SuperStrings Alchemist
26.Objection
「アイツは、じゃ・・・少佐じゃなかった」
丘のベンチでぼんやりと寝ているところ軍に確保された男が、自分を撃った人間のことを答えている。
男の怪我はそれほど大したことはなく顔にかすり傷一つで済んだ五十代の、事件が起きる前は表通りパン屋をしていたオッサンだった。
そのパン屋にはよくも通っていて、二人は顔見知りだった。
だからこそ分かる。
アイツは、じゃない。
と。


しかし、軍はそれを受け入れなかった。
既に大多数の目撃者が、少佐だったと言っている・・・と。
既に、アイツのせいで何十人と殺されている・・・と。
そんな声が、壁の向こうから響いてくる。
相手が『少佐ではない』という言葉を覆さないためか、相当気が立っているらしく声は険しく大きくなる一方だ。
それに、実際は何十人という単位じゃない。
それは、殺された『軍人』の数だろう?
とエドは思ったが、実際にそれを口に出して言うことはなかった。
「ねぇ。兄さん」
男が尋問されている部屋の外の廊下で、そんな男と軍人達のやりとりを聞いているエドに、アルが提案する。
「国家錬金術師の権力使って、あの人を取り調べられない?」
と。
「アル?」
一瞬、弟が何言ってるか分からなかった。
「国家錬金術師は、確か軍の中でも相当上の地位なんでしょう?
 だったら、あの人たちを退かして、兄さんが話を聞けばいいんじゃないの?
 あの人だって、さんじゃないって言ってるし、僕たちもさんが犯人じゃないって思ってる。
 できないかな」
「お前なぁ。
 簡単に言うな。」
と頭を抱えて言うが、それにアルが・・・キレた。
「兄さん!
 さんの無実を晴らすだよね?!
 そのために僕たち毎日考えたり、街に出たり・・・ッしてるんだよね?!
 だったら、使えるもの今使わないとどうするの?!
 折角あのパン屋のおじさんが生きてるのに!
 しかも、僕たちと同じようにさんが犯人じゃないって言ってるんだよ?
 何のためにそんなもの(銀時計)手に入れたのさ?!
 使えるときに使わないなら、そんなもの手に入れなきゃよかったんだ!」
一気に言い終えたアルが、珍しく鎧を上下させる。
「今回は、鋼のの負けだな」
と、アルの後ろから聞こえたのは大佐の声。
しかも、その手には・・・
――用意周到なことで
と思わずにはおれないほどの速さで取り付けた・・・
「尋問委譲書」
「そ。
 彼は貴重な生存者だ。しかも、認識は我々と同じ。
 だとすれば、話は当然聞きたくなる・・・違うかね?」
勝ち誇ったように言う大佐に
「チッ。仕事がお早いことで。」
と悪態をついた。
それに
「兄さん」
とアルが注意をするが、エドは気にした様子はない。
「それよりも鋼の」
という大佐の言葉の後を、兄さんが引き継いだ。
「あのオッサンの傷は、あの現場にあった血痕にしちゃぁ浅すぎる。
 アル、オッサンの尋問は大佐に任せて、行くぞ」
そう言うと、大佐の脇を通ったときに、大佐がエドに何かを言った。
その言葉をアルは聞き取ることは出来なかったが、それでも、兄さんの顔が変わったからきっと重要なことなんだろうと、アルは思った。
大佐と中尉にアルは軽く頭を下げてから兄の後を追い、廊下の奥の階段を下りていった。
 
 
 
 
二人の姿が見えなくなってすぐに、目の前に居る上官が僅かに気合を入れなおしたのがリザには分かった。
一体何年この人の下に付いてきたのか。
そう考えて、随分長いようなそれでいて短いような、そんな気がした。
ただ、私にできることは、この人の下で仕事をすることだけ。
だから
「さて、行こうか」
大佐の言葉にただ私は
「はい」
と答えることくらいしか出来ないのだから。



「君らはもう下がりたまえ。
 後は私が引き継ぐから」
ドアを開けて第一に書類を見せて、部屋の中で熱くなっている下っ端連中にそう言った。
「大佐・・・」
東の大佐・・・いや、今は国家錬金術師として・・・そこにいる『焔の錬金術師』に、尋問室にいた数人の男達が押し黙る。
やがて一番冷静だった、恐らく五十代と見られる軍人がロイから書類を取り上げそこにサインをし、ロイに後を譲ったのだ。
それを見て冷静さを取り戻した他の若い軍人は、観念したように部屋から出て行く。
最後に残ったサインをした軍人は、ポツリとこぼし、部屋から出て行った。
――私も、あなたと同じですよ
と。
テーブルを挟んで男の前の椅子にゆっくりとロイは腰掛けて、
「さて、何から話してもらおうかな」
と言った。
 
 
 
 
 
 
「兄さん。どうしたの?」
今日も、軍人達やはり街全体で行われている『少佐』による殺人に追われ、せわしなく動いている。
その合い間をすり抜けるようにして、エドが歩いていく。
大佐の言葉を聞いてから、ずっと険しい表情のまま・・・
やがて、割り当てられた部屋に帰ってきたエドは、そのまま自分が印をつけた地図を机に広げて、ペンを持ち出し線を書き始めた。
「アル・・・見てくれ」
そう言うと、机の上に置かれた地図を指す。
それを見て、アルが言った。
「逆・・・転?」
「そうだ。
 線は逆。『点』が動いてたんだ。
 俺達は、全く正反対に物を見てたんだ」
アトガキ
ロイに言われたら直ぐ白状しそう・・・w
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管理人 芥屋 芥