SuperStrings Alchemist
34.Gravitation
何かがやって来る。
何かが通り抜けていく。
何かが近づいて来る。
アレは何?
これは何?
俺の・・・何?
俺の・・・何か・・・が・・・

流れが創られる。
最初は小さなソレは,やがて大きな一つの奔流となって体を襲う。
だが,それに『何か』に守られるようにしてその流れに乗らない(乗れない)自分は一体何者なのか。
ここに連れて来られたときに失った『何か』
覚えているのは,沢山の腕と,それに驚く自分と,真っ白な光。
微かに見覚えのあるそれらが,一つに集まっていく。
それに手を伸ばそうとしたところで,『ソレ』は闇へと吸い込まれていく。
――待って!!
彼の叫び声は声にならずに,体の中へと消えていく。
届きそうだった『真実』
掴みそうだった,その『何か』
だけど,ミントの手は何にも届くことなく,掴むことなく,虚空に揺れる。
――やっと・・・届きそうだったのに・・・
ここまで来るのに,いくらなんでも永すぎた。
でも今の自分は,大事な,最も大事な『何か』を完全に忘れている。
ます,それを探さなければ,恐らく,話が始まらないだろう・・・
それだけは,ハッキリと分かる。
理解できる。
そして,今,自分の体がそろそろ限界であるということも・・・
こりゃぁ・・・無理矢理引き出すしかないな。
 
 
 
 
「今・・・光った?」
軍令部に向けて走る車内の中で,『ソレ』に真っ先に反応したのはイズミだった。
「え?」
運転していた中尉が反応する。
「車をとめて降ろして。
 今,あの子がッ!」
あの子?
「ラビッシュ少佐のことですか?」
中尉が彼を階級付けで呼ぶ。
重要参考人・・・そして,大量殺人の犯人と目される・・だが,この車内にはそれを信じている人間は誰一人いない。
だからこそ階級付で彼を呼べるのだが,今はそんな些細なことは関係なかった。
「他に何があるの?」
と,大佐と中尉を『彼を捕まえたがっている軍の一員』としてみているイズミの態度は,硬かった。
「イズミさん。
 我々はラビッシュを捕まえに行くわけじゃない。
 ただ,話を聞きたいだけだ。」
何故こんなことになったのか。
その原因,そして,理由。
彼が犯人ではないことは,先ほど対峙したアイツを見て確信した。
ならばソコにミントの動機は存在しない。
代わりに大きな割合を占めてくるのが,『理由』
いや,もしかしたら,その『理由』自体も,アイツとは関係ないのかもしれないが・・・
だとしたら,最初の『原因』が全てこの事件の全割合を示すのか?
違う・・・な。
と,ロイは冷静な自分の頭の中で考える。
『原因』は最初の一撃だけだったろう。
だが,そこに付け込んだ連中がいる。
ソイツ等が今回,この事件の背景に占める割合が大きいような気がする。
つまり,この事件の手は完全にその『原因』たるミントの手を離れ,一人歩きしている・・・と。
そう,ロイは考える。
だからこそ,彼が犯人ではないという確信も持てるわけだが・・・
それにしても,総統の指揮の下,この国に散っているほぼ全ての軍が来るという話。
その中には確実に国家錬金術師も加わっているだろう。
国家錬金術師たった一人といえども,それを捕まえ,拘束するとなると,やはり大掛かりな作戦が必要なのだ。
まるで『あの時』のような状況。
あの時は,『掃討作戦』だった。
だが,今回は恐らく『制圧』でくるだろう。
あの時,国家錬金術師が最後に『兵器』として投入された,思い出したくも無い『戦争』
いや,戦争というのもオコガマシイほどの虐殺場。
イシュヴァール・・・
「・・・さ?・・・大佐!マスタング大佐!」
中尉の声で,ロイの考えは中断し,我に返った彼が見たのは既に車から降り,去ろうとしているイズミの姿。
「じゃ,私行くわ
 貴方達はもう,軍令部に戻って」
外からそう言うと,彼女は彼女が信じる道へと走り出している。
「どうしますか?」
中尉が判断を仰ぐ。
やはり,こんな時でも彼女は軍人としての主導権をロイに握らせる。
順番は違えど,あの時と状況は似ている。
あの時は軍が虐殺を行ったが,今回はヤツが虐殺を行っている。
一人の国家錬金術師相手とはいえ,出しすぎる軍隊兵力。
それほどまでにミントの使う錬金術というのは・・・
ストリングス・・・弦・・・そして,時間と空間とを繋ぐ布の『基』
それを扱うというミントの錬金術とは・・・一体?
あの時,ヤツが国家錬金術師になるときに目の前だったが,あれ一度しかきりしか見た記憶がないから,よく思い出せない。
ここで詰ると,ロイはもう一方の考えも,同時に推理していく。
捜査が後手後手に回った結果,大量の死者を出してしまった。
街には負の感情が渦巻いている。
まるであいつに,全ての感情が向かうかのように。
それは一人では背負いきれないものだ。
そして発生し続け,流れ続ける大量の死者と血。
中心に居ると思われるミントに,どれほどの重圧が圧し掛かるだろう。
何故ミントをそこまでして追い詰める?
ミントが仮に原因だとしても,そこにアイツがここまで大掛かりなことを仕出かしてまで付け込む理由は一体なんだ?
そして,これから更に事態はオオゴトになっていく,その訳・・・は・・・?
そこで一つの可能性に,ロイは突き当たる。
ま・・・さか・・・
だが,一番見落としていた推測。
では,『あの時』も同じ推論が?
そんな・・・馬鹿な・・・
しかし,そうなれば自分達も軍を敵に回すことになる。
とても重い選択だ。
今,彼女のあとを追うか,否かで,大きく変わる・・・とは。
気付くべきだったのか,気付かずにそのまま進むべきだったのか。
直前で気付いた皮肉に,ロイはクスリと笑うと中尉にこう言った。
「中尉,これから先何があっても,私についてきてくれるか?」
と。
そして返ってきた返事は,いつも通りの言葉だった。
「私はあなたの部下ですから,当然です」
 
 
 

 
 
光った。
今。
だが,それ以上に確信する。
この向こうに彼がいる。
失ったはずの『肉』が,あの時,真理の扉の向こうを覗いたときに失った自分の肉体が,ざわめくから。
開く。
帰ってくる。
 
 

 
 
「兄さん・・・」
「分かってる」
オートメイルと自分の体の境目が,妙に痛い。
つまり,『持っていかれた』部分がその先を探して訳もなく疼いてるということ。
そして,それは一定の方向に向けて疼きだしている。
アルは既にそっちに足を向けて
「兄さん・・・こっち・・・」
と言った。
 
 
 
 
 
 
広がっていく。
とても大きな力が。
流れていく。
本来の方向へ。
壊れていく。
とても小さな力で。
集まってくる。
ただ一つの負の力が。
さぁ・・・集まれ。
そして,更に小さなモノを動かせ。
折りたたんで,棒状にして,グルグル巻いて。
さぁ・・・できた。
空間と時間を,そこに包んで,さて,どこに行こう。
 
 
 
「ミント!
 勝手にどっか行くんじゃない!!ここの場所に決着を付けてから行け!このバカ!!」
アトガキ
ふう・・・
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管理人 芥屋 芥