SuperStrings Alchemist
29.Pal and him
その場から動くこともなくはただ、足を止めていた。
後はただ、時が過ぎるのを待つだけだ。
もうすぐ始まるであろう、安定に向けた崩壊が。
不安定になってくると、まず体が弱り始める。
動けなくなるほどではないが、疲れやすくなっていく。
やがて、体が扉の向こう側へと行きたがりだす。
『ここでは不安定だ』と体の中のモノが言い出すのだ。
そして、それは急に来る。
最初の『崩壊時期』が来た時、ここに来るのが間に合わず一つの街が地図から消えた。
瓦礫の中佇むのは、自分独り。
どこまで行っても瓦礫の山。
まるで、自分がここに連れて来られた時のような・・・
それを思い出して、まだ感情が残っていたのだろう、泣いたことを思い出す。
そんな涙も枯れた頃だった。
「やってしまったな、。」
自分を追う人に在らざる者が、後ろから瓦礫の山を見渡して声を掛けてきた。
でも、顔は何故かハッキリとは見えない。
それでも、自分は答えた。
「お前・・・」
「『ソレ』はな、安定と不安定を繰り返すのだよ。
 詰め込み過ぎると、お前の体がまず不安定になる。」
まるで助言とも取れる男の言葉に、はただただ呆然と聞いている。
そして、顔がはっきりと見えない相手に対して、不信感が徐々に増してきていた。
「たまには体を気遣えと言っただろう。
 全く・・・お前は私の気を引いているのか?美女なら大歓迎なんだがね」
と、彼が少し苦笑したように言う。
「あなたは・・・誰ですか?」
そう聞いたに対して、男は苦笑を深くして
「なんだ。忘れてしまったのか?
 私だよ。     だ。忘れたのか?本当に?」
名前を男が名乗ったが、肝心なところが聞き取れない。
男とは、どこかで会っているような気がする。
そう・・・昔・・・そして、最近・・・
でも誰だったか思い出せない。
誰だ・・・
あなたは・・・
それを最後に、の意識は闇へと呑まれて行った。
 
 
 
 
――始まった・・・か
これ以上の負担をに掛けたくないが為に黙っていたこと。
それは、向こうの動きが余りにも早いことだ。
の解放時期と合わせたように動いているのは、自身分かっているだろう。
そして、それには準備がいることも分かっている。
だが、敵さんの動きは相当に速い。
果たしてどちらが先に動けるか。
言えばあののことだ。
ギリギリのところまで止めようとするだろう。
しかも、あの男を助けるため、本当に怪我をしてきたのだから。
 
今のには、余裕がない。
それは、ヤツ自身が一番よく分かっていることだ。
だからあの男を助けるだけに終わってしまった。
もしヤツに余裕があるなら、その場であのエンヴィーという人造人間は本当の意味で殺されていただろう。
偽りの肉体を手に入れ、世界に住む人造人間の若造がにチョッカイを出すなど・・・
数千年早いと思え。
意識は、殺気を帯び空間に広がった。
やがてそれは、空間を裂き外にまで広がる。
独自のルートを通り、『ソイツ等』に伝わった。
 
 
ゾク・・・ッ!
 
 
その瞬間、ブラッドレイは倒れるかと思った。
だが何とか気合でそれだけは阻止する。
こんな軍隊を前にして、倒れる訳にはいかぬ。
瞬間的に体が揺れたものの、なんとか彼は持ち堪えた。
物凄い殺気。
しかも、自分たち『ホムルンクルス』のみに向けられた殺気だというのは明らかだった。
周りにいる人間は、平然としているのだから。
恐らく普通の人間ならば、耐えられなかったであろう殺気だった。
一体誰が?
そう思うって辺りを見渡すが、当然周りはただの『人間』ばかり。
中には召集された国家錬金術師もいたが、それでもこれ程の殺気を放てるヤツではない。
一体誰だ?
そう思い、そしてコホンッ軽く咳払いをすると目の前にいる、整列された軍隊を前に立った。
 
 
 
「ウ゛・・・ッ」
それに充てられたとき、体が前に倒れるかと思った。
痛い。
頭がズキズキする。
クソッ
なんなんだ一体・・・
そう思って、辺りを見渡すが、当然そこには誰もいない。
足元には、先程殺した人間の残骸があるだけで・・・
周りには誰もいなかった。
薄暗い路地の裏。
次のポイントに行かなきゃいけないのに・・・
一体誰なんだ。ボクに殺気を向けるのは。
クソッ頭が痛い。
見つけたら、タダじゃおかない。
と、誰かは分からないが、殺気を放った相手に向かって決意してみる。
それにしても凄まじい殺気だった。
あれは、人間じゃ出せない。
あれは・・・
ボクたちと同じモノの気配だ。
あれくらいの殺気、放たれて当然だよね。
これから、を潰すんだから。
 
 
でも・・・僕にだって計画はある。
ねぇ
一方でブラッドレイの計画に加担しながら、それでも君を助けたいなんて。
虫が良すぎる話だと思ってるよ。
でも、やっぱりボクは君を想うよ。


届かないけれど。
アトガキ
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管理人 芥屋 芥