SuperStrings Alchemist
44.Past Things
スッ・・・と、が彼の左側の目蓋に一瞬手をかざして、それで、事は、終了した。
「少佐?」
アルが、疑問の声で少佐に言葉を投げかける理由は、なんとなく・・・どころじゃなくて、すごく、分かる。
何故なら、大佐は痛がってる様子は全然なくて、更にはそこにはちゃんと、大佐の目が・・・
あれ?
『持っていく』って、さっき言わなかったか?
「あぁ。
 今始めると、陣を使って練成しないといけなくなるし・・・
 本番の時のための、ただ印をつけただけ。
 付けておかないと、うっかり忘れたら笑えないだろ?」
そう言って、少し、笑う。
あぁ・・・そっか。
この人、今から人を、一人どころか、殺された人全員を戻すんだっけか。
そりゃそんな大量の人の中に紛れりゃ、例え約束していたとしても、忘れられても仕方が無い頭数・・・か。

「持っていかれたときは、結構痛いぜ?大佐」
代表で『持っていかれる』ことを望んだロイに対し、エドが言う。
「忠告と受け取っておくよ、鋼の」
「あ、そうだ。
 さっきの地図、貸して。エドワード君」
言われたエドが、再度地図を取り出しに渡すと彼は
「そうだよな・・・
 ここからでも、情報は読み取れる」
と言って膝を折ってしゃがむと、その地図を床に広げてその上に手をかざした。
「錬成陣の中心は・・・街の中央広場か。
 噴水があるところだな・・・」
そうは言っても、噴水のところにも、印がある。
その印は、人がそこで死んだ証。
なのにそこが中心だと、さんは言い切る。
どうして?
ほら、疑問は直ぐに解消しなきゃ。
「なんで分かるの?」
アルが覗き込んで少佐に聞く。
「ん?
 まぁ・・・街全体を覆ってる力の流れと地図を照らし合わせてみたから」
地図だけじゃない、周りの力の流れからも判断してるのか。この人は。
それにしても、ある意味『同じ』って分かったためか、アルがさっきから・・・いや、元々こいつ(アル)は・・・って・・・
そうか。
ずっとアルは意味も無く少佐に懐いてるって、ずっと思ってたけど・・・
意味は、ちゃんとソコにあった。
『同じ』って、最初から分かってたのか?
でもアルはそんなこと一言も言った覚えはないぞ?
なんて考えている彼に、声が届く。
「エド」
「師匠?」
「・・・?」
声を発したイズミに視線が集まるが、彼女はそれを気にした様子もなくエドに言う。
「あんたも、引っ張られてるんでしょ?」
「師匠?・・・どういう・・・?」
彼女の言葉の意図が読めず、エドが疑問の声を出す。
「人体練成をした者は、少なからずに引っ張られるって、そう言ってるの」
「もしかして・・・師匠・・・も?」
「じゃなかったら、直ぐにこの街の実態を見極めにはこない。
 はね。
 私にとってはある種の身内なの。
 身内がやられたら、怒るの当然だし、助けたいと思うのは私にとっては当然よ。
 だけど、エドにアル。
 アンタ達も、それは同じだからね」
救い様のないコトを仕出かしたことが知られたとき、こっぴどく怒られた。
でも、許してくれたから・・・今こうして会うこともできる。
話し掛けても、返事が返ってくる。
だから『許してる』って、分かる。
そして多分、師匠が練成したときに出合って、それ以来師匠はきっと俺以上の『何か』を感じ取っているんだろう。
そしてそれ以来、俺たちが知らないところで、少佐とは付き合いがあったんだ・・・って。
「少し、軍の動向を探ってくる」
大佐がそう言って中尉と共に教会を出て行くその後ろから、が声をかけた。
「大佐。
 外は、流れが大きくなっています。
 印をつけた目には、少し、いつもより多くの情報が入ってくるかもしれませんから、気をつけて」
「分かっている」
そう答えると二人は建物から、一歩足を、踏み出していった。
 
