SuperStrings Alchemist
36.Go with you
急に空間が歪んで一瞬で出来た『それ』から、倒れ込むように現れたのはさんと・・・彼を支えている大佐に中尉だった。
そして、エドがその二人に驚いている間に動いたのは、アル。
さん!?」
慌ててアルが腕を差し出して支えようとするが彼はそれを断り、
「大佐も・・・放して下さい。
 まず、俺はイズミさんに謝らないと・・・」
と言うと、ゆっくりとした足取りで彼女が横になっている教会の長いすの方へと歩き出す。
その様子を、俺たちは見守ることくらしか、今はできない。
どうして、なんで急に居なくなったにも関わらず、しかし、常に話の中心にはこの人がいたのだろうか?という疑問が頭をよぎっても、今はまだ、聞けない。
 
 
「大丈夫ですか?」
起き上がろうとしているイズミに対してそう言うと、彼女はを思いっきり睨み
「どうして・・・あんたは・・・ッ!」
何故ばかりが浮かぶ。
帰ってきたばかりで、本調子ではなかったはず。
だから無理させたくなかった。
それに私は・・・あの時から、ずっと見てきた。
だから・・・だから・・・
でも・・・
「いくら私が、一瞬でも扉の向こうを見たと言っても、やっぱりあんたと同じ視線には立てないってこと・・・か・・・」
そう呟いたイズミの言葉には、絶望の色が濃く出ていた。
しかし、それは、否定された。
「いいえ。
 あなたには、待っている人がいる。
 だから・・・ですよ」
ゆっくりと言われた真実の事に、イズミは僅かに目を見開いて驚き、やがて
「・・・馬鹿」
と、小さく言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
「母さんを・・・返せ」
路地裏から出てきたのは、つたない武器を持ち、憎しみの目でを見上げる一人の少年。
・・・だけじゃない。
気配からして数十人。
周りにいる気配で人数を察したは、小さく、本当に小さく息を吐く。
今まで死んでいった人たちを、実質手を下したのは、自分ではない。
自分ではないが、『彼らの認識』は、確かに自分なのだ。
と、相対的な考えがの頭をよぎっていく。
人一人に違う認識が生まれるのなら、確かにそれは同じ事象であったとしても、確かに『違う』のだと、絶対的な認識というものはないと、どこか遠くの場所で話す誰かの声が、耳の奥から聞こえてくる。
あれは一体誰だったか。
空を見上げるたびに、違う時代、違う統治者に会ってきた。
その多くは、自分を求めた。
この肉を食べれば私は死なないのか?
これを行えば、私はお前と同じになるのか?
聞いてくるのは、大抵が権力を持った者・・・だ。
『お前達と同じ眼を、俺は知ってる』
一つの国の住人のほぼ九割を失ってもまだ足らず、この体だけが蘇ったあの時。
それでも、『対価』としは少しは余ったのか、魂を外から連れて来るだけの余剰分で、連れてこられたのが自分だった。
その時に払わされた対価で、『外』での一切の記憶を失い、そして、この体に入った直後に見えた、あの目。
あれは、狂喜の眼だ。
あれは、狂人の眼だ。
あれは・・・あんなのは・・・
違う
アレは・・・違う・・・『俺』じゃない!
 
 
 
 
「やっちまえ!」
その声で意識が引きずり戻され、そして一瞬だけ、ほんの一瞬だけが意図的に瞳を閉じ、そして、開けたその目にあったのは、決意だった。
・・・こんな形で無理矢理開放させられるとは、思っても見なかった。
今まで一度も割り出されなかった自分の中の臨界点を割り出されたか、はたまた、事象の地平を割り出されたか。
いずれにしても、よほど頭の良い人間が向こう側についたということは、確からしい。
襲ってくる彼らの攻撃をコトゴトク避けながらも、定期的に地面に手をつき、そして印を付けていく。
これだけの人間を運ぶには、それなりの下準備が必要だからだ。
ザっ!
石畳と靴が擦れる音が辺りに響き、その中に金属の音も混じる。
大人たちは、皆それぞれ家の中にある武器を持ってきているから。
「孫を・・・目の前で殺された。
 お前にだ!」
目の前の路地影から、憎しみのこもった眼で自分を見る杖をついた白髪の老人が、しゃがれた声で精一杯叫ぶ。
しかしこの老人は、すぐ足元に扉の影がちらついているから・・・そろそろ・・・といったところだろうか。
今ここで、この老人殺さなければならない理由は何もない。
むしろこのまま生かし自然と待った方が、あとで扉から呼び戻すときの数が一人、減る。
 
 
責任は取る。
ただし、それは『殺された人間の数』だけで、自然と逝った者への責任は一切取れない。
そう思い、彼は腕を、ゆっくりと上げた。
 
 
 
 
 
パチンッ!
 
指が鳴る音が響いた瞬間、どこからともなく音が響く。
いや・・・違う・・・これは・・・音じゃなくて!?
「うわぁ!」
少年が驚いて頭を庇うように腕を上げ、その時持っていた木の棒が地面に落ち、カランコロンという軽快な音を立てて転がっていく。
その木の棒が、所々、まるで虫食いにあったように、黒い何かが・・・喰ってる?
「あ・・・あ・・・」
そして、それは自分の体へと侵食していく。
それはさっき、が一瞬で一人になったときに、自分たちが見たものと同じもの。
しかし僅かな隙間から覗いていたため、ハッキリとは見ていない。
そして、彼本人を目の前にしてすっかり頭から消えていたが、冷静に考えてみたら彼は・・・
 
 
「一般人に錬金術を使う気か!!」
 
 
叫び声と共に、その場に炎が割り込んでくる。
「大佐?!」
驚いた一瞬の隙をついて
「動かないで下さい、少佐」
乱闘とも呼べる人垣をかいくぐり、いつの間に後ろに居たのか、中尉が銃を首元につける。
やがて漏れたその声は、苦笑の色が濃く出ていた。
「ま・・・でしょうね。
 では、ここは一旦引きます。
 俺にはこの後も用事がありますので・・・」
中尉にだけ聞こえるように言うと、やりかけていた錬金術を解き、そして再度練成し直した。
だが
「待て
 ここは、我々も同行させてもらう」
 
 
その言葉を、信じられない思いでは聞いた。
アトガキ
国家錬金術師//
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2008/03/17 初校up
管理人 芥屋 芥