SuperStrings Alchemist
48.Unchangeable>
大佐の目に、一体何が見えているのか、彼女には全く見当がつけられない。
何故なら、誰も居ないはずのベンチの上を、まるで誰かがそこにいるように、話し掛けているから。
確かに。
見えないモノが、そこに存在していた。
 
 
 
 
 
 
さんにも、ゆっくりとした時があったんですね」
アルが、言う。
嫌味じゃない。
純粋な感想だ。
「うん。
 まぁ、あんまり長く続かなかったけど」
そう言ってアル向けていた視線を空に向けたに、アルが再び声をかける。
さん・・・ってさ。
 空をよく見てるけど・・・何か、あるの?」
と。
そしてその問いには、彼は顔を空に向けたまま、答えた。
「あぁ・・・
 多分、いつの時代も変わらないからだろうな」
と。
 
 
人は、変わる。
街も、変わる。
国だって、時代が過ぎれば、滅びる。
人が死ぬ瞬間に立ち会ったことなんて、ザラだ。
街が滅んでいくのにも、立ち会った。
そして次生まれてみれば、昔いた国はすでに滅亡していた・・・ということも、過去何度もある。
そんな移ろいゆく時代の中で残ったこの建物は以前の時代、この国が出来る前にここにあった国の、見捨てられた遺産だ。
昔、子供の頃は分からなかったけれど、ここに居た記憶が戻ってきたのは、自分が12・3歳の頃。
奥にある倉庫で、隠れて遊んだ。
入ってすぐの門のところで、帰ってくる大人達を驚かせて、笑っていた。
穏やかな時間が、そこかしこに溢れてる。
昔・・・
もう、その人達は既に居ないのに・・・
自分だけが、こうして、未だに生きている。
そして訪れた、最後の日。
あの時も、空は雲が覆っていて、どんよりした湿った空気で溢れていた。
状況はあの時とそっくり、そのまま・・・だ。
だけど今は、ほぼ完全に戻っている。
前の時は、記憶が戻る前だったから、為すがままに殺されたけれど。
復讐?
違う。
そんな訳がない。
だけど、酷似しすぎていないか?
違うよ。
そんな訳、ない。
第一彼等は、全く違う時代の軍隊じゃないか。
彼等も巡っていたら?
一度向こうに行った魂は、ホトンド戻ってこない。
ただ今は、こちらも向こうの動きが読めて先手を打てるというだけで、こちらが襲われるという状況だけを見た場合は、ほとんど同じだ。
あの時軍は、突然やってきた。
しかし、目的が何だったのかは、今でもわからない。
古い記録を調べても、時間が経ってしまっているために詳しいことまでは分からなかった。
バタバタバタ・・・
走る軍靴の音が、戻ってくる。
泣き叫ぶ女性の声が、周りに響く。
安定していた生活の音がかき消され、喧騒と怒号が、この場所に飛び交っている。
『どこだ、どこに隠した?!』
男が、驚いて腰が抜けている女性に怒鳴りながら詰問する。
その手には、銃を構えて、それに怯えた女性の泣き声はますます大きくなるばかり。
それに苛立った男が銃を、怯えて泣く女に向けて、撃った。
響く銃声に、一瞬、全ての動きが止まる。
そして、それが引き金だった。
容赦なく撃たれる銃弾に、倒れる人たち。
この建物は、血と火薬の臭いで溢れかえった。
 
 
結局あの時は、最後まで生き残ることはできなかったから、生き残った人があの後、どんな仕打ちをされたのかまでは分からない。
こんな自分でも、その途中で死んでしまえば事の最後まで見届けることは不可能に近いのだ。
 
 
 
 
 
「空は、変わらないから・・・」
雲があって、流れていて。
確かに、『変わる』
だけど、いつの時代にも、確かにそこに存在してる、優しくも、残酷な存在だ。
と、は心の中で自分の言葉に付け足してみる。
 
 
 
「少し、出かけるから」
話から、逸らすように、逃げるようにそう言うと、が腕を縦にゆっくり動かして、空間に弧を描いていく。
さん?」
アルが驚いて、名前を呼ぶがそれに返事をすることなく、彼はその場から、消えた。
「・・・何処行っちゃったんだろ・・・」
呟くアルにエドが言う。
「準備じゃねぇの?
 来てるんだろ?軍」
悔しいけど、あの人にしか出来ないことがある。
それは、ここを見て痛感した。
再生?
違う。
そんなんじゃない。
これは・・・
 
 
 
 
 
 
「大佐・・・誰とお話になっていたのですか」
リザが、自分の上官に歩きながら、問う。
「あぁ。
 この目に見える人間・・・と言っていいのか、何なのかはわからないが・・・
 新たに見えるようになった、人間・・・とでも言うのか。
 とりあえず中尉。
 彼等は、完全には死んでいないということだ。」
「はぁ?」
ロイの言葉に、珍しくリザが素っ頓狂な言葉で、返す。
とは言え、声音自体はいつもと変わらない、冷静な声だったが。
しかし、普段そんな言葉も言わない彼女がそんなことを言うのだから、相当驚いているのだろうことは、想像に難くなかったが。
「中尉。
 これから面白くなるぞ」
そう言った大佐の顔は、明らかに、楽しんでいた。
アトガキ
ふう・・・
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管理人 芥屋 芥