SuperStrings Alchemist
45.Water is life
「大丈夫ですか?」
が問う。
「えぇ。平気。
 それはそうと、水か何かあると嬉しいんだけど」
イズミはそう答えたが、その顔は、青い。
恐らく、体も限界か・・・
そう思ったとき、イズミが何かに向かって囁いた。
そして、それを聞いて頷くと
「わかりました。
 持ってきます」
と言うと、椅子の上に手を置いて、コップを一つ、作り上げる。
それを見て、イズミがにお礼を、言った。
「ありがとう、
と。
それに
「いいえ」
と答えると、それを持って、彼は外に出て行った。
 
 
 
古く棄てられた聖堂の中には、隅の方にあった小さなデスクと、祭壇の方に向いている取り付けられた長いすが数個残っているだけで、その

後は本当に何もなく、埃だらけだ。
そして、そんな長いすが向いている祭壇のところにある象徴はもう崩れ落ちていて、よく見えない。
廃墟の聖堂。
だけど、こんなところ、どうしてさんは知って・・・あぁ。そうか。
ここは、この信仰が盛んだった頃にあの人がよく来ていた建物なんだ。
なんでそんなことが解かるのかは、よく分からない。
だけど、なんとなく、それが分かる。
ガシャ・・・
自分が動くたびに、重厚な金属の音が響く。
この体は、自分達が燃やした家の地下にあった鎧。
歳を取ることなく、疲れることもなく、お腹が空くこともなく、眠くなることも無い。
だけど、あの人は、違う。
歳を取って、疲れて、お腹がすいて、眠くなって・・・だけど、死ねない。
生まれて、死んで、また生まれて・・・その繰り返し。
そこから先に、『生きている』のに、進めない人。
時間の中をグルグル回る人だ。
それが、あの人が存在している理由。
こういう場合、僕はあの人に何て言えばいいだろう。
『ありがとう』・・・?
『もう、いいよ』・・・?
なんで『もういいよ』なんて。
そんな言葉、言えない。
言えるわけがない。
年月が、違う。
違いすぎる。
 
『大昔に人体練成をしようした国が、失敗して滅んだってあるけど、これホントかな?』
母さんを練成する為に、必死だった頃の記憶だ。
ここは、覚えてる。
『んな訳ねぇよ。
 だって、『人』の成分を計算でちゃんと出しただろ?
 そんな、一つの国が滅ぶほど、大げさなものじゃないよ』
兄さんは、そう言って、笑ってる。
だけど、実際は、全然足りなかった。
気がつけば僕の体は持っていかれて、兄さんの足は持っていかれて、そして僕の魂を戻すために、腕を、失った。
計算で出した成分だけじゃ、全然足りなかった。
その時、やっと、あの、国が滅んだという伝説は、本当だったかもしれない・・・って。
そう思えた。
そして今、その時に立ち会ったという『人』の話を聞いて、やっと解けた。
あの古い人体練成で滅んだ国の伝説の中心に居たのが、さん、その人なんだ・・・って。
 
 
 
 
「失敗したとして残っているのは、後世のためだ。
 伝説は伝説の中に。
 それが人なら、人の中に・・・ってね」
噂を聞きつけて、狙われないようにするために。
なにより、その人数を最小限に留めるために。
 
 
 
 
それにしても、この建物。
とても古くて、その所為か、もう昼過ぎなのに薄暗くて、大きな建物じゃないことは、見て直ぐにわかった。
だからと言って、他の部屋を・・・
って、ダメだ。
あんな具合が悪そうな師匠を今一人にできない。
大佐と中尉が外の様子を見に行って居ないし、さんはさんで、水を汲んでくると行ったきり、戻ってこない。
だから、今この部屋には、三人だけだ。
「師匠・・・大丈夫ですか?体・・・」
相当無理してるんじゃ・・・
さっきから、頑丈なまま唯一残っていた聖堂の長いすに、体を横たえっぱなしだ。
だけど、表情はまだ青いままだったけど
「えぇ。
 ・・・少しは楽」
そう答えた師匠の声に、少しだけ元気が戻っている。
「良かった」
今師匠に本格的に体調を崩されたら、どうしようもない。
ヒドイ言い方をしたくないけれど、でも・・・少ない『戦力』が、これ以上減ることは、避けなきゃいけないから・・・
 
 
 
 
 
 
朽ちて、ボロボロになった長いすから作ったコップを持って、部屋を出る。
別に部屋を出なくても良かったのだけれど、それでも、彼等の前で錬成することは、どこか、後ろめたい。
やがて、彼等がいる聖堂から随分離れたところまで歩いてきたは、床にそれを置き、そしてその胸の前で、手を合わせた。
バシャン・・・
コップの中がその音と共に水で一杯になる。
入りきらなかった水は地面に落ち、そこをぬらす。
やがて、コップを持ち上げて、蓋を作ってそれを被せると、来た道を戻っていく。
その時、やはり、声が掛った。
『大丈夫なのか?
 さっきから何か、細かいもの創ったりしてるけど』
と。
だけど、は余裕の表情で、
「このくらいなら、まだ、十分に隠れる範囲だよ」
と言った。
それに、声が疑問の声で聞いてくる。
『お前、もしかして誘ってんのか?アイツ等を』
と。
「さぁね。
 ただもう、俺は彼等の挑戦を受けるだけだから」
と、歩きながら答える。
『そうか・・・』
その言葉を最後に、彼の気配が周囲から消えうせる。
さっきからずっと居つづけたためか、力を使い切ったようだった。
ギィィィ・・・という音がして、そこに顔を向けると、立っていたのはさん。
パタン・・・と、扉が静かに閉じられると、歩いてきて
「イズミさん、水」
といって、彼女に差し出した。
それを「ありがとう」と受け取って、彼女が飲む。
 
 
 
「これで、しばらくは大丈夫・・・かしら」
「ですが、無理はしないでくださいね」
水は、命。
そして、彼女が飲んだのは、正に、命の水。
さっきまでの具合の悪そうな表情が嘘のように、元気な師匠の姿が、そこにあった。
「嘘・・・」
その様子を見て、エドが信じられないといった声で言う。
「まぁ・・・戻さないとは言ったけれど、備えないとは言った覚えはないから」
「一時的なものだよ。
 前にイズミさんの容態が悪くなったときに、偶然・・・ね」
「で、私達はどうすれば?
そう言いながら体を起こして力強く長いすから立ち上がり、腕を組んで、これまで聞いたこともないような力強すぎる声で、宣言した。
「さぁ!
 もうこれで万全よ。
 どこからでも掛ってらっしゃい!」
と。
アトガキ
ふう・・・
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2008/04/12 初校up
管理人 芥屋 芥