SuperStrings Alchemist
35.SpatialBox

 勝手にどっか行くんじゃない!!ここの場所に決着を付けてから行け!このバカ!!」

 ・・・
  ・・・
   ・・・誰?
誰・・・の・・・声?
アナタは・・・ダレ・・・デスカ?
 
目を開けると、空が見えた。
いつの時代も常にそこにあって、変わることの無い空が・・・
そして彼は、声を出した。
「あ・・・れ・・・?」
と。
何故なら、空より更に近いところに影が降りたから。
「だ・・・れ・・・?」
影の形からして、『人間』だろうか。
そして、カツンという石畳を踏み締める力強い音が、耳元に響く。
それすら、今の自分にはどこか心地よくて、まだフワフワとしている意識を少しだけ引き締める。
「『誰?』じゃない、このバカ!」
そんな声が聞こえて、グイっと思いっきり体が引っ張られて、浮く。
間近に迫ったのは、女性の顔。
怒って・・・る?
「えっと・・・誰だっけ・・・」
まだ頭がハッキリとしないようで、そんなことを言ってしまう。
「このバカ
 あんた、まさか私の顔を忘れたっていうわけ?
 ほぉ・・・良い度胸してんじゃないの」
その瞬間、頬に衝撃が走った。
バシィッ!!
「さっさと起きて!
 そして、とっととケリを付けなさい。
 あんたの所為でこの街、とんでもない街になっちゃったんだからね!」
と、女性が怒りながらも、泣きそうな表情でそんなことを言う。
それにしても、さっき何故この女性は・・・
見覚えが・・・あ・・・
「イズ・・・ミ・・・?」
「『イズミ』じゃない。
 『イズミさん』
 全く、出てきたと思ったら、そうやってボケるのはやめなさい。
 で、
 『あんた』自身は大丈夫なの?
 どっか欠けてるとか、ないわけ?流されたとか・・・」
イズミがぶっきらぼうに言いながらも、掴んでいた胸座から肩に手を移動させて、聞いてきた。
だけど・・・
「あ・・・うん・・・
 多分大丈夫。
 どこも・・・欠けてないと思う。
 けど、揺らすの・・・止めてく・・・ちょっ・・・頭が・・・」
グラグラする。
そして、遠くから声が聞こえてきた。
この声は・・・
さん!」
 
 
 
 
 
