SuperStrings Alchemist
61.nonsense
答えが見えたら後は簡単だった。
この白い帯のようなものを辿れば良いのだから。
とは言え、その辿り方はやはり通常に考えるよりもやはり異常で少々頭が混乱する代物で、三人はその度に足を止めさせられた。
「これで何度目になるかしらね」
空を見上げたラストが頭に手を置いて嘆く。
道は道にあらずの気持ちでここまで白い帯を辿ってきた。その作業は、自分たちがいる通常の空間では考えられない辿り方だったけれど。
「さて、今度はどこに隠れているのかしら?!」
言葉の最後に爪を伸ばし、地面に突き刺すが手ごたえはない。
「今……回は地面じゃ……なイみたいダ」
珍しく口を開いたのはグラトニーだった。
今までは、ほぼ地面の中に埋まっていた彼によって隠された白い道筋が、今は違ったようで。
「信じられないわ。食べ物の中だなんて」
と、グラトニーの持つお菓子の中にそれがあった。
「グラトニー、もうそれは諦めなさい」
彼の持つお菓子を今食べられては今度こそ道が消えてしまう。
しかし、彼がそれを理解できるかどうかラストは不安だった。
この大食漢は、確かに味方だし力こそ強いが……
食べ物に対しては異常なる執着力を持つ。
それが今、露骨に試されている。
現に彼は今、迷っていた。
「ウッ……ウゥ……」
その食べ物に足を入れないとラースの命令が実行できない。しかし出来るなら食べたい。
その二つの気持ちが同時に襲ってくる。
食べたい……食べたい……タベタ……イ……
「グラト二ー、ダメ!」
欲望に勝てない彼を、ラストが爪を伸ばしてその食べ物を奪う。
「……ウゥ……ラ……スト」
恨めしそうに彼女が取り上げた食べ物を見て、抗議の声をグラトニーが上げるがあっさり却下された。
「仕方ないでしょう。そこじゃないと通れないみたいだし。それに、ラースの命令に逆らっても良い訳?」
それを、特に最後の台詞にグラトニーが項垂れる。確かにラースを怒らせては怖い。
さらに彼は元々怒りっぽくまた自分たちと違い成長するという、自分たちとは違った特殊な体をしているために『父』もまた彼をリーダー的な存在として扱っている。
成長するということは、あの男=と同じであることを意味しているから、彼の特殊性は本当に特別といえるほどに貴重だった。
「ワ……かった……」
納得したのか、グラトニーが持っていた食べ物……どうやらクッキーらしきモノを地面に置くと、まず最初にエンヴィーが足をその上に乗せた。
クッキーに足を乗せるということ。
なんというナンセンスな表現なのだろう。
しかしそれが現実なのだから仕方が無い。
そしてそのクッキーはアッサリと彼らの足をすり抜けさせるのだ。
「ホンット、馬鹿みたいな世界だわ」
ラストが本当に忌々しそうに吐き捨てると、「行くわよ、グラトニー」と彼を促してクッキーに足を滑らせる。
当然滑らせ、向こうの(全くもって信じられないが)連続した世界にすべり出るまでには一瞬の差がある。
その一瞬の差を狙って、グラトニーが既に用済みになったクッキーに手を伸ばした。
「ト……レタ」
嬉しそうに、エンヴィーがラストがそして自分が踏んだクッキーを抱えてバリバリと食べ始める。
「全く、しょうがないわねぇ」
そんな様子のグラトニーにラストが呆れ気味に感想を述べるが、そこには仲間としての呆れとも許しとも取れる、いつもの彼女らしくない声音が含まれていた。
その様子を見て、エンヴィーが面白おかしく茶化す。
「グラトニーには甘いよねぇ、ラストはさ」
「そんなこと無いわよ。って、ここさっきのカフェの通りじゃない。戻ってきたわけ?」
茶化されたラストが話を逸らすように周りを見ると、見慣れた光景が広がっていた。
通りを挟んだ向こう側に見えるのは、先ほど自分たちがこの道筋を解くキッカケになったアパートとその隣に建つオープンカフェがあったから。
「戻ってきたみたいだけど、でもさ。場所違うじゃん。ってことは進んでるのかもね」
とエンヴィーが怪訝な表情を浮かべているラストに向けて言う。
「本当に進んでるのかしら。まぁいいわ。次探しましょ」
半信半疑な彼女はそう言って地面に爪を突き刺した。





「来る」
短く告げられた言葉の意味が、直ぐに理解できた。
何が来るとは二人とも聞かなかったし、さんも言わなかった。
この状況で来るって言われたら、追って来る敵しかいない。
スッとエドが胸の前で手を合わせる動作をする。
いつでも錬成できるように。
アルは地面に錬成陣を書いて準備し始める。
は、虚空の一点を見つめたまま動かない。
多分この人には準備なんて必要ないんだろうな、と思ったその時だった。
どこから来たのか分からない。
イキナリ目の前に現れたから。
しかし、冷静になったのは向こうの方が一足早かった。
「あら。やっと追いついたの……ねッ!」
ドガッという派手な音を立てて爪が伸びてくる。
と同時に、目の前にいるのは……
さんッ?!」
さんが二人いる?
