SuperStrings Alchemist
58.nays Predict
パンッ!
手を叩き、力を循環させて少佐は近くにあるレンガ造りのアパートの外壁に触れる。
街が見える。
……視点がおかしかった。
確かにさっきまで自分たちは石畳を踏みしめていたは……ず!?
「さぁて、何があっても驚くなよ。12に分割された次元が動くから。あ、驚きすぎて隙間に落ちないでね。と言っても、誰も落す気はないけれど」
少佐の声が下から響いたとき、混乱していた頭が正常に戻って周囲を冷静に見渡し始める。
組替えるって、こういうこと?!
「うわぁぁぁ!!」
目の前の視点が変わったことに、自分でも情けないって思う声が出たけれど、それは仕方が無い。
何故なら自分は今、地面に平行して何も無い空間のところに横向きにどうやら平然と立っているらしい。
例えば、そんな体勢を普通にやったとしたらきっと地面に落ちるんだろうなとか、寝てる体勢なんだから横になっている感覚になるんだろうなとか。色々あるだろう。
なのに、そんな意識が全く沸かない。こんなにも不自然な視線なのに、体の感覚に不自然さが全く無い。
自分はどうやら、本当に横向きに立っているらしい。レンガ造り 建物の壁がまるで地面のように下に見えるってどういうことだろう。そんな疑問も沸かないくらいに自然だった。
信じられないけれど、どうやらそういう事らしい。
そして少佐の近くに立っていたはずのアルはかなり離れたところの上空の空を踏みしめて上下逆さまより少し斜めの体勢で立っている。
「少佐、これ一体どうなってるんですか!?」
混乱しながらも、アルが一瞬で移動させられた空から何かを叫ぶがそれに頓着することなく淡々と自分の言葉を少佐が紡ぐ。
「ちょっとそのまま動かないでね。それで真っ直ぐになってるから。それとアル君。悪いけれど耳元で大きく叫ばないでくれないか。耳がキンキンする」
耳……元?
ちょっと待てよ。今、耳元って言った?!
どうして耳元でアルの声が聞こえるんだ。聞こえるはずない。あんなに離れてるのに!
第一俺の方がアルに少しだけ近いところに居るはずなのに彼の声は微かにしか聞こえなかった。そんな状態だっていうのに、少し離れた地面に立ったままの少佐には大声みたいな音量で聞こえただって?
嘘だ。こんなこと。
信じられない。
ほんとに……ま……魔法だ。こんな……こんな錬金術が本当にあるのか?
「組替えるって、一体何を組替えたんだ!?」
エドが、横向きに歩きながらの立つ地面のところまで歩いて聞いた。
横向きに、地面に近づくってちょっと怖いけどな。
と思ったのは内緒だが、それにしても彼に近づいてる気配がしない。むしろ遠ざかっているような感覚がエドを襲ったが、それでも構わなかった。
姿は近いから、きっと近くなっているはずだ。
そんな、思い込みにも似た考えがあって……もしかしたらこの場合、遠ざかっているという感じの方が正しいのかもしれないなんていう考えは頭からスッポリ抜け落ちていた。
そして、は表情を険しくしながらエドに向かって言葉を放つ。
「動くなって言ったよね。それに何遠ざかってるの。危ないよ。そこのユニットにくっ付いてるもう一つのユニットの向こうに敵が居るっていうのに」
と、近づいたはずの目の前に居るはずのの手がいきなり後ろから現れて襟首を掴んだかと思うとそのまま後ろ(上空)に引っ張られた。
といっても、後ろ(上空)に引っ張られた訳だから当然見かけは遠ざかっている。だけれども、感覚はそれが正しいことだと直感的に分かっているらしく、それがエドを更に混乱させる。
目で見る現実と、直感的に捉えている感覚の違いに頭が混乱する。
でもって、次の説明に何も答えられなくなった。
「何って、街をね。大まかにしかし均等に12個の球体に分けたんだ。幸いここは三つくっ付いていたから証明するのに丁度いいかなって思っただけなんだけど。ダメだったかい?」
と、逆に問われてしまい言葉に詰る。
それ以前に、自分は答える解を持たない。
……何なんだ一体……
そう思っていると次の瞬間にはその組替えとやらは終ったらしく、既に遥かな上空で逆さまに立っていたアルも遠ざかっていた少佐も気がつけばちゃんと近くに立っていた。
「三次元下での12個のユニットは、それぞれがくっ付きながら組替えが可能だからね」
と、何でも無いことのようにさらりと言って、少佐が再びパンッと力を循環させて今度は膝を折ってしゃがみ、石畳に手を触れた。
「今度はこの先の組替えをやって終わり。そしてこの三次元下における12分割したときの中心球の真ん中に位置するのがあの噴水広場っていうわけさ。あそこだけは、どんなに組替えても動かない。つまり絶対座標。ちなみに言っておくけれど、今まで俺たちが歩いてきた道はさっき見えた光景と何ら変わらなかったのと、一人一人違う道を、例えば俺が空を君が壁やらアパートの屋上やらをアル君がその隣を上下逆さまな状態で歩いていたって言ってら、信じる?」
と、立ち上がって呟いたその表情は少し困ったような顔だった。
「えっ」
アルがそう言って驚いたまま絶句した。
本当に、そんな意識はなかったから。
真っ直ぐにこの人に付いてきたはずだから。しかも、それなら横や上を向いて語りかけるなり何なりしてもいいはずなのに、この人の視線や顔の向きは普通にアルの方に向いていたり、俺を見ていたりしたから。
「つまり俺たち。さっきまで空とか壁とかを歩いてたわけ?」
言葉にしても信じられない。だって俺たちはずっと地面を……
パチンッ!
