SuperStrings Alchemist
57.Dual time
「確か、アームストロング少佐だったかしら」
どうや彼女はようやく目の前に立つ男の名前を思い出したらしく、確認するかのように言ってきた。
「そうです。まさか、貴女のような方がこの街におられるとは、想定外のことですな」
と、頷きつつ盛り上がった見事な筋肉を見せつけながら、男が答える。
男は、ボディビルダーのような格好をしながら会話を続けた。
これが、単なる時間稼ぎではないことを承知しつつ、それでもイズミはアームストロング少佐の行動を無視して言葉をつなげる。
「あら、そうかしら。貴方たちは彼のことをどうやら殺人者に仕立てたいみたいだけれど。でもね、それは間違いなの。ご理解いただけると嬉しいのだけれど」
「それは、出来ない相談ですな。=少佐を捕らえること。これは軍令部の中でも最高司令官である総統からの直々の……」
「あら、そう。でも、その総統がこの街の惨劇を仕組んだって聞いたら、気も変わるんじゃないかしら」
「……ん?」
体の形を次々と変化させながらも答えるアームストロングだが、ピクリとその自慢の髭を動かして彼の表情が僅かに先ほどとは違う真剣味を帯びる。
「正確に言うと、総統のお仲間の……ホムルンクルスよ!」
先手必勝。パンッ!!
胸元で手を合わせて循環させると、イズミはそのままその場の空間に手を伸ばした。
今なら私にも見える。お願い、応えて!
イズミの願いが通じたのか、手に触れた空間が歪む。
「なに!?」
これは、こんな錬金術は見たことがッ!
そう否定しかけて、アームストロング少佐は一つの記憶にたどり着く。
いや、ある。
それはあの少佐の国家錬金術師の試験のとき。
あの時、彼はその何も無い空間から何かを作らなかっただろうか。
それと同じことを、いくらあの鋼の師だとしても簡単にできることなのだろうか。
そんな疑問を抱きつつ、アームストロング少佐が迫る空間を予測してその場から動いた。
「貴女が何故あの男の錬金術が使えるのかは分からぬが、我輩とて無駄にあなたと会話をしていたわけではない」
地面に踏ん張るようにして右ひざを折り左ひざを石畳につけて避けたままの姿で、右拳を地面に……
「この豪腕の錬金術師たる我輩の全能力にかけても任務を遂行するのみ!」
ガッ!
地面が盛り上がり、石畳の中の一つの石を持ち上げ
「フンッ!!」
という気合いの声とともにブン投げてきた。
パンッ!
再び手を合わせる音が響く間にも、アームストロング少佐の投げた石がイズミに迫る。
「ヒャハハハ、捉えたぜ女ぁ!」
その時別の国家錬金術師の声が響いて男が指差している先である足元を見ると何時の間に描かれていたのか錬成陣がそこにあった。
目の前には迫り来る岩。捉えたと、誰もが思った。
だが響いた冷静な声。
「無駄よ」
ニヤリと不敵に笑うと、ヒールを履いた足でその錬成陣を二回ほど,踏み鳴らすようにして左右の足で踏みしめる。
石畳とヒールがぶつかって硬い音が鳴った途端、足元にある錬成陣が描かれた岩の上でうごめいて縮みはじめるその光景を、描いた本人もまた信じられないといった様子で見つめている。
同時に二つの錬金術を?
そんな……
「う……嘘だ」
男が信じられないと言った風に呟くがイズミは容赦がなかった。
これほどとは。
と、感嘆な思いでその光景を見ているアームストロングから目を離して男に視線を向けると
「この錬成陣、そのまま返すわ」
と冷静にイズミが宣言して彼女は、足元にできた何かを蹴った。
まるでそこにボールか何かがあるかのように。
一体何が起きているのか。驚いて動けない国家錬金術師に響いたパチンッという指なりの音が響くと共に彼女が先ほど足元に描かれた錬成陣を一度球の形に丸めたものらしきそれを、男向かって蹴り飛ばし指鳴らしと共に弾けさせたかのようにアームストロングは見えた。
そんな、他人の錬成陣を奪い自分のものにして再構築させるなど、ありえない!!

だが、ありえないことは現実だった。
「うわぁぁぁぁ!」
錬成陣を描いた男たちが居た場所を中心に悲鳴が起こる。
男が描いた錬成陣が発動し、男が自ら造ったそれに捕らえられてしまった。
男だけじゃない。逃げ遅れた数人の男も巻き込まれる。
一人用だったらしいそれは、イズミが手を加えることによって数人用の檻に変化していた。
「お、俺はこんなデカイ檻造った覚えはねぇ!」
「あら、そう。でも、これで貴方たちの数は二人になったわね」
男の言葉に答えることなくそう言って再び胸元で手を合わせると、さっき作った檻に触れる。
すると地面から石が伸び中の男たちの手首に巻きついて、錬成陣を中で描かれないようにとその動きを制限した。
「さて、これで残るは二人ね」
石で作られた檻を背に、イズミがアームストロング少佐と残った一人に向かって啖呵を切った。
「さぁ。いつでも掛ってらっしゃいな」
と。









