SuperStrings Alchemist
40.Sleeping Father
話していて、気がついた。
自分は時が経たないと、昔の記憶が戻ってこない。
成長を続ければ、続けるほど、その瞬間の、時間軸だけが違う記憶が蘇ってきて、それが幾重にも重なって、蘇ってくる。
そして、自分が軍に入ったときは、思い出していなかったけれど・・・
あの時、ブラッドレイに『弦』の二つ名を与えらられた時に、気付くべきだったのかもしれない。
と、は、エルリック兄弟に話をしているのとは、別の考えでもって、頭の中で整理していく。


自分には、『始まり』はない。
昔から、扉の外と中をうろうろして、そして、その全ての記憶を持ったまま、生まれてくるから、『始まり』というのは、自分にはない。
一歳なら、一歳の、今まで過ごしてきた全ての『一歳』の記憶が、蘇ってくるだけで・・・
だから、いつからか、その年齢らしく振舞えなくなって、気味悪がられて、捨てられたことも、少なくない。
自分がこの世界の錬金術を初めて使ったのは、あの時。
あの総統の前で試験を受ける寸前の『時間』。
だから、試験を受けた。
それに、軍のやっていることが、少しばかり『きな臭かった』し・・・
何故あの時、軍を『きな臭い』と思ったのかは、恐らく、『前』の時間の記憶が少しでも後を引いていたからだろうか。
稀にそんなことは、確かに起きる。
時間も、コピーを重ねると、そこに少々ズレが生まれるから、完全に消えていない場合がある。
それが、あの『軍は危険』だという予感めいたものを、自分の中に生まれさせた・・・のかもしれない。
と、は、『過去の時間』を振り返った。
 
 
 
 
 
 
 
 
「出てきたか・・・」
揺れる車内で、下を向いていた男が、静かに呟く。
南に向かう軍隊の列の中の、その一つの車両の中で、男が、静かにゆっくりと顔を上げる。
ソレは、例え離れた場所であったとしても、男には容易に感じ取れる感覚。
あの扉を、あそこまで簡単に開け閉めできる存在は、『彼』以外に居ないから、直ぐに分かる。
昔、ヤツの錬金術をこの目で見たとき、これまでの錬金術師とは明らかに違う、そんな違和感があった。
体の奥から、己が己として確立される前のモノが無理矢理引きずり出されるような感覚が、自分を襲ったのだ。
あんな感覚は、今まで感じたことがなく、また、それによって、目の前で錬金術を行う『彼』自体が異質なのだということに、男は直ぐに気がついた。
だから、その後、確認を取った。
そして、『父』が、答えをくれた。
その錬金術は、異常だ・・・と。
そして、彼を監視するようにと、指示をしてきた。
その瞬間から、『父』は、膨大な量の計算に入ったのだ。
そしてその二つ名を『弦』にするようにと、指示したのも、『父』だ。
どこでも良いから、発展している街に彼を異動させろと言ってきたのも、『父』だ。
『父』は、果たしてヤツの何を知ったのか。
答えはしばらく出なかったが、ここに来て、やっとその断片が掴めつつあるらしい。
と、男は思う。
扉を開けて、ヤツを『元』に戻す・・・
元に戻れば、ヤツの体から出てくるものがある。
それを取り出すための、言わば、全ては布石。
前回の試みは、失敗に終わった。
何故なら、溢れたその力のほぼ全てを、ヤツが取り込み、消化してしまったから。
それ以上に、ヤツにはまだ、取り込めるだけの容量が余っていたらしいと、あの作戦の後、『父』が言った。
ヤツは定期的に、その取り込んだ『モノ』を解放して、空っぽにする瞬間があるらしいということを『父』が突き止めたのは、ヤツが軍に入ってしばらく経った、そう、イシュバールから、随分経った頃の話だ。
あの時から既に、こちらも目を付けられていたのではないか?
男はそう思うが、今はそんなことはどうでも良い。
兎に角、時期を合わせる必要があると、『父』は言った。
発展している街にヤツを配置しろとも、『父』は告げた。
だから、そうした。
ヤツは気付かなかったようだが、気付いても、今更遅い。
走り出した計画は、途中で止めることはできない。
だから今回は、潰させてもらう。
お前がここに『来た』方法の逆を、取らせてもらう。
そして、お前の中にある『物』を、奪う。
それは容易には取り出せない。
ヤツを殺したからと言って、その体から出てくるようなそんな単純な代物ならば、ここまで苦労はしない。
もし、ヤツを今殺してしまえば、また、その時期は遠のいてしまう。
ヤツが成長し、錬金術の記憶が戻ってくるまで、待たなければならない。
そんなのは、もう、時間の無駄だ。
ならば今、この時期に、仕掛けるしか手はあるまい。
時期は整った。
そして、男は、それを命令できる立場に今、立っている。
恐らく、連れて来た軍隊の三分の一は壊滅するだろう。
しかしそれでも、ヤツが持っているモノに比べれば、比べられないほどの対価でしかない。
「総統、いかがなされました」
隣に座る男が、問うてくる。
ふむ。
コヤツも、糧になってもらうか。
だが今、そうするのは得策ではない。
ギリギリまでこの軍隊には、『味方』でいてもらわねば困るのだから。
「いや、なんでもない」
冷静な、いつもの声で男が答える。
だが、その腹の中では、笑いを堪えるのを必死だったことは、隣の男に一切悟られることは、なかった。
 
 
 
 
 
 
 
「・・・から・・・この街に・・・」
「え?」
女性の小さな声が、その場に響く。
「中尉?」
ロイが振り返って、その人物を見る。
発したのは、イズミではなく、リザだった。
「だからこの街に、沢山の人が流れ込むように、仕向けた・・・」
あの時聞いた話と、今回の話を照らし合わせてみて、中尉が気付く。
もし、その話が本当ならば、この街は・・・
発展させられた?
まさか・・・
でも、どうしてそんなことをする必要が?
『生産性の違い』だと、さっき空間から聞こえてきた声は、言った。
これから生まれるであろう、力の差が、あの時よりも大きいと、声は言った。
それを途中で断ち切り、一定の量を超えさせると、それが少佐に向かうとも、声は、言った。
向かうことで、何が起きるのか。
それはリザには分からない。
だけど、発展した街が生産性が多いなら、残る量だって、余る量だって、多いはず。
ならばこの街は・・・
「そのために、選ばれた・・・の?」
 
 
 
 
 
 
男が、ベッドの上で、静かに夢うつつの中、ほくそえむ。
何処でも良かった。
発展していて、人口が多ければ、それだけで、候補に上がった。
東方でも良かったのだ。
北方でも良かったのだ。
西方でも良かったのだ。
ただ、たまたま部下を欲したのが、南方の司令部だっただけの話だ。
運のない男だ。
そして、そんな男に統治されている街もまた、運のない街だと言えるだろう。
それは、偶然か、必然か。
そんなことは、男にとっては些細なことだ。
ヤツのいるところに含まれる力が大きければ大きいほど、いいのだから。
さぁ。
もうすぐで、あれが手に入る。
その為に、全ての準備をしてきたのだから。
止まらない。
止められしない。
さぁ、見せろ。

お前の本当の錬金術を、私に、見せろ。
アトガキ
ふう・・・
2023/07/07 CSS書式修正
2008/04/03 初校up
管理人 芥屋 芥