討伐作戦のときのあのクソメガネが気に入らない。
 生け捕り、は別にいい。必要なことだ。
 が、あいつはコイツを使ってやった。
 それが気に入らない。


 コイツは俺の部下だ。
 それだけは譲らない。
 だから服を着替えさせ、事務作業の手伝いとして部屋に閉じ込めた。
 息苦しいみたいだったが知るか。
 お前は、お前自身が一体誰の部下だったかよく理解したか?
 コイツには肉体的な痛みは効かない。
 だから精神的に痛めつける。
 俺以外、見えなくなるまで。
Attack on Titan
03.You think so too but Different I
「起きろ」
 寝たのは椅子の上だった。
 朝起こされたら、体中がバキバキだった。
「んぁ?」
 マヌケな声を出したに、容赦のない殺気が飛んで来る。
「オイ、起きろ」
「ッ!? 起きます! 起きます!!」
 慌てて上体を起こし周囲を見渡すと、既に制服に着替えた兵長が立っていた。
(しまった!)
「聴取ですよね。着替えて来ます!」
 ガタっと音をさせて椅子からはね起き、自分の部屋に逃げ帰る。
 といっても、の部屋はリヴァイの個室から一番近いから逃げるに逃げられないのだが。
 何でこの配置なのかと、昔からいくら抗議しても変更されないので今は諦めている。
(いつの間に寝てたんだ!? 俺!!)
 と思う暇もない。
 追撃はすぐに来る。
「おい、さっさとしろ」
「シャワーくらい浴びさせて下さい!」
 太陽の加減からいって、まだ集合時間までには余裕があるはずだ。
 必死な願いが効いたのか、気配は消えた。
 は急いで準備すると、シャワー室に駆け込んだ。



「さて、行こうか」
 エルヴィンが審議所に向かう馬車に乗り込むその後ろを、さも当たり前といった様子でリヴァイも続く。
 そんな中、ハンジが疲れた顔で馬を引くに声をかけた。
さぁ、なんだか疲れてるねぇ。どうしたの?」
 顔を上げた彼は、本当は昨日から今日の朝にかけて起こったことを言おうと思っていたのだが、彼女の後ろで睨んでるリヴァイに気づいて慌てて口を塞ぐ。
「い、いえ! なんでもありません」
――こええ! 何か昨日から凄ぇ怖い!



 審議所に向かう馬の上では状況を整理した。
 トロスト区の門はもう使えないこと。
 開拓したルートが全部ダメになったこと。
 その時落とした命も、なんだか無駄になった気がして気分が沈む。
 でも、これからのことを考えると何かが見えるような気がする。
 でもまだだ。
 まだ足りない。
 と何かが告げる。
 でも何が? と問うとソレはそっと去っていってしまう。
 まだまだってことか、と体のどこかが理解する。
 この不思議な感覚のことを、は誰にも言っていない。
 言ったところで理解してもらえるはずがないからだ。
 そんなことをつらつら考えながらは馬を歩かせて進み、ウォール・シーナを抜けて王都にある審議所の近くまで来ると馬を預け、扉をくぐった。
 調査兵団からは団長、兵長以下分隊長クラスが、駐屯兵団からはピクシス司令以下、あれに関わった兵士達が、そして憲兵団からはナイル団長はいないけど監査・調査に関わっている兵士が参加した面子は錚々たるメンバーだった。
(すげぇな)
 改めて見渡しては思う。
 不意に、この中に自分がいるのが可笑しく思えた。




「エレンは、いえ、エレン・イェーガー訓練兵は……」
 と、最初に発言したのはミカサ・アッカーマン訓練兵だった。
 出会いから一緒に暮らしていた過去、彼のミカサから見た視点が語られた。
 一緒に育っているだけあって話は長かったし、彼女の視点はどこか私情が入りすぎているように思えたが、それでも必要だから最後まで聞く。
 そして彼が調査兵団希望だという新事実に、は思わず顔をエルヴィンの方へ向けると、彼が内心嬉しがっていることがなんとなくわかってしまった。
 そしてその隣に立つリヴァイはというと、とても興味なさそうに話を聞いているのが見えた。
 審議は、誰が何の質問をしているのか分からないくらい白熱し、昼に一度終了して午後からの再開が言い渡された。
 その質問は主に憲兵団と駐屯兵団からのものだったけれども。
(せめて一人につき一つにさせればいいのに……)
 もっと有意義なものを期待していたは、一人その落差に落胆していった。



