SuperStrings Alchemist
33.Textiles
目なんか、瞑るものですか。
あの子のニセモノなんかに、負けてたまるものですか。
その光景は、まるでスローモーションでも見ているかのような、異様にゆっくりとした時間の中にいるようなそんな感覚で目の前のニセモノが迫り来るのをただ、ジッとみつめることくらいしか彼女にはできなかった。
実際の時間は、十秒となかっただろう。
しかし彼女にとってそれは、永遠を思わせるには十分な程長く感じた。
・・・」
小さく呟く。
そして、世界は真っ白に染まる。
その瞬間、殺されたかと思った。
 
 
 
 
 
パチンッ!
場違いな指鳴らしの音が響く。
そして、次に聞こえた音は何かが燃える音。
一瞬自分の耳が信じられなくなったが、それでも目は何もかもを見ていた。
「こっちに!」
頭に届いたのは女性の声。
引っ張られたのは自分の体。
何が起きているか分からないのは・・・
自分の頭だ!
「ハイ!」
その声に答え引っ張られた腕にまかせ、付いて走った。
後ろを振り返ることなく・・・


ドッガン
後ろから響いた爆発音で、二人の足が止まる。
思わず、前を走っていた軍人の女性が振り返って見た光景は、火柱と煙が空に向かって高く伸びていく光景だった。
「大佐!」
思わず彼女は叫んだ。
そして、その言葉に
「え?」
と反応したのはイズミだった。
「た・・・大佐って、もしかして、東の?」
女性軍人に問う。
「え・・・えぇ。
 ですが、何故あなたがそれを?」
まさか、空間の中の住人の情報で・・・とは言えず
「あの・・・その・・・鋼の・・・」
「あなた・・・一体・・・」
 
 
 
「甘く見てもらっては困るな。
 私の錬金術は、何も『炎』だけではないんだよ?」
余裕の表情で、建物のレンガが剥がれ落ちてくる真中で、男がそう言う。
目の前の瓦礫の山に座る男はではないと確信を持った。
今は彼の姿をしているが、全く雰囲気が違う。
何よりアイツは・・・
「ふーん、あっそ」
面白くもなんともないという風に呟かれた言葉と同時に、男の体がから見たことも無い姿へと変化した。
「何見とれてるのさ。」
一瞬で後ろに回りこまれ、ゴリッという音をさせて背中に当てられたのは、紛れも無く銃口。
「ボク個人としては、そりゃぁのことが好きだし、姿も真似できて『いいなぁ』とは思うけど、でもやっぱ、こっちの方がしっくりくる」
冷酷な口調で男が言う。
「ボクってさ、実際実戦向きじゃないんだよねぇ・・・」
と言いつつ、男は引き金を引いていく。
これは・・・死ぬかな?
そう思った。
 
 
「大佐伏せてください!」
声と共に響く銃声。
まさか戻ってくるとは思っていなかったんだろう。
男がロイから身を引いた。
パンッ
パンッ
パンッ・・・
乾いた銃声が周りに響き渡る。
三対一では、流石に分が悪い。
一人は錬金術師ではないが、一人は国家錬金術師ではないものの『真理』を見た錬金術師だ。
「ッチ」
という声を残して男が去っていく。
それを深追いすることはせず、ロイは深く一息つき、乱れた襟を正す。
「助かったよ、中尉。
 ところで、そちらの女性は?」
ガラッというレンガを踏む音を立てて、大佐が振り返ってそう聞いた。
 
 
 
「では、あなたは・・・いや、に呼ばれてここに?」
三人はあの後現場に駆けつけた部隊に任せ、借りた車の中で話をした。
あなたは誰か。
何故あの場に居たのか。
そして、何があったのか。
「えぇ。そうよ。
 貴方達こそ、どうして南に?」
「私達は、少佐に聞きたいことが・・・」
「イズミさん。我々もについて聞きたいことがあるんですが、よろしいかね?」
「え・・・えぇ。いいわよ」
「じゃぁ・・・
 私が見た彼は、姿を消す直前・・・だと思ってたけど・・・でも、時間的には『後』になる訳ね」
ここは、正直に話す。
そして、正確に話さなければ『軸』が合わない。
「後・・・か。確かにそうなりますね」
「ですが、そんなことが可能なのでしょうか」
と、運転しながら中尉が問う。
それに答えたのは、イズミだった。
「可能・・・なのでしょうね。
 何故なら彼には、時間と空間なんてただ糸を織り込んだ布くらいしにか見えてないから・・・」
「ストリングス?」
「そう。『糸(ストリングス)』よ
 あの子の二つ名の、『弦』と同じのね」
アトガキ
大佐と師匠・・・
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管理人 芥屋 芥