二人は走った。
引っ張られる方向に向かって、自然と足がそっちに向く。
二人の間に言葉はなかった。
ただ、感覚が鋭くなる方へ方へと足を向けた。
煉瓦造りのアパートが立ち並ぶ、大通りから少し道を入った一本の生活道路をピタリと引き当てて、いや、まるで引き寄せられたかのように、エドとアルはひたすら走る。
この先に、必ず居る。
何故か分からないけれど、確信がある。
そして、それは『持っていかれた』量が圧倒的に多いアルの方が強く感じていた。
だから、アルが前を走る。
それに関してエドは何も言わなかった。
言える訳もないと、エドは思う。
何せ、弟をあんな身体にしたのは、紛れもなく自分なのだから。
それにしても・・・
俺にはまだ、この『感覚』が・・・
そして煉瓦造りが並ぶその道の先で、動く人影が見えた。
前を走っていたアルが叫ぶ。
さん!」
だれどその足が、その場で止まる。
「し・・・師匠・・・?」
どうやら、見つけたのはさんだけじゃなく・・・
「な・・・な・・・なんで・・・?」
アルの声が、恐怖で強張ってる。
かく言うエドも、その彼女の姿を確認して、足が止まった。
「何。
 私がいちゃ、ダメだっていうの?」
その恐怖の声が、響く。
「「い・・・いや・・・そんな・・・滅相もありません!」」
と、声をハモらせ首をブンブンと横に振りながら二人が答えるその顔には、焦りと恐怖の色の中に強い安心感が浮かんでいる。
そんな師弟のやり取りを石畳に座り少し苦笑いを浮かべて見ていたが、ゆっくりとその身体に力を入れて立ち上がる。
その動きにサッと反応したイズミが、彼に手を差し出して支えようとするが、彼はそれを断った。
「身体に響きますから」
と言うと、なんとか立ち上がって背伸びをし、空を見る。
「・・・ん!・・・はぁ」
大きく深呼吸をして、思いっきり息を吐き、そして肩を動かして腕を回しやがて辺りを見回して
「・・・イズミさん。
 走れますか?」
イズミに向かって、周りに、ただし兄弟には聞こえるようにが言う。
それに素早くイズミが頷くと
「後は俺が引き受けます。今は逃げてください」
その言葉に、エドとアルの顔にも緊張が宿り、そして辺り一面に気配をめぐらせる。
「兄さん・・・」
「あぁ」
が師匠を気遣った訳が、やっと分かった。
囲まれてる。
「あんたはどうする気?」
声を低くして彼女が問う。
「引き受けます。
 これ以上、彼らの好きにはさせません」
「彼『等』?」
「えぇ。
 ですが、今は逃げてください。もし無理なら、任意の位置に運びます」
その言葉にイズミが断りの返答を返す。
「何言ってるのよ。私だって錬金術師よ?なめないで」
「じゃ、兄弟はこの人のことをお願い。
 彼らの目的は俺でしょ?」
そういうさんの表情は少し苦しそうだけれど、でも
「・・・はい」
確信を持って問われては、嘘はつけない。
それに・・・
「来るよ。行け!」
思考は、そこで途切れた。
パチンッ!
指が鳴ると同時に、世界が暗くなる。
まるで、暗い幕が空間ごと包むように辺り一面が真っ暗に染まっていく。
まるで、黒いペンキが素早く自分が見ている空間に塗られていくような、そんな景色が目の前で展開されていく。
!!」
イズミが叫び手を伸ばしたが、しかしその声が届く前にその手が幕から出る前に、完全に空間ごと閉じてしまった。
その閉じる寸前に彼がこっちを見て、微かに笑ったように思ったが、それも定かじゃない。
だけど・・・どうして?!
「し・・・師匠・・・コレ・・・!?」
何だ?コレ!?
驚いているエドたちに比べ、イズミは冷静だったが、しかしその表情は悔しそうにゆがんでいた。
「あの・・・馬鹿ッ」
何故使ったか。
決まってる。
私達を守るため。
帰ってきたばかりだっていうのに!
まだ身体も本調子じゃないはずなのに・・・!
そんな彼女の思いを裏切るかのように、空間の黒い幕か壁か布か分からない『何か』は、自分達に何ら危害を加えることなく、ソコに到着させた。
まるで、何かを包んでいた布が一気に取り払われるようにして、色のある空間が目の前に開けたから、その中にいた少なくとも二人は驚いた 。
「一体・・・何が・・・」
思わず出た疑問に答えたのは、イズミ。
「今、私達は空間を横滑りしてきたのよ」
「横・・・滑り・・・?」
「えぇ」
「横滑りって・・・どういう・・・」
理解を超えた『何か』に、アルの言葉が途中で止まる。
「そうね。
 例えるなら、あの黒い幕が私達を運ぶ『箱』だとするならば、その中に居た私達は『荷物』という関係・・・かしらね」
そして、辿り着かされた(届けられた)のは、教会の中。
「荷物って・・・」
「兎に角、私達は空間を横すべりして、彼に運ばれたの。
 全く、自分の身体も本調子じゃないっていうのに・・・」
と、取り付けられた長いすに腰を下ろしながらイズミが頭に手を当てて言葉を放つ。
「それが、少佐の錬金術?」
エドが問い、イズミがそれに頷く。
「だから、『ストリングス』
 彼の銘が『弦』であることの由ら・・・い・・・」
そして、その名を付けたのはブラッドレイであり、この事件の裏にも絡んでる・・・
『アレ』を人と言っても良いのだろうか。
あんな・・・『集めただけの出来損ない』を・・・
「師匠!?」
ゴフッ!
と、内臓に負担が掛って、口の中に血の臭いと鉄の味が広がる。
・・・ちょっと・・・無理・・・しすぎた・・・かしらね・・・
アトガキ
やっと出てきたか
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管理人 芥屋 芥