まるで、大佐がするような指鳴らしの音が響いた直後に視界が一変し、目の前に広がった光景に二人共言葉が出てこなかった。
「これが、係数を上げた光景。っていうか、実体に近い光景。さて、急ごうか。今なら空間を置き換えても、解読するのはこの状態ならまだ簡単だから直ぐに追いつかれるし」
簡単?
こんな見たこともないような光景が、空間が揺らいでるような、違う。まるで何かが沢山そこら中の空間に漂ってる状態がまだ簡単だって?!
「これからかなり加速度的に溜まっていき揺らぎが大きくなるから見失わないようにね。そして、今地面に見えてるその線をたどって、俺は移動してたわけ。ちなみに地面のこの線の次元の数は、1.46次元」
……一体何が言いたいんだこの人。
大体1.46次元だなんて、そんな中途半端な次元あるわけ……
そう思いつつ地面を二人して見下ろすと、そこにあったのは何だこれ。
「何かの……図形?」
石畳の地面に何か、白い線で出来た図形のようなものが浮かんでいて、それに驚いていると、少佐が説明してきた。
「この白線を辿っていると、実は五歩進んでいるように見えて実際には三歩分しか進んでないから約1.46次元になる。なんでこんな面倒な方法で移動するかというと、残す力を温存するため。そこは簡単に言うと質量保存の法則だね」
そう言って、手を合わせようと動かし何かを始めようとする少佐をエドが止めた。
なんだかこの人に付き合っていると、自分の頭がパンクしそうになる。
本当にこの世界とは違うところから、その魂は呼ばれたんだって、分かる。
この人は、この世界の法則には当てはまらない。
そう思ったら、なんだか少しだけ心が楽になった気がする。
「いいよもう。なんだかよく分かんないけど、この空間に漂ってる『モヤ』のことも含めて、後で説明してもらえれば」
と、自分に言い聞かせるようにしてここで言葉を切ると顔を上げて目の前に立つ彼の顔を真っ直ぐに見て言った。
「敵が来るんだろ。急ごう」
だが彼は何故か二コリと笑ってこう言ったんだ。
「錬金術の基本法則は変わらない。ただ、やり方がが違うだけ」
と、まるでエドの心を読んだかのような彼の言葉に思わず目を見張る。
「驚くことじゃない。基本は変わらない。ただ、その方法、過程が違うだけ。さて、少し罠を仕込んでおきますか」
「え?」
話を変えるように言って、しかもそれはこの人にしては珍しく攻勢に出るような言葉を述べた少佐に、エドは一瞬言葉を失った。
この人の攻勢ってちょっと考えられないんだけど、というより、何をするのかが分からない。予測できない。
「少佐の罠って、一体何をするんですか?」
と、やはり同じように疑問に思ったのかアルが聞いている。
「何をするって、結果は俺もどうなるか分からないんだ。でも縦と時間には移動できない、それだけは確実だから。まぁ、電子的運動はどんな軌道を通ってそれがどうなるかなんて、やってみなくちゃ分からないんだけど、それでもやってみる価値はあると思うよ。上手くいけば全部それで終るかも……」
そう言った少佐は少し自信なさそうだったけれど。
それにしても、自分が仕掛ける罠に何が起こるか分からないってどう言う事なんだろう。
疑問に思っていると、
「一瞬で終るかどうかは確率論だからね。こればかりはどうしようもない」
といって頭を掻いていた。
「それってどういう?」
「外から来た場合、入ってくる人間を電子と捉えて飛ばすのは高確率で成功するんだけれどね。それ以外だとどうも、確率的に成功率が下がるからさ」
なんて、何でも無いことのように言うけれどそれって……まさか?
「もしかして今までの錬金術って……」
信じられないといった風にエドが問い掛ける。
「あぁ。今までの錬金術は確率的にも成功してるね。とは言っても、その移動方法はあまり知らない方がいいよ」
なんて、茶目っ気たっぷりに二コリと笑うと、とんでもないことをサラリと言った。
「だって、この世界の宇宙の果てまで行って空間を移動していたなんて、ちょっと信じられないだろう?」
と。
アトガキ
ふう・・・
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2009/03/17 初校up
管理人 芥屋 芥