SuperStrings Alchemist
46.Feel thePain
「さて。
 静かなものだな。中尉」
さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返った街の路地裏を、二人の軍人が歩く。
「そうですね。大佐」
それに答えたのは本来は長いであろう金髪の髪を綺麗にまとめた、無表情に近い顔をした女性だ。
「街の人間どころか、軍人すら居ないとはな・・・」
に印をつけられた左眼の異常は、直ぐに現れた。
『何か』が見えるのだ。
それは、ヤツが『流れ』と言ったものなのかどうかは分からない。
だが、少しだけ、薄い幕一枚程かもしれないが、真理とやらに計らずも近づいた証拠なのか?
と、ロイはあちこちを見渡して考えていた。
それにあの響いていた声の持ち主が居るらしい空間には、より多くの『流れ』が集まっているようにもロイには見えて、いつもならば見えないものが、今こうして、見えるのは、やはり、が触れた所為か。
と、冷静にロイは結論付けた。
そして、ヤツが床上で行ったソレを見て、確信する。
――なるほどな・・・
と。
そして、この場所に居ては、恐らくこれからはこれ以上にこの街の『流れ』を見えるなら、それに慣れる必要があると判断して
「少し、軍の動向を探ってくる」
と言ったのだが、やはり、出てきて正解だったようだ。
と、ロイは自分の体のことなのに、どこか他人事のように考え、ポツリと呟いた。
「それにしても、不思議な光景だな。これは・・・」
と。
 
 
 
 
 
 
 
「いや・・・まだ、彼等は到着してませんよ」
と、遠慮がちに意気込んだイズミに言うのはだ。
「あら?そう?
 でも、いずれ来るんだから、結果は同じよ。
 ところで、いつ頃来るか、あんたなら分かるんでしょ?
イズミが、全員の座る椅子とテーブルを作りながら、問う。
どうやら彼女は、さっきからソレを作りたかったようで、顔が嬉しそうだ。
そして、その言葉に肯定の意味をこめて、彼が頷く。
「向こうにホムルンクルスが居ますから、直ぐに位置はわかります。
 彼等は、通常の人間らしくしていても、やはり、人とはかなり違った流れをそこに溜め込んでいますからね」
と答えて、先ほど床に広げた地図を拾い上げて、イズミが作ったテーブルの上に広げて見せた。
自然と残りの二人も、席に付く間も、の説明は続いていた。
「流れの中心は、この噴水の広場。
 あなたが、この街にたどり着いたとき、『彼』に会った場所です。
 ですがこの場所は、『街の中心』ではありません。
 少し、西の方にずれている」
「確かに・・・な」
「彼等、いや、彼の部下は、物量と耐久と後は、錬金術師による破壊の三つの戦略でくるでしょうが、恐らく、一番上は違うことを考えているはずです」
やはり、錬金術だけで少佐に上がったわけじゃなさそうだ。
と、エドは素直に感心し
「違うこと?」
と、聞いた。
そんな会話を聞いて、アルは考える。
向かってくる軍も、一枚岩じゃないってこと・・・?
それとも何か別に理由があるの?
「一番上に立つ、総統、ブラッドレイはエンヴィやラストと同じホムルンクルスなので・・・」
その言葉に、アルが驚いた声で
「えぇぇぇぇぇ!!」
と言った。
「・・・ん?」
「・・・えっと・・・嘘・・・だよね・・・」
「アル?」
驚く弟を、怪訝そうな表情で見上げるのは、兄のエドだ。
「だって!
 総統って人、凄くいい人っぽかったよ?!」
前に一度だけ、会っている。
その時、自分を『子供扱い』してくれた人だ。
そんな人が、ホムルンクルス?
だって・・・あの人・・・
「あぁ。
 ブラッドレイだけは、エンヴィやラストやグラトニーと違って、成長する。
 だから、限りなく俺に近いけど、でも、やはり、違う」
彼の前で錬金術をしたときに気付くべきだった。
彼から『弦』を与えられたとき、気付くべきだった。
気付けないままここまで来てしまったのだから、やはり、これは自分が責を負う事態であるはずだ。
「成長するって・・・
 じゃぁ・・・死ぬこともあるってこと?」
「さぁ。
 彼等のような、後でできたホムルンクルスは殺したことが無いから、ちょっと分からない」
今までの、自分の力に充てられた人とたちとは、また違うから、実際のところ、よく分からない。
殺し方は彼等に対するやり方と同じでいいのかどうかさえ、まだ、分からない。
時空間転移弾を作るのは、この状況では得策ではないのは、目に見えて明らかだ。
水を作るのとは訳が違う。
自分の錬金術の一部をその弾頭に入れ込む上に、アレを作るには相当の量の空間の力を使うから、わざわざ相手に『戦闘の準備をしているぞ』と知らせるようなものだ。
だから、別の手段を考えなければ・・・
アルにはそう答えて、自分にそう思うと、さっきまでイズミが横たわっていた長いすに座り、腕を組んだ。
「その一番上の狙いば俺です。
 そしてその騒ぎに便乗して、彼等を、送ってくる」
「彼等?」
「そう。
 彼の、『本当の仲間』
 いや、仲間と呼んでいいのか、ちょっと、分からないけど、でも、大きな意味では、『仲間』と呼べるもの達だよ」
「もしかして、この事件の本当の『犯人』だった、アイツのこと?」
忘れもしない。
さんの姿をしていたけど、雰囲気は全然違った、名前も知らない、彼だ。
「つまり、軍の一番上の人がホムルンクルスで、本当の仲間じゃない・・・
 だから、騒ぎに便乗して本当の仲間の人たちを仕向け・・・
 軍は一枚岩じゃなくて、この場合、指揮する立場の総統が・・・裏切り者・・・ってこと?」
「そういうこと」
答えたのは、
「でも・・・なんでそんなこと・・・」
アルのそんな質問に答えたのは、イズミ。
「軍ってのはね。アル。
 上に立った人が、エライのよ」
と、皮肉混じりに言う。
だと言って、そこまで嫌味ではないことは、その表情からすぐに分かったが。
「まぁ、そういうこと。
 さて、話を戻そう」
イズミに同意して、話を戻す。
「恐らく、騒ぎどころじゃない話になりますが、彼等の相手は俺が全て引き受けます」
と言って、
「アルフォンス君、ちょっと、立って」
「ん?」
「いいから。立って」
と言ってアルを促すと、自分も、立った。
「何?さ・・・ん?」
触れられている?
鎧に?
アレ?
なんで僕そんなこと・・・わか・・・ってって!
「イッッタ!!」
というアルの叫びと共に、シャオンッ!!という、金属と金属が擦れるような音が部屋に響く。
「アル?!」
痛みを感じない弟が、『痛い』と言わなかったか?今!?
さん・・・何・・・するのさ・・・」
恐らく走る『痛み』で、声が、途切れ途切れな弟にエドが慌てて椅子から立ち上がり、
「大丈夫か!?アル!」
と聞く。
「痛いよさん・・・
 いきなり何するのさ」
と、言いつつ顔を見上げると、そこには長い剣の切っ先が、目の前に、あった。
アトガキ
ふう・・・
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2008/04/14 初校up
管理人 芥屋 芥