SuperStrings Alchemist
47.By-Product
一瞬の睨み合いで見た少佐の目は、吸い込まれそうなほどの深い深い闇の色だった。
やがて、剣の切っ先が持ち上がり、そのまま振り下ろされる・・・はずだった。
もし、彼に自分達を殺す意思があるのなら・・・な。
 
 
 
スッ・・・と、音もなく剣は引いた。
まぁ、殺す意思がないことは確かだろうけど、でも、なんでさっきアルは『痛み』を感じたんだ?
その疑問は、残った。
しかし口に出して言ったのは、全く別のこと。
「焦ったぜ・・・」
緊張をほぐす息を吐くと同時にエドはそうに言った。
あのまま振り下ろされていたら、きっとアルは今度こそ死んでいた・・・かもしれないから。
「焦ったぁ・・・
 急に痛みが走るんだもん」
と、アルがのん気な声で同じことを言いながら体を起こして、に聞く。
さん。
 今、僕の鎧からその剣を錬成したみたいだけど・・・
 それ、何なんです?」
と。
「あ・・・あぁ・・・これ?
 まぁ、対彼等用の武器。
 それはそうと、アルフォンス君。
 不意打ちみたいなことして、ごめん。それと、ありがとう」
いきなり魂を少しだけ侵食する形で、彼に痛みを与えてしまった形で鎧から剣を作ったことを、が謝る。
ちょっと、その雰囲気は今まで感じたことが無いくらい本当に『人間』っぽくて、もしかして・・・照れてる・・・とか、気恥ずかしいとか、そん な雰囲気が彼から出ていた。
「い・・・いや・・・そんなことは・・・」
「ごめん。
 でも、ありがとう。」
謝罪と礼を再び言って、剣を鞘に納める。
その剣がなんなのかは答えてくれなかったけれど、でも、魂だけの存在であっても、痛みを感じたのだから、きっと、何かあるのだろう。
そう思って、それ以上何も聞かずに、この人の言葉を、受けた。
「はい」
と。
 
 
 
 
 
「でも、なんか・・・あれだな」
ポツリとエドが呟くように言う。
「あれって?兄さん」
「ん?
 まぁ・・・なんていうか。
 軍が来るって割には、静かだなぁって思ってさ」
と、この状況の感想をエドが述べる。
本当に来るのか?
いや、こっちに向かってきていることは確かだと思う。
あれだけの事件だ。
軍だって動かない方がオカシイ。
だけど、軍のトップと犯人のアイツが仲間で、その上でどうしてわざわざ軍を仕向ける必要があるんだ?
エドの疑問はそこにある。
それを言うと、が、
「まぁ・・・『仕上げ』じゃない?」
と答えると、再び席を立った。
?」
イズミが呼び止めると、彼はその足を止めて振り返り
「さっきの水の副産物が、そろそろ出来上がってるかなと思うので」
といって、再び部屋を出て行った。
「「副産物?」」
残されたエドワードとアルフォンスが顔を見合わせて同じ言葉を言う。
「そんなに気になるなら、見に行ったら?」
イズミが促すと、二人は
「え?」
と戸惑ったのは弟のアルフォンス。
そして
「行ってくる」
と即答したのが兄のエドワード。
そして、二人ともの後を追って、部屋から出て行った。
一人残された彼等の師匠は、その後姿を見つめて呟いた。
「まぁ・・・最初は信じられないかも・・・ね」
と。
 
 
 
 
 
 
後姿を追って二人は走る。
そして、前を歩いていたの足が止まり、そこに追いついた二人は、そこで信じられない光景を、目の当たりにした。
「う・・・そ・・・」
と、そう言ったきり絶句したのはエド。
片や弟のアルは
「す・・・すごい・・・」
と、感動したきり、やはり兄と共に絶句した。
周りの建物は、確かに、廃墟そのままの暗い空気が流れているのに、その庭の地面のその一角だけが、明るい。
緑が生えていて、花まで咲いている。
しかしそんな『生命』があるのはその場所だけで、他のところは相変わらず、古く手入れもされていない荒れ放題の庭なのに・・・
これって・・・どういう・・・こと?
どうして、この一角だけに緑が復活してるんだ?
いや、そもそも、植物ってこんなに早く育つものだっけ?
疑問がいくつも、エドの頭の中を駆け巡る。
そういや以前師匠から・・・聞いた話の中に、そこにあったベンチから木を・・・造ったって・・・
師匠が自分の子供の錬成をし終わった後、この人に会ったって・・・
その時に、そばにあったベンチから、この人は木を造ったって・・・
まさか、まさか・・・
「これ・・・少佐がやったの?」
思わず、聞いていた。
「うん。
 というより、水を作ったときの地面にこぼれた分でできた副産物。
 本当はもう少し広げても良かったんだけど、そうすると、剣を作るときに容量を越えて、向こうに伝わりそうだったから、この範囲しか戻せなかったけど・・・」
と、答えた。
「これが・・・あんたの錬金術か」
自分でも疑問なのか、呟きなのかわからない。
けれど、声に出さずにはいられない。
それほど、衝撃的だったんだ。
だって、目の前に、『命』が・・・生まれてるから。
「やっぱり・・・あんた・・・」
「君の憶測は、ちょっとだけ、違う」
言葉にならなかった『言葉』に対して、が先回りして答えた。
「違う?
 どこが違うんだ」
生命(いのち)を、生んだ。
「違う。
 正確には、俺はここで水を作っただけで、正式には戻してない。
 だから、この状態が続くのは一時的なものだし、この植物達もすぐに枯れてしまう。
 イズミさんも、それが分かってるから、『一時的なもの』って言ったんだ。
 で、これと同じ状況が、彼女の体の中でも起こってるってこと」
「つまり・・・今、師匠の体は・・・」
「俺が作った水の作用で、一時的にだけど、体の中は戻ってる。
 だけど、彼女がそれを頼ってきたことは、今を含めないで数えると、過去一度しかない」
といって、そこに出来た花に少し彼の手が触れると、あっという間に、枯れて、そして出来たのは・・・
「野菜・・・」
植物にできる野菜。
洗えば十分に生でも食べられそうな、『トマト』だ。
「もともとここは菜園だったんだ。
 基本は自給自足の生活をしながら、ここで暮らしてた」
少しだけ懐かしそうな表情をしながら、が語る。
「もしかして、さん・・・ここに居たこと・・・ない?」
アルが、半分の疑問と半分の確信をもって、に聞く。
さっきから、なんとなくだけど、感じていたことだけれど、それでも、聞いていいのかどうか少しだけ迷っていた疑問。
その問いを聞くとは少し屈んでいた体を起こし、少しだけ空を見上げて、言った。
「随分昔だけど、少しだけ・・・ここに住んでいたことがある。
 もう、埋もれそうな記憶の彼方のことだけど・・・
 でも、ここで住んでいた頃は少し穏やかだったから、よく、覚えてるよ」
と。
アトガキ
ふう・・・
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2008/04/16 初校up
管理人 芥屋 芥