SuperStrings Alchemist
27.Constituent
「この『大バカ』って、に伝えてください。」
と、イズミが窓から見えている空に怒りを隠そうともせず厳しく言う。
恐らく彼女が見上げている『ソコ』に、自分たちがこの街で出会った『人』にあらざる、この世界の余った力で生きている者が居るのだろうとイズミの夫であるシグは考える。
が、彼がイズミに見えて自分に見えないのは、恐らく『あれ』を行ったかどうかの違いだろうと思う。
先程街に出ようとして血を吐いたイズミを窓際のベッドに運び、そして寝ていたかと思っていたのに。
「分かりました。はい。それでは。」
と、イズミが空中に向かって言葉を投げる。
やがて、一息つくと
「あんた。私も・・・本格的に動かなきゃ・・・」
と、夫の顔を見てハッキリ言った。
「その体じゃ、無理だ」
「やらなきゃいけないの。
 あの子を、一度でも戻そうとしてしまった人間として。
 結果、にそれを鎮めてもらった、一人の母親として・・・」
決意をもって、イズミがそう言った。
錬金術も何も持たない自分は、こうなってしまっては彼女を止める手段はないと、分かっている。
彼女の心は今、恐らくどんなものよりも強いだろう。
「無茶はするな」
とシグが言う。
「うん」
と、イズミは答えるが、恐らくそれは無理だと、心の中で答えていた。





 
「どういうこと?」
と、地図を広げた机の前で、アルがエドに聞く。
突然エドが地図を裏返してアルに言った。
「アル、同じ地図をもう一枚出してくれ」
と。
「え・・・?・・・あ、うん」
そう言われ慌てて地図取り出し兄に渡すと、元の地図の上に置きそれをゆっくりと回していった。
「兄さん・・・
 マスタング大佐に、何て言われたの?」
と聞いてみた。
「地図を回せ。
 大佐は俺にそう言った。」
「地図を・・・回せ?」
「点は人。線は行動。そして、地図はその土台。
 俺達は線が動いてるものだと思い込んで、動いてた。
 でも、違った。動いてたのは、地図さ。」
「ど・・・いうこと?」
「地図を一日周期で回していく。そうすると、動く地図の点は動き線が出来る。
 でも、もう一方の地図の点自体は、動かない。
 地図が二つ。世界が二つ。向かい合った地図で、一方を回すとその動きは相対的になる。」
実際のところ、アルには兄が何を言ってるか分からなかった。
しかし、元の地図一つ一つにもう一枚の地図の同じ場所を起点として回していき、任意のもう一つの点の動きに合わせて線を引いていく。
気の遠くなるような作業。
でも、兄弟はその作業を行っていった。
やがて、見えてくる円の中心・・・
「ここ・・・か」
気がつけばもう真夜中。
そう呟いて、エドは肩をトントンと軽く叩いた。
それを見てアルが声をかける。
「兄さん・・・もう・・・」
自分は魂だけの存在だから疲れないけれど、兄は違う。
ちゃんとした人間だから、疲れて当たり前だ。
「分かってる。
 でも、この『中心』はあくまで中心の中の一つに過ぎない。
 中心は、どこにでも作れる。絶対的な位置は・・・」
円運動と、人の行動を指す線と殺された地点の点。
真理の門に酷似してくる『点』と複数の円が重なる地点・・・
重なる。
その『円』から割り出した中心点と、点が重なる場所が、ほぼ重なっている。
周っていたのは、土台として考えた地図。
そこに、もう一枚の地図を広げて点をつける。
相対的に動く中心と、その中心を決めるようにして殺されていった人たち。
やがてそれらのから伸ばした先は、一つのところで交差していた。
街の中心より僅か南にある、噴水広場。
師匠と会った中央通りを真っ直ぐいくと、その突き当たりにある、あの広場。
しかし、やはり体が疲れていたのか、それが分かったところで、グラリときた。
これ以上やると、効率が低下する。
そう判断して、エドは
「続きは、明日だ」
と言った。
 
 
 
 
 
 
「なるほどな。
 あんたは、に・・・いや、少佐に会ったんだな」
ロイは、尋問室で淡々と男の言葉を聞いていた。
「あぁ。銃を目の前に突きつけられたときは、マジでアイツだと思った。
 でも、そいつに撃たれる瞬間、本物のが現れたんだ。
 あいつは肩を打ち抜かれて、俺はその流れ弾を食らったけど、かすり傷で済んだ。
 その後アイツは、俺をあの丘に連れ行き・・・その後は、ここに居るって訳さ」
少佐の怪我の具合は?」
そう聞いたのは中尉。
「さぁな。あいつは俺をあそこに置いた後、直ぐに消えちまったからな。
 でも、そう浅くない傷だったことは確かだ。ありゃぁ相当痛いだろう。
 そしてアイツは、こう言って消えたんだ。
 『ごめんなさい』って。
 俺はそれに何も言えなかった。答えることができなかったんだ。」
そう結んだ男の顔には、後悔の色が浮かぶ。
やがてロイは立ち上がり、
「これで、私の尋問は終わりだ」
と言って、部屋を出て行った。
それに中尉が続き、後に残った部屋には男が一人。
 
 
 
「あの大佐、『自分は後悔などしない』って、そんなツラしてやがったな・・・」
と、ロイの表情を思い出して、ポツリと呟いた。
アトガキ
うーん・・・相対的?
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管理人 芥屋 芥