SuperStrings Alchemist
32.Decoy
「アル!」
その広場に着いたとき、数人の軍人達が目の前に・・・居た。
いや、正確には・・・転がっていた。
そして、視線を上に上げるとそこには・・・
・・・さん」
前を走っていたアルがその言葉と共に足を止めた。
ソイツを見て、直感的に二人は思った。


違う!
やはり、別人。


「お前・・・誰だ!?」
エドが鋭い声で目の前にいる『』に向けて声を放った。
「俺?俺だよ。さ」
そう名乗りながら、目の前のは、本来の彼ならば絶対にしないような、そんな歪んだ表情を見せた。
――アル。こいつは・・・
――分かってる。さんじゃない。
小声で確認しあう。
それに、ヤバイ。
コイツ・・・強い。


「ねぇ
 何をそんなに怖がってるの?」
一歩一歩近づきつつ、のニセモノが問う。
ニセモノは、ゆっくりと近づいて来る。
隙がない。
ジリジリと迫るのニセモノに、二人の体が一歩下がった。
その時だった。
 
 
「伏せろ!バカ弟子!!」
 
 
パンッ!
という力強い手を合わせる音と後ろから響いた怒声に、思わず体が竦む。
そして、アッという間に目の前に壁が出来上がった。
方陣なしの練成。
それができて、かつ、この街にきた(本人曰く「に呼ばれた」)錬金術師。
カツッ!
後ろで響く、石畳を踏む力強い音。
振り返ると、正に想像通りの人物が、そこに立っていた。
「し・・・師匠!」
だがその人は、直ぐに
「なにやってんの二人共!走りなさい!!」
と、二人が礼を言う前に、命令を出した。
「「は・・・はいっ!!」」
二人してそこから去ろうとするけど、『師匠は走れないんだっけ』
そう思ったら、止まってた。
「バカ、止まるな!」
師匠一人、置いて行けるか!
「師匠を置いて逃げられません」
アルが言う。
「あのねぇ。何のためにあんた達の前に壁作ったと思ってるのよ」
と呆れた様子で師匠が言うけど・・・
「いやです」
それに、音が・・・
どんどん大きくなっていってる。


もう、これは水の音じゃない!


ドゴォン!
壁が壊れその向こうから見えた・・・さ・・・ん?
「師匠!」
パンッと胸の前で力を循環させて、石畳の上に手を置いて壁を道幅一杯に再び練成した。
間一髪。
間に合った。
これである程度は時間は稼げる。
けど・・・アイツ・・・
「全く。なんで逃げないのよ!」
こんな時でもいつもの調子を変えない師匠に、少し懐かしい気持ちになる。
でも、和んでる状況じゃない。
「アイツ・・・さんじゃなかった」
と、アルが断言した。
「当然でしょ。
 あんなヤツがな訳ないじゃない。
 それよりもアル。
 あなた、何か聞こえない?」
師匠が、エドしか知らないはずのアルが聞こえるという『音の情報』を、どうして知ってるのか。
と、ここに来た時の大通りを避けて、暗く狭い路地を歩きながら師匠はアルに質問した。
「師・・・匠。どうしてそれを?」
知っているのか。
を支援してる、『影』の人たちからの情報よ。
 で、アル!
 聞こえるの?聞こえないの?どっち!」
影の人たち?
どうやら、自分達のわからないところで色々あったみたいだな。
とエドは思ったが、今それを聞いたらなんだか師匠の怒髪点突きそうなので、質問を引っ込めた。
「え・・・えっと。聞こえます。
 最初は水の音がどこかに流れてる音だと思ったんですけど・・・」
アルもどうやら同じだったようで、今は質問に答えたほうがよさそうだと判断したのか、歩きながら答えてる。
「流れてるのね。
 分かった。ありがとうアル」
と言うと、
「じゃ、二手に分かれましょう」
と言って、左に伸びていた路地に消えていった。
 
 
 
結局、こうなる訳ね。
「居るのは分かってる。
 隠れてないで出てきなさい」
目の前に広がる闇に向かって、問い掛ける。
そして、闇が答えた。
「なんだ。バレてたのか」
と。
「あなたがじゃないのは分かってるの。
 だから、その格好は止めてちょうだい」
敵意を込めて相手に言う。
すると、
「え〜やだなぁ。僕のこの格好、結構好きなのに。
 ついでに言うと、彼自身も僕は気に入ってるから・・・ご期待には・・・沿えないなぁ」
と、彼本人ならば絶対にしないであろう暗い笑みを浮かべてニセモノは答えた。
「だったら、無理矢理にでも戻すまでよ」
どうせ、生かすつもりもない。
お願い。
保って。私の体!

パンッ!


胸の前で、手を合わせる。
力を循環させて・・・
しかし、耐えられなかったのか、中が痛みだす。
そして

ゴフッ・・・


「おやおや。体の限界?ヤル前から崩れてどうするんだよ。全くさ」
と、呆れた様子で、でも潰す気はあるのだろう。
敵意は剥き出しで、ニセモノは言った。
膝をついて、近づいてくる相手を睨む。
そして、相手が持っていた武器を構える。
「じゃね。オバサン」
アトガキ
師匠ぉぉ!
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管理人 芥屋 芥