだ。きっと怒るに違いない。
 そうして心配したのにもかかわらず、
「それ以上に俺は寝たい!」
 と叫んだこの人は、本当はただの馬鹿なのかもしれない。
 そんな考えが頭をよぎる。
「じゃぁ俺たちがに勝ったら?」
「俺が四人に今日の訓練後の一杯奢るのと、今日言ってた威厳のある態度取れっての、明日一日頑張って見るってのはどうだ?」
 周囲を見渡してドヤ顔で言うが、それはどう考えたって今日の一杯しか魅力がないようにも思える。
 が、負けるのも癪。
 ゆえにこの勝負は勝つしかない。
「じゃ、始めよっか」
 それが合図だった。
 あっという間に森の中に消えて行くを四人が追う形となる。
 鬼ごっこが、始まった……ハズだった。
「速い!」
「どこ行ったの?!」
「いない!?」
「手分けしよう!!」
 班を散会させ、を探す。
 だが、そんな自分たちを尻目に彼は『そこ』に居た。
(おーおー、頑張れよー)
 その様子を一人眺めるは、元の場所に悠々と戻って行った。




 結局、いい加減騙されたと気づいた自分たちが戻ってくるまで、約一時間を要した。
「ズルイぞ、オイ!」
「奥まで言って帰ってくるとは俺は一言も言ってない」
 それは詭弁だが、確かに言わなかったのも事実。
「あんた最低だわ」
「何とでも言え。俺の勝ちは揺るがない」
 そりゃそうだろうな。
 この訓練のルールは彼が『森の中を行って帰ってくる間に捕まえること』なんだから、最初から森に入らないが正解。
 故に、森に入って捜索した自分たちは最初から負けていたのだ。
「クソ、負けた」
 というと、満足そうに
「そうそう、素直に認めるのが一番だ」
 と言われた。
「あんたの言葉に惑わされた」
「最近の巨人って、存在だけじゃなく言葉でも惑わしてきてるからなぁ」
 と、視線を森のほうに向けて呟く。
「!?」
「それって……」
 あの『彼』のことか!
 と、問い詰める前にが告げた。
「さてと、休んだら巨人討伐の訓練いってみようか。オルオ、グンタは中のハリボテをよろしく。ペトラとエルドは俺と来い」




 ふざけてるようで、実力は本当に申し分ないのだと、頭より先に体が理解した。
 兵長とは全然違う。
 うまく言葉に出来ないけれど、一緒に立体起動装置で跳んでいて気持ちが良い。
 動きをトレースするだけでも、最短ではないが視野が確保出来るルートを選んでるのが分かる。
(?! もう見えた?)
 訓練用の巨人がよく見える位置の取り方が早い。
 見えるから、行動もその分早くなる。
 こんな位置にアンカーを刺すのは、きっとこの人だけだ。
 先輩達の言葉が、不意に蘇る。
――実際、アイツがいる班の死者は少なくなるから、引き抜きたいと思ってる奴は多いよ。私もその一人だ。
 と言ったのはナナバさんだ。
――本気になったの項の削ぎ方は真似出来ない。
 と口数少なく言ったのはミケさんだった。
――ホントは慕ってる兵士は多くて、近づきたいって思ってる奴らも多いけど、リヴァイ兵長がいるからなぁ。
 とボヤいたのはネスさんだ。
 その慕ってる兵士、戦えなくなって後方に回っている兵士含めて、の多くが彼に助けられた者たちなのだと。
 中には、巨人の腹の中から助けられた者もいるって話だ、とも教えてくれた。
――の凄さは、実戦でしかわからない。
 とは、最後に話を聞きに行った団長の言葉だ。




 ザシュッ!!!!




 それは、一瞬だった。
 四人は、の体が下から上へと流れるのを、半ば呆然とした様子で見つめるしかなかった。
 気がついたのは、ドサッ!! と鈍い音を立てて、模型巨人に縛られていた模型肉が丸ごと落ちた時だった。
「あ! ごめん。俺がやってたら訓練にならないね。今のは無しで! ……って、君ら聞いてる?」
 一段高い枝の位置に立つから声がするが、そんなのはもう四人の耳には届いていなかった。
 代わりに、ミケ分隊長の言葉が四人の中で蘇っていた。
――が本気になったときに良くやる巨人の項の削ぎ方は、俺には真似できない。
――それは、巨人の首と頭の境目にアンカーを刺し、体を縦回転させて完全に下ろし、その反動で浮かび上がりながら削ぐからだ。
――言葉で説明するとそれだけだが、それがいかに難しいか。
――上からではなく、下から削ぐやり方は、俺には出来ない。
アトガキ
ヨーヨーの原理ですね
2017/07/26 up
管理人 芥屋 芥