SuperStrings Alchemist
39.Be Tired
「そう。
 さっき君が引っ張ってきた力から、物を造るのに使ったエネルギーを引いた力が、時間の中に巻きついたものだよ」
その言葉に、エドが反応するより早く、『何処か』から、声が届く。
『扉の番人も兼ねて、余った力の間に居るのが、俺たち・・・っていう訳さ。
 それにしても
 お前、やけにアッサリと『求める者』に答えを与えたもんだな。
 それほどソイツ等のこと、気に入ってる訳?』
と。
 
 
 
「だ・・・誰だ!」
急に響いた声に驚いて、エドが問い掛ける。
『ハイハ〜イ。呼ばれたんで来てみた、扉の向こうのモノ・・・
 って言えば、アンタは分かるんじゃない?』
空間から茶化したような、カラカイの声が響く。
それに応えたのは、だ。
「場を茶化すな。
 それと、さっきの余りモノで出てこれた訳でもないだろう」
『分かってるねぇ
 あんな『残りカス』なんて、出てくる一瞬のエネルギーにも満たない・・・ってことは、俺がここに出てこれている力の流れは別のところにあるって訳。
 分かる?エドワード・エルリック。久しぶり』
「ちょ・・・っちょっと待てよ!
 どういう・・・ッ!って、『久しぶり』って何だよッ!」
声に、苛立ちを隠さずにエドワードが問い掛けるが、それを半ば冷静に無視して答えたのは

「途中で死んだ者達による余った力が、『過ぎている』ってこと」
「・・・どういう・・・こと?」
問いかけたのは、アルの方だ。
「自然に死ぬわけでもなく、殺された場合、それ以降に生まれ、消化され、残るハズだった『力』は宙に浮く。
 その分の回収が、通常の場合は、彼等によって回収され、消化され、そして『時の中』に還元される。
 だが、今回のように、意図的にそれが多くなりすぎた場合・・・」
『・・・その矛先が、に向かうって寸法さ。
 溢れた力のほぼ全てを一気に解消できるのは、しか居ないからね』
「軍は、これと同じ事を一昔前にも行っているが、あの時はまだ容量が足りた。
 だが、今回は・・・」
『それ以上に、『多い』のさ』
「どういうことだ」
問い掛けたのは、ロイ。
一昔前に行われた、軍によるヒトゴロシというのは、あの作戦のことか。
『生産性の違い・・・って言えばいいのかなぁ。
 前のイシュヴァールでは、殺された人間が今後生み出すハズだった力が、小さかった。
 だけど、今回は、一人一人の生み出すハズだった力が、かなり大きい。
 微々たる差だけど、これが何万にもなると・・・』
膨大な差に、変貌する。
『それに、向こうがの壊変時期と合わせてきてるっていうのも、これまた大問題。
 下手したら、もう、戻ってこれなくなるかもよ?っていう、話さ』
「それについては、話してあるだろ」
『話してあっても、何でもさ。
 こう見えて、俺だって少しは悲しいんだぜ。
 もう、それこそ、百年単位の付き合いだし。
 それに貴重な話し相手だったしさ』
・・・百・・・年・・・単位?
「もう、『生きる』のにも、ちょっと疲れてるし、いい加減休ませろよ」
なんて、今まで聞いたことのない、少し砕けた口調で、そんなことを、平気で言ってのける。
「な・・・んで・・・生きるのが疲れるなんて・・・そんなこと言えるんだ、アンタは!」
母さんは、もっと、もっと、生きたかったはずだ。
そして、俺たちはソレを叶えようとした。
だけど・・・生き返らせることは出来なかった。
出来上がったのは、あんな・・・あんな・・・不完全なモノ・・・で・・・!
「母さんは、もっともっと生きたかったはずだ!
 なのにそれが出来なかった!そんな親を目の前で見た俺たちの前で、そんな言葉を言うな!」
エドワードの激情が、に向かう。
そしてアルは、それを止めない。
きっと、言いたいことが同じだから、いつもなら何か言うのに、今は、激情をにぶつける兄を、止めない。
へぇ。
怖気づかないんだ。彼。
こりゃ、が気に入るハズだよね・・・
ガリガリガリッと、空間に何かが刻まれる音がして、そちらに視線を軽くやると、そこに彼の思いが刻まれていた。
とは言え、それが見えているのはだけなのだが・・・
――だから、気に入ってないって・・・
と、心の中で毒づいてみる。
「・・・黙りなさい。エド」
怒りの感情をへ向けるエドワードに、冷静なしかし怒りを含んだ女性の声が掛る。
「し・・・師匠?」
その声の主に視線を向けて、アルが問う。
「あんたに、の何が分かるの」
「師匠?」
「イズミさ・・・ん?」
名前を言われているのはエドワードだけなはずなのに、何故かがイズミの名前を呼ぶ。
それほど彼女から迫力が出ていて、少し・・・怖い。
「イズミさん、落ち着いて」
「あんたは黙って
 ねぇ。死ぬに死ねないってことがどれほど苦痛か、あなたに分かる?エド」
真剣な表情で、イズミはエドワードに問う。
「自分の過去が、時間が進むたびに戻ってくる恐怖が、あなたに分かる?」
「ど・・・どういう・・・」
イズミのその言葉を聞いたとき、顔色が変わったのは鋼のだけではない。
その隣に立つもまた、顔色を変えた。
恐らく、この女性は何かを、に関する何かを、が自分に語ったこと以上のところまで知っているのだろうか?
そう判断して、ロイはその様子を黙って見つめている。
そしてエドは、その言葉の意味を確かめるため、隣に立つ彼を振り返る。
見上げたエドワードが見たのは、首を小さく横に振って、悲しい視線で師匠を見ている少佐の姿があった。
そして、エドワードを問い詰める彼女に、告げる。
 
 
 
 
 
「イズミさん。もう、それ以上は俺の口から言います」
と。
アトガキ
布石をそろそろ回収していかねば・・・3
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管理人 芥屋 芥