 は王都を散策して、市場で適当に買ったパンをモシャモシャ食べる。
(今からでも帰ってしまいたいなぁ)
 と、空を見上げて思った。
 午後からはと言っても、もうすでに午後なのだが、アルミン・アルレルト訓練兵の聴取が始まる。
 彼、エレン・イェーガー訓練兵の戦術的価値を説き、ピクシス司令を納得させたのは彼だと聞く。
 審議所に戻ったは、ミカサの時よりも少し深く話を聞いた。
 が、彼も幼馴染ゆえか、印象としてはあまり代わり映えがしなかった。
 新事実は、彼、エレンが砲弾を防ぐために出現させた巨人の中で言っていたという、彼の家の地下室の話だけだった。
 そして彼は記憶を失っており、その部屋を出入りしていた父親は現在は行方不明ということくらいだ。
 その内容が、おそらく一番質問を集めただろう。
 巨人の謎、と聞いて今度は調査兵団からも声が上がる。
 とはいえ、憲兵団と違い口調は穏やかだったが。
(まだ15歳な子供を寄ってたかって威圧することに、ホント何の意味があるんだろうな)
 でもエルヴィン団長の声でここに来ている以上、話を全く聞いていませんでしたなんてことはできない。
 相変わらず憲兵団が五月蝿いけれども。
(真剣に聞いてる振り、聞いてる振り……って兵長、本気で興味ないんですね?)
 なんとも詰まらなさそうにしているリヴァイと不意に視線が合って、は彼に苦笑いを返した。





 結局得られた情報といえば、彼、エレン・イェーガー訓練兵が一貫して調査兵団入団を希望していたことと、地下室と彼の父親の謎だけだった。
 たったそれだけのために、あんな大掛かりなことをする必要があったのだろうか? という思いが拭えない。
 しかも、彼と交流のあったもの全てに話を聞いているという。
「地下室に行けば巨人の秘密が分かるってことか」
「あぁ。彼の家はウォール・マリアのシガンシナ区にあるんだろう? ならあまり今までと変わらないな」
「今回のように彼を使えば良いんだよ!」
 兵団本部に帰ってからも、団長の執務室で喧喧囂囂の議論が交わされる。
 そんな中、
(これ後で報告書に上げるんだろう? だったらそれでいいじゃん。あぁ帰りたい! 帰りたい!!! ベッドで寝たい!!)
 と思いながら、議論を交わす彼らから少し離れた戸口に立つリヴァイの隣に立っている。
「嘘かもしれないぞ?」
「いや、切迫した状況下で嘘をつくとも思えない」
 そんな中、団長が壁に背中の預け、静かに佇んでいたリヴァイに意見を求める。
「どうだ、リヴァイ」
 シーンとする一同にサッと視線を通してから彼は告げた。
「奴との接触許可はどうなった?」
 と。
 その問いかけにエルヴィンは静かに首を振る。
「受理はされたが、明日以降になるそうだ」
 そういや、帰りにそんなことをやってたな、という感想をは持った。







 結局、奴が嘘をつく理由はないと言う結論に至る。
 でも誰も彼もがそれに納得したわけじゃない。
 そのことを、こいつは軽々と見破ってくる。
「不満そうですね」
 部屋が同じ方向だから、自然に横に立つことになる。
 当然話す内容も、今話題の奴の事になる。
「お前はどう思う」
「俺ですか? そもそも俺がなぜ参加出来たのかが謎なんですけど……」
「そんなことはどうでもいい。俺は、お前の所感を聞いている」
 逃げようとするの言葉を両断して囲い込む。
 そもそもは兵団内において、本人は自覚してないだろうが実質No.5の立場であり、実戦においては実力・殲滅力共に俺に次ぐNo.2だ。
 そんなヤツを参加させない訳にはいかなかったのだろうが、考えてる内容は俺に近いという確信があった。
 やがて言い難そうに、周囲に視線をやってから答え始める。
「今日の彼らの言葉は、正直参考程度にしかならないと思ってます。って言うか、兵長あんまり真剣に話聞いてなかったでしょう?」
 それどころかどんな奴らだったかもあまり覚えてない。
 それほどに退屈した時間だった。
 時間の無駄とも言える。
 あぁいうのは、まさしく憲兵団かエルヴィンに任せればいい。
「御託はいいから答えろ」
「団長や憲兵団の人達は違うんでしょうが、俺はやっぱり彼が何をしたいのか、が大事だと思うんです。彼が人類の役に立つ云々の前にね」
 やはりな。
 散々エルヴィンが振り回しても、コイツは俺と同じ答えを出す。
 だからコイツは手放せない。
 手放すつもりもない。
「それに15の子供威嚇して、大人気ないなぁって思ってましたよ」
「……そうか」
 そこまでは考えなかったな。
 と、奴らと同じ年齢の時にはすでに立派な地下のゴロツキだった自分だ。
 あんな威嚇で腰が引けているようではやっていけなかった。
 その点ではの意見は甘いのだが、同じなようでやはり違う人間なのだということも見せ付けてくる。
 だから面白い。
「じゃ、おやすみなさい」
 そう言って自室に戻ろうとするの腕を取る。
 自然と取った自分の行動に驚いていると
「兵長?」
 疑問符が浮かぶコイツの頭に手を伸ばして
「ゆっくり休め」
 と言って分かれた。
アトガキ
ミカサがエレンに執心なように、もしかしたらリヴァイも誰かに執心だったらいいな、とかという夢でやってます
2017/07/23 up
管理人 芥屋 芥