違う。目の前にいるのはッ!
「オ……マエクッテ……モ、オイシクな……い」
グワァ!
偽者のさんに気をとられていると目の前が、これ、口?!
「アル!」
「坊やの相手はアタシよ」
クソ、弟が危ないってんのに!
焦りにも似た思いが頭に浮かぶその中で、やけにノンビリとした声が耳に入ってきた。
「……やれやれ、自然と相手が決まっちゃった?」
「そうだね」
二人の=が会話をしている。
声も姿も全く同じな二人。そっくりな双子。そう思えるほどに。
しかし、どちかが本物でどちらが偽物かはハッキリと分かる。
一人の表情が、本物ならば絶対しないであろう歪んだ笑顔だったからだ。
「エンヴィー。悪いけど、俺はその格好されるの好きじゃないって言わなかったっけ」
あの時言ったはずの言葉を、再度自分の姿をしている彼に告げる。
「そうだったっけ」
とぼける彼に、表情を無くしたが告げた。
「悪いけど、急いでるんだ」



「……な……ニヲ……した」
何をされたのか分からない!
そう思えるほどに、ソレは一瞬だった。
何かが来るとは思っていた。
あんな表情をした彼の言葉に嘘が無いことは今までの経験から分かっていたから。
「何も。ただ、見えないところを移動させただけ。君たち三人の相手をしている時間は無かったし、それに、コレで貫かれなかっただけでも良しだと思わないと」
それは、余裕ある者の言葉。
彼の右手に握られているのは……もしかして……
そこに思い至ったときだった。が、その答えをエンヴィーに耳打ちしたのは。
「……」
彼がエンヴィーに何を言ったのかは分からない。
ただ自分たちは今、体が繋がっているにも関わらず中はバラバラにされているということ。
繋がっているように見えるのは見かけだけで、実際は……!
こんな残酷なことがあるだろうか。
こんな……信じられないことがあるだろうか。
生きているようで殺されている。
殺されたようで生かされている。
そんな中途半端な状態にさせられて声を出すこともできない。
息をするのが精一杯だ。
「き……みは、ど……うして……」
辛うじて喉が繋がっているのだろうか、エンヴィーがに言葉を投げる。
「君たちの場合、殺すと後々大変なんだよ。特にラストは、命が後幾つ残っているかは分からないけれど、それでも全部を消すには時間がかかるし。それにホラ。もう直ぐ、この力も崩壊するからさ」
と言うと、エンヴィーを越えたその向こうを見た。
「……ほう……かい?」
「今は、電磁気力の段階。強い力までは案外解放しやすくてね。それは君がやっただろう。だから、他の三つの小さくそして巨大な崩壊を俺が引き継いだ。まさか、自分のやっていたことも知らなかったとか。そんなこと無いよね、エンヴィー?」
イラつく話し方だった。
彼がワザとそれを演じていることは分かっているが、それでもイラつくことには変わりない。
「ほら、アレが電力の崩壊。そろそろ君たちにも普通に見えてくるかな」
最後の方は、後ろに立つ兄弟二人に向けた言葉。
そこで二人は、あの白いモヤの正体が、なんとなく見えた気がした。
アトガキ
ふう・・・
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管理人 芥屋 芥