SuperStrings Alchemist
50.A clown
「し・・・師匠・・・これ・・・」
テーブルの上に彼女が地図から立体化させた建物の全体像を見て、エドが言葉を失う。
「こんなことって・・・」
隣に立つアルも気付いたようで、同じように言葉をそこで止めて、建物が立ち上がった地図を見ている。
そして、その答えを導いた本人はと言うと、その地図を、まるで睨みつけるようにそして何かを思案しているように、口元に手を当てて、ジッ見ている。
「師匠は・・・こうなるって分かってて?」
エドが聞くが、彼女はそれには答えない。
代わりに
「ここまで完成しきっていたら、いくらでも引き返せない・・・か」
と、ポツリと呟いた。


彼らと同じ土俵に、知らない間とは言え、乗らされた。
それが果たして、が望んだものになるのか、それとも、膨大な量のエネルギーを使って彼の中にあるものを取り出すためものになるかは、まだ分からないけれど、それでも、そこにある膨大な量の力は、使う者の意思によって、何にでもなることができる。
なぜなら、純然たる力には、善も悪もないから。
それが巨大になればなるほど、扱い一つで全く違ったものになるのは分かる。
だけど、あの子・・・自分と引き換えにそれをやるつもりなら、私はその時どうせすればいいだろう。
あの子の望む結末を、ただ、眺めるしかないのか。
それとも、僅かにでも抗うことができるなら、抗ったほうがいいのだろうか?
判断はもう、先延ばしにはできない。
彼は、は、私の身内のようなものよ・・・ね。
そして、助けてくれた恩人でもある。
頼ったことは過去、今を除けば、一度しかないけれど、それでも、恩人であることには変わらない。
その彼が望むもの。
望んでいることが、『悲しい』ことでも、それを望むなら・・・
身内は、二度と失いたくない。
だけど、それを望むなら・・・
 
 
 
――人は、いつか・・・土に、空に、還る。
――でも俺だけ、いつも戻ってくるんです。
――おかしいですよね。
 
 
 
 
 
 
 
「面白くなるとは、また随分と大きく出ましたね」
リザが関心なさそうに、忠告する。
こういうときは、この上官が本当に楽しんでいるらしいことが分かるから、余計に危ない。
「まぁ、色々と、今まで見えてこなかったものが見えてきているからな」
そう言って、視線をあたりに一瞬でロイが向ける。
が、ロイにとって其処彼処に人が至る所にいるのだが、やはり彼女には分からなかった。
例えば、死んだはずの老人がそのベンチの上に、座っているとか。
例えば、その物陰から自分たちを見ている親子連れとか。
生前と意識だけが何ら変わらない状態で、そこにいる。
ただし、常人には見えないだけで・・・ん?
そこで彼は、最初からがこの街の現状を知っていたことに突き当たる。
なるほどな。
街を覆う、自分の目では見ることが辛うじて判別する何かが、見える。
あれは一体なんだ?
流石のロイにも見当がつかない。
だが、ソレが何か重大なものであるということだけは、分かる。
やがてロイは、街の外れから一本の巨大な柱のようなものが伸びてくるのを、その目で見た。
 
 
 
 
常人には街全体が血で流されていると思っているかもしれないが、裏の現実は全く違う。
実はあの街で死んだ人間は、自然死を除き、誰もいないのだ。
このことを知っているのはホムルンクルスたる我々と、そして=少佐だけだが、人間どもにはやはり『死』と映るのか、その復讐心は凄まじいものがある。
それをエンヴィーを使い、利用させてもらった。
そのためにエンヴィーには滑稽な道化を演じてもらったのだ。
人間の負の感情を引き出すために、一人でも多くの人間から憎しみを生み出すために。
たった一人の人間の思い一つでは、それはそれほど大きくは無いが、それでも、それが十人百人にもなると、それは膨大な量に膨れ上がる。
膨れ上がったその思いは、そのままあの街に滞り、力に変換される。
その巨大な目に見えない揺らぎの中に在るのが、あの街だ。
少々『殺しすぎ』なところもあるが、だからと言って、それは予想の範囲内だから、その点においては、問うまい。
そしてこの為にあの街を、計画どおりに発展させてきた。
だからこそ、壊し収縮させて、そして、ぶつける。
それがぶつかるものは、=だ。
そうでもしないと、あの男の中にあるものを取り出すことは不可能だからだが、それでも、まだ不安要素がない訳ではない。
この計画には、必ず成功する保障はない。
こんな、成功するかどうかも分からないような計画が何故実行されたのかは、『父』が計算で出した時期が、この時だったから。
確実に成功させるために、狂いは、許されない。
しかし、向こうがどう動くのか・・・
予想はつくが、予想だけでは心許ない。
そう思い、男は街に流れる膨大な量の力に隠れたその裏で動いている力の流れを、詳しく探ってみることにした。
眼帯の奥に隠された目を使い探るが、詳しいことまでは分からない。
表に見えている力が巨大になりすぎて、中の小さな力の動きまでは中々今の段階では探ることが困難になっている。
全く。
巨大すぎる力というモノも、考え物だな。
と男は思うが、それほど巨大かつ膨張した力でなければ足らないことを考えると、ここは目を瞑らなければならない話でもあるのだが。
それにしても、どこまでも回りくどいことをしなければ=の持つそれを取り出すことができないのだから、皮肉な話だ。
あんな小さなモノのために巨大な力の準備が必要だという、皮肉。
まぁ・・・それが『父』の出した答えならば、我々はそれに従うだけだ。
 
 
 
 
 
 
不安定な計画だと思うよ。
だけど、走り出したから、仕方ないよね。
ま、ボクとしては道化はオモシロカッタし楽しかったから、別にいいけど。
アトガキ
ふう・・・
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管理人 芥屋 芥