SuperStrings Alchemist
42.a Human
「本当に、引き受けてくれるんですか?」
その問いに、大佐が頷く。
「ですが・・・」
「何か?少佐」
更に言い募ろうとしたを、『大佐』としての立場を込めて、ロイが問い返したから、は、ただ、黙るしかない。
いや、彼の『本気』という言葉を聞いたときに、もしかしたら、彼のこれからの行動は決まっていたのか。
「こうなった事態の、責任を取るんだろ?」
大佐が静かにに問う。
「はい」
と、が答える声には、決意の色が、濃く出ている。
「なら、お前がやるべきことは何だ?」
『何をするのか』ではなく、『するべきこと』を聞いてくる。
これ以上、が禁句にしていることを、言わせないために。
そして、が、ハッキリと、言った。
「戻すことです」
と。
 
 
 
 
 
 
 
少・・・失礼。
 をもし発見したら、我々はどう動いたらよろしいのでしょう」
声が響く。
「本作戦は、に襲われている街の救出ではない。
 街の制圧と、該当人物のあぶり出しだ」
「は?」
一瞬、男のいう言葉の意味が理解できず、かなり間抜けな声を、別の男が、出す。
「炙り出すのだ。
 少佐を」
「どういうことですか」
意味は理解できる。
だが、相手の男の言葉の意図が、理解できない。
殺すでも、捕獲するのでもなく、ただ・・・炙りだせ・・・などと。
「し・・・しかし、総統。
 それでは、ほぼ全ての軍を南に派遣した意味が・・・」
別の男が、総統であるブラッドレイに意見する。
だが、その目を見た瞬間、男は、黙った。
「何か、私にあるのかね?」
その時に感じた強烈な、『何か』を、男達は感じ取り、そして搾り出すように
「い・・・いえ・・・」
と、答えた。
 
 
 
 
「大佐。
 この街の地図か何か、持っていませんか?」
がロイに尋ねるが、答えたのはエドワードだった。
「地図なら俺が持ってる」
そう言って取り出して、広げられるところを見渡して、部屋の隅にあった古びたデスクの上に、エドが広げる。
ここは、捨てられて永い月日が経っているのだろうか。
舞い上がる埃で、一瞬視界が遮られる。
だが、そんなことに構っている時間はなく、エドの後をついて歩き、そこの上にそれを広げられたソレを見て、が呆れたように呟いた。
「これまた、随分と複雑なのを組んだものだな・・・」
と。
「複雑か?」
「複雑ですね。
 恐らく、君達が解いたものとは別に、後三つほど、錬成陣が絡んでるみたい」
言葉の前半をロイに。後半をエドに向けてが答える。
「相対的な錬成陣を基礎として、逆と裏が複雑に絡まってる」
「逆と・・・裏?・・・あれ?もうひとつは何?」
確かに、さっき、この人は『三つ』と言った。
なのに、出てきた名前は二つ・・・最後の一つは、何?
「それに、今回の場合はちょっと特殊でね。
 流れた血の一滴でも陣の『点』になって、それらが連なって線になり練成陣を組むんだ。
 つまり、建物の中で殺された場合なんかも含めて、正確な全体像はもう複雑すぎて、最早平面である地図上では解読不能」
と言いつつ、意見を机の方に移動した二人にではなく、少し離れてしまった中尉に、求めた。
「今まで、亡くなった人の数は?」
と。
「正確な数字は分かりませんが、恐らく、三千は越えているかと」
その答えを聞いて、の表情が僅かに曇り
「しかし、前のときより少ないか・・・」
と言い、すぐに顔を戻して
「これはもう、完成していると考えていいかもしれません。
 後は・・・恐らく、俺がどう動くか・・・でしょうね」
「俺たちが・・・だろ?少佐」
「乗ってくれるのか?」
そう尋ねたに対し、兄が、いつもの挑戦的な笑みを浮かべて、答えた。
「当然。」
 
 
 
 
 
「殺された、あるいは、これから出る死者は、開けるための糧になる。
 だから、なるべく殺さないでいてくれると、助かるんですが・・・」
「向こうは殺すつもりで来てるのに・・・
 『分』が悪いわね。」
「すみません・・・」
さんが謝ることないよ。
 だって、仕掛けてきたのは、向こう・・・なんだし・・・」
アルが謝ったをフォローする。
「ありがと。
 向こうの狙いは俺一人だと思いますが、殺しにはこないと思います。
 何故なら、今俺が死んだら、今までの奴等の努力が泡と消えるから」
「努力か・・・」
ロイが、殺しを『努力』と言ったことを、呆れた様子で揶揄する。
「かといって、今私達がを手にかけてしまうと、今まで殺された人たちもまた、戻ってこない」
「イズミさん?」
「選択は、。あんたが持ってる。
 そして責任を取ることを、あんたは選んだ。
 『流れ』が見えたんでしょ?
 だから途中で止めて、戻ってきたんでしょ?」
イズミの言葉に、の表情が一瞬驚きに変わるが、それも、直ぐに、戻って、質問に答えた。
「あなたの言うとおりですよ。イズミさん」
「やっぱりあんたは、私が思っている以上に、『人間』ね」
その言葉に、しばらく沈黙が降りる。
アルと同じ・・・魂と体が別々の存在。
だけど、練成したときの交換の差がアルとは比べ物にならな程多かったため、その体は、ちゃんと『生きている』
国を挙げての人体練成の果てに生まれた『モノ』
時間の中を、永遠にグルグル回って、結局、『始まり』がない体。
積み重なっていく経験。
だけど、本人はそこから一歩も踏み出せない、抜け出せない。
そんな、本当に、永遠とも言える時間の中にあっても、その魂は、やはり、『人間』・・・か。

「・・・ありがとうございます」
アトガキ
ふう・・・
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2008/04/09 初校up
管理人 芥屋 芥