SuperStrings Alchemist
25.Look for a Trace
『お前は誰だ!ちょ・・・放せ!俺は実験の続きがあっ』
引きずり込まれた瞬間、無数に近いと思われる腕が、  の体を這ってきて、『五月蝿い』と言わんばかりの力で、塞がれたのは口。
その次に目と耳だった。
なんとかソレらの腕から逃れようとするが、自分の力だけでは間に合わなかった。
体を引っ張ろうとする腕の、その気持ち悪さに耐え切れずに堪らず  は払いのけようとするが、追いつかなかった。
それは、装置の向こうから響いた声を聞いてから、一秒と経っていない間の出来事のようだったようなでも、随分長い時間伸びてきた無数の腕と自分が攻防しているようにも感じられた。


そんな中、まるで『グイッ』という音が聞こえるかのような、そんな状況で  の意識が体から離れたのは、自分の腕が痛みもなく引きちぎられる直前。
ついで、足。
最後に体全体が、腕の力によってバラバラにされていくのを  の意識だけはどこか別の場所で見ているような、そんな不思議な感覚が  を襲い・・・
やがて再び、グンと引っ張られた  の意識は、今度は急転直下し始める。
上を向いているのか、下を向いているのかさえ分からない。
右も左も、自分が進んでいるのは後ろなのか前なのかそれさえも分からないほどの意識の混濁。
いや、混濁ではない。
あれは、そう・・・



『創り替え』





銃弾の音が鳴ったと思われるアパートとアパートとの間にあった小路の入り口に駆けつけた時、その場には誰も居なかった。
ただ、目の前に広がる小路の薄暗い不気味な静けさだけが、その場を支配していた。
それに耐え切れずに
「兄さん、誰も居ないよ」
と言うと
「シッ!」
という沈黙を促す答えが返って来た。
そして兄さんが小路の奥に向かって
「誰だ!?」
と叫んだ。
慌てて小路の奥を見るけど、やはりそこには誰も居なくて
「誰もいないよ」
というけれど、兄さんは聞かなかった。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ兄さん!」
小路に足を踏み入れて、どんどん進む。
アルは光のあたる小路の入り口の方をチラリと見て、兄を追いかけていった。
しばらく行くと兄が何かを見つけたのか、突然しゃがみ
「血痕だ。アル、やっぱりここだ」
と言って地面を触りだした。
「飛んでる血の量は少ないから、生きてるかもしれない。」
顔を上げ、弟の方を見上げながらエドが言う。
「じゃぁ、その人はどこに?」
「あのなアル。そんなの俺が分かるわけないだろう。
 ただ、傷を負ってることは間違いないから、早く見つけて手当てしないと・・・」
立ち上がり、口元に手をあてながら言う。
「でも、血が流れてるんだったら、どうして血痕がどこかに続いてないの?
 だって、この血の痕があるの、その辺りだけで、後・・・ないよ?」
と、兄とは反対にしゃがみこみ、その痕が続いていないか調べていたアルが兄を振り返り、質問を返した。
弟にそう指摘されて、ハッと気付いた。
そう言われれば、ここにしか血痕がないのは、確かにおかしい。


聞こえたのは、銃声。
例えかすり傷だったとしても、血が止まるまでには時間は掛る。
しかも自分達がここに着くまでに、多分五分と掛っていない。
その間にどこかに行くことは可能かもしれない。
けど・・・
血の痕跡までは、完全に消すことは難しい。
現にこうして・・・
「消えた・・・」
「え?何?」
「だから、撃たれた人、消えたかも・・・」
自分で言った言葉に、どこかしら恐怖が走る。
ここで銃が撃たれた。
それは間違いない。
そして血が流れた。
それも間違いはない。
でも、撃った人間は居なくても不思議に思わないけど・・・
撃たれた人も居なくなるって、どういうことだ?
「アル。移動の痕を探すぞ」
と弟に言って、血痕がどこかに続いてないか薄暗い小路を二人でくまなく見て回るが、やはり最初に見つけた痕跡以外見つからなかった。
 
 
 
「撃たれた人・・・居なかったね」
そう、アルががっかりした様子で言った。
結局、撃った人間も、撃たれた人間も見つけられなかった。
そしてその後、銃声を聞きつけた軍部によって現場は封鎖された。
しかし当事者が居ないとあって、そこは現場検証だけで済んだけど・・・
未だに検証は続いている。


「見たのか、犯人を」
と、軍人達が鑑識を行っている間に、少し離れたところに居た俺達にそう聞いてきたのは大佐だった。
少佐』と言わない辺り、まだこの大佐もさんが犯人だって信じてないと確信した。
「見てないよ。ただ、気配は感じた。そんだけ」
「え?」
兄さんのその言葉に、思わず聞き返したのは僕だった。
それを聞いた兄さんが、あの時感じたその『気配』について説明してくれた。
「俺達があそこに着いたとき、小路の奥で何かが動いたのが微かに見えたんだ。
 あれは、多分・・・少佐だった・・・と思う」
「思うだけか」
「思うだけじゃない。もし、死なすのが目的なら、なんで怪我した人も居ないんだ?
 『殺し』が目的なら、そのまま放っておいた方がいい。
 なのに、怪我した人も居ない。ってことは、少佐が連れてったんだ」
何のために?
と、言葉を発しながら、エドは自問する。



決まってる
助けるためだ。


兄さんは、そう大佐に言い切った。
だから大佐は苦笑して
「私とて、諦めた訳ではないよ」
と言った。




ドサッ・・・
という音で、しかし丁寧に街の外れにある小高い丘にあるベンチに置かれた男が一人。
「テメェ・・・」
そこから先の言葉は、その男から出ることはなかった。
目の前にいる人間が、余りにも悲壮な顔をしていたから。
「ごめんなさい」
そう言い残すと、男が空間の裂け目に、消えた。
 
 
消えた後しばらく経ってから
、お前・・・」
と呟く男の声だけが、そこに虚しく響くだけだった。
アトガキ
エドワード兄弟がメインです(笑
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2007/06/20 初校up
管理人 芥屋 芥