SuperStrings Alchemist
49.CubicMap
スッと空間が揺れて、中から人が現れる。
その姿・格好は軍人で、恐らく、こんな人間場慣れしたことができるのは、恐らく国家錬金術師という奴等だけだな。
と、男は酒が回った頭でぼんやりと思う。
「しっかし。
 こんなところにまで軍人さんが御出ましとは・・・
 ここもヤキが回ったもんだ」
と、僅かに酒が入った瓶をそのまま口につけて飲む男が、独り言が聞こえるようにワザト大きな声でその軍人に向かって・・・は居ないがしかし、向かって言っているように、言う。
しかし、その軍人は何を言う事もせず、また男に向かって顔を向けることもなく、真っ直ぐそこから去っていく。
その後ろで、男が空になった瓶を地面にたたきつけながら、毒づいた。
「なんか恵んでいきやがれ!このクソ軍人!!」
 
 
 
 
軍服を来た男が、ここを歩く。
こんなことは、ここが出来て以来、初めてのことだ。
街の外側に近いこの場所は、街から逃げてきた人間たちがたくさんいる場所。
街が繁栄していくと同時に生まれる、いわば、陰の部分にあたる場所だ。
そして、街から毎日のように臭ってくる血の臭いで、ここの人間たちは街で何が起きているのか大体把握もしていたが、大して関係ないと思っていた。
何故なら、それは、街の中の話であって、半分外に居る自分たちには関係のないことだと。
逃げることはできるが、だと言って、すぐそこに大河が広がっていて、越えることは難しい。
シティ・エンド。
そう呼ばれる、そんな場所だ。
そして自分達にはもう、行くところがない。
一掃されるなら、されるで、こんな・・・
という、諦めとも、嘆きともとれる空気が、その場所を覆っていたことも確かだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
が?」
彼が消えた後、師匠が待つ部屋へ戻った二人は事情を彼女に説明した。
そして、消えたことに対しては怒らなかったが、イズミは、別のところで怒っていたようだった。
「あの馬鹿。
 少しは私にも頼れって・・・何度言ったら分かるのよ!」
と。
自分が頼りにならない存在だと、暗にそう言われていることが、いや、実際には何も言ってないのだが、そう思わせる行動をが取ることが、どうやら彼女はお気に召さないらしい。
「まぁ・・・人に紛れて、その中で、孤独になっちゃう理由もわからなくないけど・・・さ」
と淋しそうに言呟くイズミの表情は、子供を思う母親としての顔が、少しだけ現れている。
「師匠は、さんのこと・・・どう・・・」
「言ったでしょ。
 『家族』だって。
 まぁ・・・向こうはそうは思ってないだろうけど・・・
 でも、私はそう思ってる。それだけよ」
「信じてるんですね」
アルが、結論をサラリと問うと師匠もまた、サラリと答える。
「そうよ」
と。
「でも・・・どこに行ったんだ?」
エドが話を進めて、自分に問い掛けるように呟く。
「さぁ。
 でもあの子。
 流れの中心は少し西に逸れてるって言ってたから・・・」
そう言うと、胸の前で手を合わせて循環させて、その手をテーブルに広げられた地図の上に置くと、地図から何かが出てきた。
「師・・・師匠?何・・・コレ・・・?」
アルが驚いて、彼女に問う。
地図から、『建物』を錬成した?
ス・・・スゲェ・・・
伸び上がったアパート・施設・軍用地。
つまり、地図が・・・立体化した。
そんな地図を前にして、師匠が言う。
「あの子、平面じゃ判読不能って言ってたから、立体にしてみたの」
 
 
 
 
 
 
 
 
「端はここか」
だだっ広い広場を前にして、軍服を着た男が呟く。
そして、右腕を胸の高さにまで持ち上げて、そのままゆっくりと閉じていく。
そして何かを呟くと、手を広げて、まるで、そこに何かが在るかのように、ゆっくりと、空間を押していく。
空っぽの空間に『真理』を置いて、柱を創る。
でも、ソレはすぐに時間に巻きついてしまって、過去になる。
それを解くには、先ず・・・
そこまで考えて、の動きは、中断した。
 
「何の用ですか」
中にも、外にも敵が居る。
こんな状況は、今まで沢山あったから、別段驚く事柄でもない。
「こんなところにノコノコ来るあんたが悪いんだぜ。
 金目のモノ、よこしな」
囲んだ男達の中で、先ほどがここに現れたときに一番最初に出合った男が、告げる。
「あなたは・・・さっきの」
が、無関心な様子で、男に問う。
「金目のモノ寄越せって言ってんだ。国家錬金術師!」
そんなところに軍人が来た。
こんなことは、今までなかった。
しかもその軍人は、国家錬金術師ときてる。
襲わない方が、オカシイ。
何故なら、ソイツが持つ銀の懐中時計は、金になる。
男達が口々に言う。
その中心にあって、が、クスリと、まるで嘲笑うかのように、唇を上に吊り上げて笑い
「全く。
 目先のことしか見えない連中め」
と、挑発的なことをサラリと言ってのける。
「何だと?!」
殺気混じりに、声を荒げて誰かが叫ぶ。
「言葉のとおりさ。
 それにしても、平等とは不公平なものだ。
 お前等みたいな連中を見ると、つくづく思うよ」
そう言うと、ゆっくりと空間に弧を描くように動かすと
「しばらく死んでろ」
と言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
誰かが倒れることもなく、また、そこに男達の死体が転がっているわけでもなく、『空』に消える。
「端の空間近くで死ぬと、戻すのは簡単だから、楽なんだよね」
さっきの男達とは別の視線に向けて、が呟くように言う。
「大丈夫。
 帰ってくるから。
 それだけは、約束する」
そう言ったの表情は、先ほどとは打って変わった、悲しい顔を、していた。
アトガキ
ふう・・・
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2008/04/25 初校up
管理人 芥屋 芥