SuperStrings Alchemist
43.Parts of body
「殺すことはないだろうと、先ほどお前は言ったがな。
 それは、『お前』に対しての話であって、我々に対しては彼等は容赦なく排除しに掛ってくると思われるのだがな」
と、大佐がさっきの少佐の言葉を受けて意見し、その言葉に彼もまた、頷く。
「それもそうですね。彼等の狙いは俺一人で、それ以外は・・・
 ですが、やはり、なるべく殺さないで下さると、助かります」
「死ななきゃ良いわけだから・・・怪我をさせて動けなくするのは良いんだよね?さん」
と言ったのは、意外にもこれまで温厚だと思っていた弟のアルフォンス。
「あ・・・あぁ・・・まぁ・・・確かに」
面食らった様子でが答えると、
「なら、あちこちに錬成陣を先に時間差で・・・」
更に意見を言おうとしたところで、兄が口を開き
「それはダメだ」
と否定する。
「なんでだよ兄さん」
「そんなに錬成陣を描いていく時間がどこにあるんだよ。
 それに、相手がどう出てくるかで随分違ってくるし、下手したら描いた場所ごと吹っ飛ばされて、使い物にならないかもしれないんだぜ?」
自分の意見が全部言い終わる前に兄に否定され弟のアルは少し不機嫌になるが、言ってることは正論なので、しぶしぶ黙る。
「それは・・・確かにそうだけど・・・」
そんな兄弟のやり取りを見ていて、が少し考え込むように下を向いて、やがて口を開いた。
「そうか。
 奴等が敷いた錬成陣を、逆にこちらが使えばいいんだ」
と、思いついたように、口火を切った。
「うわぁ・・・それってさ少佐、他人のフンドシで〜ってヤツじゃない?」
と、話を聞いたエドが感想を洩らす。
「何を言う。
 この場合は既にあるものの活用っていうか、あるものは使わなきゃっていう、そんな『えこ』精神って言ってくれ」
「なんだよ。その『えこ』って・・・」
初めて聞く言葉が彼の口から出てきて、エドはやはり、その魂に別の世界の存在を感じ取る。
人を一人生き返らせるのにも綿密な計算で『創った』ハズだったのに失敗した自分達からすれば、この人一人に対して、この街で今まで殺された人たちが『等価交換』で戻ってくるなんて、そんな事実、とてもじゃないが信じられない話だけど。
その体に組み込まれている賢者の石と、練成で出来た体で造られている上に、更にその中に存在する圧倒的な力の差が、それを可能にするのだという話を聞かされて、納得した。
それにさっき、その『違い』を見せ付けられたし・・・
同じ力でも、練成で出来上がる物の差が、余りにも違いすぎる。
俺のは小さなガラス球だったのに、この人は、ガラスのテーブルを、同じ力で作り上げた。
大佐はソレに対して『解放率の差だ』と言ったけれど、本当にそれだけなのか?
とエドは考える。
それに、賢者の石がその中にあるのなら、もしかしたら・・・自分達の体も、返してくれるかも・・・
「ねぇさん。
 あの・・・」
アルも、そこに考えが至ったのか、彼に、とても言いにくそうに話し掛ける。
「何?」
「あの・・・僕たち・・・の・・・体・・・も・・・」
「あぁ
 そう言えば、そうだったね」
この兄弟は、『ソレ』を夢見て、探していた。
だけど、彼等がその体を失ったのは、『今』じゃなく、随分昔の話。
流石に流れすぎているであろうソレらを今更戻すには、いくらとは言え、『無償』ではできない。
「ちょっと・・・時間が経ってるから、『ついで』って言うわけにはいかないかも・・・」
と、少し遠慮しがちに断ったの声に重なるようにして、ロイが、言う。
「鋼のを国家錬金術師にしたのは私だからな。
 その責任の一旦は、私にもある。
 それに、
 私からも折り入って頼みがあるのだが・・・」
と。
 
 
 
「ヒューズ中佐・・・ですか」
「そうだ。
 できるか?」
「『出来ない』って、ここで言ったら俺、恨まれそうですけど・・・」
「できるんだな?」
「まぁ、できますが。
 流石に何もない状態からっていう訳には、幾らなんでも出来ません。
 力の解放の割合から考えて、腕と足と体と人一人分の練成で・・・って、イズミさんは・・・どうしますか?」
ここにもう一人、『持っていかれた』人間がいる。
それは、さっきから話に入ってこない、彼女・・・彼等の師匠。イズミ・カーティス
問われた彼女は、静かに、答える。
「私は・・・戻してもらう必要はないわ。
 もうこの体と付き合って随分だし。このまま一生、付き合っていくつもりだから」
と。
「で・・・でも・・・師匠は・・・本当に?」
自分の体が戻る最大のチャンスだ。
この機会を逃せば、きっと『次』は、ない。
なのに、辞退すると?
「本当よ。
 もう決めてるの」
その決意を感じ取ったのか、が了解の意を、示した。
「そこまで言うなら、わかりました。
 あなたの分は、なしで」
「ありがとう
「で、何が必要なんだ?」
ロイが問う。
「生体の一部」
至って簡潔にが答える。
「生体の一部って・・・結局持っていくってことか!?」
厳しい声で反応したのは、エドの方だ。
「話は最後までちゃんと聞いてくれると助かるんだけど・・・
 何も腕一本とか、そんな大げさな対価じゃないよ。
 大体、そうだなぁ・・・グラムにして、七グラム・・・くらいの、何か・・・体の一部でいい。
 流石に、随分時が経ってしまっている分については、そのまま対価も払わずに戻せるほど、俺だって万能じゃない」
とは言え、完全に出来ないといえば、それは、嘘になる。
ただしその場合は、自分がどうなるのか、見当がつかないが・・・
「生体の一部って、なんでも良いの?」
「そうだね。
 なるべくなら、再生不可な物がいいけど、差し出せなかったら、血液とか骨でもいい。
 その代わり血液の場合は戻した後、失血で倒れても文句言うなよ?」
つまり、血液の場合は、少し、危険が伴なうってことか・・・
やっぱり、対価が必要なんじゃねぇかよ・・・
とエドは思うが、それでも、『ソレ』を持つ本人の口からそんな言葉を聞かされたら、流石に、何もいえなくなる。
重みが・・・違うから・・・
この人は、ずっとソレを抱えて生きてきてるから・・・
抜け出せない循環するその中を、ただひたすらにグルグル回って、生きてきてるから。
「突っ掛かって、ごめん少佐。
 じゃぁ・・・俺の・・・」
エドが謝り、提案しようとしたときに、ロイが口を開く。
「鋼の。
 責任は、私が取るといっただろ?
 七グラム前後で、再生不可な物となると、耳か目か・・・
 鼻は一つしかないのでね。ご遠慮願いたいが・・・そうだな・・・この場合は、『目』が、妥当か」
と。
アトガキ
ふう・・・
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2008/04/10 初校up
管理人 芥屋 芥