「師匠……」
街を歩く足を止めて、金髪の少年が呟く。
少し前を歩く=少佐が彼女をこの街のどこに飛ばしたのかは分からなかったけれど、それでもあの人が望んだこととは言え心配がないわけじゃない。
何人来ているかも分からない国家錬金術師達を相手に、果たして大丈夫なのかどうか。
彼女の強さは知っているしそれを疑う訳じゃないけれどそれでも心配は心配で。
そんなエドの様子を見て彼が何を感じているのか分かったのか、が足を止めて問う。
「心配?」
「いや、そういう訳じゃ」
「大丈夫だよ。全快している彼女は負けない。それに、こう言う時は守り手の方が有利なんだ」
と、否定したエドの言葉を遮って彼が軍人らしいことを言いそれに答えたのはアルだった。
「そっか。出てくるところが分かってるから、罠を仕掛けられやすいんですね」
「そういうこと。それに、最初から居たのでは分からないかもしれないけれど、今の段階で外から入ってきたら、この街を流れる力の法則を探るのに時間もかかるだろうしね」
と、明後日の方向を見上げてが言った。
「それ、どういうことですか?」
これには疑問を感じたのか、アルが聞く。
「まぁ、そこはまだ、さ・き」
と、誤魔化すように笑って、最後の言葉を一言一言で切って少佐が言う。
「少佐?」
この人が言葉を誤魔化すときは何かある。
そう思って、再度聞こうとしてアルをエドが止める。
質問を遮られたアルは、少し不服そうに兄を見るが何も言わない。
それにしても、目的の噴水のある広間に行くだけなのに、どうしてこうも複雑な道を通らなければならないのか。
「なぁ少佐。そこの角曲がれば噴水がある広場に面した通りに出るのにどうして遠ざかるように歩いてるんだ?」
と、意を決してエドが聞く。
この人のやることに疑問が多いのは、きっと自分たちが分からないところにいるから。
「だって、こっちが正しい道だから。今無理に捻じ曲げると解が逆に遠ざかるけどいいの?」
答えながらもその足は止まらない。
仕方なくエドはの後を歩くことにした。
今ここで、子供みたいに駄々を捏ねるわけにはいかない。


錬金術師として、この人の錬金術師には例え師匠から原理を聞かされていても、中々に難しい。
1には2を、2には6を、3には12。そしてこれが分からない。4には24か25。
でも、考えた法則があっているなら多分、4の答えは24。でも……
「もしかしてさっきの、俺が使う錬金術のこと考えてるの?」
と、さっき近づいたはずの噴水広場からかなり遠ざかったところで少佐が聞いてきた。
「あ、あぁ。なぁ少佐。あのさっきの、あんたの錬金術のことなんだけどさ。『4』の答えって、24じゃねぇの?」
「さぁ。それはどうかな。じゃぁ5は、40?」
「そう」
少佐の目を真っ直ぐに見て、自信を持ってエドが答える。
間違ってない。そう思うから。
しかし彼の表情は出された答えが不正解だということを告げていた。
「6は60……う〜ん、それほど単純なら苦労はしないんだけどね。だけれどもそれは不正解。8は240だし」
サラッと告げられた言葉にエドが絶句する。
「えッ」
二百……四十?
今、240って言ったの?
嘘?!
「言っておくけれど、8の答えは確定ね。で、24は196、560で確定されている。さてエドワード・エルリック。これはどう解釈する?」
……8が、30倍。これじゃ到底、考えた法則では追いつかない。
「それにね、君の考えた『6』の答えは、俺が持ってる答えに掠りもしないよ。『6』は72から82が正解」
……そんな。
「どれも、倍数に近い数字ですね」
と、ここでアルが言ってきた。
「24は答えである196、560の8190倍。で、8も240の30倍……あれ?」
「混乱した?」
「……はい」
「素直だなぁアルフォンス君は」
と、余り見られないの和やかな表情にアルも気を許しながら会話している間も、エドはやはり考えつづけていた。
どうしてもそこに法則を見出したい。
それが錬金術師としての本能だから。
分からないなら、理解したい。分からないから確かめたい。それを追ってここまで来たんだ。それに手が届くところまで来てるのに!
「それほどね、世界は、俺が使う力の法則は曖昧なの。でも使えるのは、『8』や『24』みたいに確定した数字が存在しているから、だよ。気をつけて、居る」
「居る?」
聞き返したのはアルで、エドの方はすぐに辺りを探りだす。
「だけどまだ近くじゃない。どうやら彼らは惑わされることなきく街に入り込んで、正確に道を辿ってるみたいだよ。とは言っても、噴水前にたどり着くまでに手は出してこない……かもしれないし、もしかしたら出してくるかもね」
「それ、どういう?」
目的地まで、手を出してくるかもしれないし、出さないかもしれない?
だが、聞き返したエドの言葉を無視しては言った。
「ちょっと、錬成陣を組替えるね」
と。
アトガキ
ふう・・・
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管理人 芥屋 芥