SuperStrings Alchemist
37.Evidence
その言葉を聞いたとき、『信じられない』という気持ちの方が大きかったように思う。
だからの口から、彼の言葉を否定する発言が出てしまった。
「う・・・そ・・・」
と。
しかしそれに対し、更に否定を返したのは後ろに立つ中尉。
「嘘ではありません、少佐」
言い聞かせるようにゆっくりと言うその表情には、敵意はなかった。
そして指鳴りの音と、避難を促す声が同時に響く。
「お前達は、の周りから離れろ!」
その次の瞬間、彼らの周りの地面から、炎が立った。
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
軍のコートを靡かせ石畳の音を立てながら、男がゆっくりと近づいて来るのと同時に、さっきまでに対し暴力を振るっていた人間たちが、その男が歩いてくるその筋に沿ってゆっくりと左右に分かれ自然と道を作る。
そして、二人を囲むようにして発生させた炎の前に立ちゆっくりと、まるで周りに宣言するように、男が静かに言った。
「今ここで、彼を襲っていたことについては、私は何も見なかった。
 だからお前達は、今ここでを見てはいない・・・いいな?」
と言って、その手を腰に当て、ある物の音を静かに鳴らす。
チャラ・・・
見せつけるように、ワザと・・・だが、ワザとかどうかは『判断を付けさせない』ようにして、男がその証を、『見せ』た。
それは、国家錬金術師の証。
例え持っているのが軍人ではなくても、同等の権利と地位が約束されるもの。
あんな小さなものが、その『証』。
そしてそれは、この炎の向こうにいる男も、持っている。
 
 
 
ガシャン・・・
一人がどこかで持っていた武器を落としたのを皮切りに、次々と武器が地面に落ちる音が周りに響く。
その銀の懐中時計を持っている人間には、敵わないと考えたのか。
はたまた別の意思で以って、武器を放棄するに至ったのかは分からないが、今この場にいる人々の戦意は、失われていっているのがはっきりと分かる。
だが男は、そんなことに頓着することなく、次の行動に移った。
炎が、割れる。
その中には二つの人影がいるのは分かるが、炎の光の影になっていてよく見えない。
そして男はその中へと、足を踏み入れた。
 
 
 
 
 
 
中でどんなやり取りがあって、どんなことが為されたのかは、外からでは分からない。
しかし今、この目の前で起きている現象は、信じられないものだ。
さっき、自分たちを襲っていたあの黒い小さな『虫食い』が、あの軍人が生んだ炎を襲っている。
ランダムにかつ適当な大きさで、炎が消えるのではなく、食われていく現象が今、目の前で起こっている。
こんな光景は、初めてだ。
水で消すのではなく、砂で消すのでもなく、『食われて』消えていくなんて・・・
「・・・ば・・・化け物だ・・・」
誰かが言ったのを境に、恐怖が生まれた。
そして我先に、そこから逃げ出そうと、人々が走り去ったそのあとに降りた静寂の中、その中心にいた三人の中の一人が、静かに口を開いた。
「これが・・・お前なりの『消火活動』か?
問われたのは
問うたのは、先ほど炎を起こした東の大佐・・・こと、ロイ・マスタング。
「えぇ。
 ですが、今はそんな些細なことに引っ掛かっている場合ではないでしょう?
 大佐。
 あの言葉は、本気で言ったんですか?」
自分に付いてくる・・・などと。
「あぁ。本気だ。
 私はこの街で起こっている、事の真実が知りたいのだよ。
 その為には、なんでもするさ」
そう言うと、の表情が少しだけ、ほんの少しだけ、驚いた様子になる。
そんな顔をすると、案外カワイイんだがな・・・
と、ロイは場違いなことを思ったが、それは直ぐに心の底へと消えた。
「大佐は・・・
 下手な博打は打たないものと思ってましたけど・・・
 案外、無茶な賭け方をする人だったんですね」
少しだけ砕けた口調のの切り返しに、今度はロイの方が少しだけ驚く。
「・・・敵に・・・回しますよ?」
『自分に付いてくると』と、『軍を』の言葉は、あえて伏せられた。
「構わん」
「中尉は・・・」
彼女に視線を向けて、そこで言葉が止まる。
そして
「・・・聞くだけ、無駄ですね」
一人納得したように言うと、リザが小さく頷いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「それで・・・わざわざ師匠に怒られるためにここに来た・・・っていうわけか」
「それだけじゃないけど・・・でも、街の中ではここが一番気に入っている場所だから」
着ていたコートを、長いすで横になっている師匠に掛け、その近くの椅子に座っているに、さっきからエドとアルが質問している。
そう言って、苦笑いするにエドは、今度こそ、聞いた。
少佐・・・あんた・・・一体何者だ」
と。
だがその質問に答えたのは、いや、口を挟んだのは、外の様子を窓からう伺っていたロイだった。
「何者か?・・・か。
 、お前は答えられるのか?」
様子を伺っていたその行動を止め、ロイが歩いて近づきながらに問う。
薄暗い教会の中、近づかなければの顔ははっきりとは見えない。
「・・・求めれば、逃げる者。
 求めなければ、寄り添う者・・・」
今度は、女性の声が響く。
「「師匠?!」」
「イズミさん?」
エドとアルとが、同時にその声に反応する。
「あんたは、私から見ればそういう『人間』よ。
 例えその中に石を抱えていても、あんたは人間よ。
 誰よりもね」
静かに告げられた真実に、エドは気付いた。
「い・・・し?」
錬金術師の間で『石』といえば、アレしかない。
だけど・・・本当に?
大佐が静かに目を閉じる。
中尉が静かに視線を逸らす。
「・・・嘘だ」
その様子から、師匠が言った言葉は本当だと、エドの頭は理解すると同時に急に押し寄せてきた現実に、少し混乱する。
さん・・・嘘だよね」
アルが、声を少しだけ震わせ、聞いた。
だがそれは、完全に否定された。
「・・・本当だよ」
アトガキ
布石をそろそろ回収していかねば・・・
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2008/03/19 初校up
管理人 芥屋 芥