 
 
がロイに忠告した『いつもより多く見える情報』
それが具体的にどういうものかは、ロイは答えなかった。
何故ならが手をかざした後、自分で色々調べていたようだから。
部屋を歩いたり、地図の上でが行ったことをジッと見ていたり。
そして納得したように戻ってくると、今度は様子を見ると言ったから、恐らく、本格的になる前に慣れておく必要があると判断したのかもしれない。
何が見えているかは、多分、大佐と少佐しか分からない。
もしかしたらアルにも見えているのかもしれないが、アルはまた、違うのだろうか。
そういうことは、一切言わない。
「なぁ・・・アル・・・」
「ねぇ兄さん。
 『体』って、いいね」
言いたいことが、解かるのか。
アルが、ポツリと呟く。
「あぁ・・・」
自分が弟に背負わせたものは、とてつもなく大きくて。
でも、なんとかここまでたどり着いた。
だけどもしかしたら何か引っ掛かるものがあるのか?
そう思わせるほど、彼の声には影が落ちている。
だけど、
「ねぇ兄さん」
「ん?」
「僕の言ったとおり、さんって、そんなに悪い人じゃなかったでしょ?」
さっきのとは全然違って、その声はどこか、嬉しそうな声だった。
自分の体がもしかしたら戻ってくるかもしれないことよりも、自分の言葉が当たっていたことの方を喜んでいるようだった。
だから聞いた。
もしかしたら、聞いちゃいけなかったのかもしれないけどエドは、聞いた。
「なぁ・・・アル・・・
 お前・・・嬉しくないのか?」
「何が?」
「お前の・・・その・・・体が・・・」
それ以上の言葉を遮るようにして、アルが答える。
「嬉しいよ。
 嬉しくないはずないだろ?
 だけど・・・」
そこから先の言葉が、止まる。
「だけど・・・もしかしたら・・・」
それ以上彼の口から言葉が漏れることは無く、妙な沈黙がその空間を支配する。
イズミも、そして自分のことを言われているも、そんな二人の会話が聞こえているはずなのに、聞いていない振りを、してくれる。
それにそれ以上アルの口から言葉が出なかったし、エドもそれ以上、聞かなかった。

『嬉しい』

その言葉をアルの口から聞けただけで、それだけで良かった。
この場合の、少佐に言うべき言葉はどんな言葉が似合うんだろう。
やっぱり、『ありがとう』なのか?
でも、ちょっとそれは違うような気もする。
『ごめんなさい』か?
これも違うな。
・・・やっぱり、取り返してくれるんだから、『ありがとう』・・・か。
でも、ちょっとだけ複雑・・・だよな、実際・・・
そう考えながらエドは天井を仰いでみる。
自分には見えない、その『流れ』
だけど、確かにそこに存在していたことは、ずっと知っていた、感じ取っていた。
まさか自分が物を練成する時に、あれほどの『余り物』を出していたなんて・・・な。
全然使い切ってないじゃねぇかよ・・・
あれだけの『余り物』を出しておいて、それのどこが『等価』なんだ?
そう思うが、しかし少佐の話を聞いて、やはりそれが『等価交換』なのだと、改めて思う。
『余り物』は、あっという間に時間の中に消化されていく。
そして光の中に埋もれていく。
それは、今まで考えもつかなかった理論。
全ては過去・・・
光と共に進む彼、少佐からこの世界を見たら、『この世界』は既に、過去の出来事でもあるんだ・・・と。
進む範囲が、速さが違いすぎる。
戻っているようで、蓄積されていく。
その石を抑える体。
一度始まるともう止められないと、この人は言った。
そして、この世界とは確実な接点がないのだとも。
だから『始まり』がない体なのだとも・・・
『繋』の存在。
その中にいる者。
あぁ・・・だから・・・二つ名を『弦』って、言うんだな。
アトガキ
ふう・・・
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管理人 芥屋 芥