SuperStrings Alchemist
22.Liberation
「強い・・・力?」
初めて聞いた『力』の名前に、言葉を失う。
は、世界で余ってる力をそう言ったそうよ。とは言っても、その情報じゃ今彼がどこにいるかなんて分からないんだけどね」
「そんな名前の力、初めて聞きました」
「師匠・・・そのこと、どこで知ったんですか?」
エドとアルがそれぞれ疑問に思ったことを聞く。
「その名前のことは、私も初めて聞いたの。
 そして聞いた相手は、なんて言うのかしらね。のことをよく知っている人から・・・としか言いようがないわ。」
「師匠は、どうしてここに?」
「それは・・・」
答えあぐねていると
少佐が・・・消える前に来た・・・らしい」
自分は店に出ていて家にいなかったから、ハッキリと姿を見たのはイズミだ。
本来ならば、家でゆっくりさせておきたいのは山々なのだが、それをおしてこの街にきた。
その人間と呼べるものかどうかは分からないが、ソイツがこの街で消えた。
会ったら、一言・・・
そう思っていたのだが、あの時、消える瞬間に見せた少し辛そうな表情を見て、何もいえなくなってしまった。
また、あの、人と呼んでいいのか分からない人の姿をした者の話を聞いて、哀れだと、同情があったのかもしれないが・・・
いずれにせよ、彼が今最大の容疑者で、また、おそらくこの事件の中心にいるのだろうということくらいしか、自分には分からない。
「少佐が?」
「でも・・・なんで?」
知り合いだというのは、なんとなく分かる。
しかし、師匠をこの街まで呼び出せるほどの知り合いだったとは意外だった。
「あの時に・・・あの時に、接触してきたのは彼の方だった。
 彼は言った。『人体練成の手助けをしてる』と。
 そして、こうも言った。
 『あなたにとって、死んだ命はあの子だけかも知れない。
  しかし、扉の向こうにいる魂は、一つではない。』ってね」
「それ・・・」
そう言ったきり、二人は絶句した。
師匠が自分の子供を生き返らせようとして、人体練成をしていたというのは・・・
なんとなく分かった。
この人のお腹の中は、まさしく『持っていかれた状態』だということを、医者から聞いていたから。
だけど、少佐が・・・どうして『手助け?』
あの状態を、あんなことを手助け?
「出来るモノじゃない!・・・あんな・・・あんなこと・・・」
二人掛りでやっても、あんな、思い出すのもおぞましいくらいの姿にしかならなかったのに!
「そう。だから、私もそう言った。だけど、彼は・・・難なくそれをやってのけた。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「成長した俺に会ったら、その時はよろしく」
そう言うと、座っていたベンチに手をソッと触れた。
すると、そこから・・・新芽が・・・
「嘘・・・」
驚く自分に対し、あくまで冷静な口調で
「力の解放です。この世界にある四つの力以外の、全く別種の力の解放。
 今の俺に出来るのは、この位かな。あんまり『戻ってない』から、これくらいしか思い出せないんですけど・・・」
と、言った。
「では」
そう言うと、今度こそ闇の中へと消えていった。
「嘘だ!」
「ベンチから・・・新芽を・・・」
驚く二人に
「そうよ。そして、その新芽は私の目の錯覚じゃなかった。
 既に今は立派な木になってるはずよ」
「嘘・・・それじゃ・・・まるで・・・」
捜し求めていた賢者の石の伝説そのままじゃないか!
でも・・・そんな・・・人間が?
 
『賢者の石の形は、何もその名前の通り『石』という形を取って無くてもいいんだ』
リゼンプールに帰る途中、昔国家錬金術師だったという医者の話を唐突に思い出した。
事実、あの時見せられたのは、ゼリー状の赤い・・・半固体の物だった。
もし、その話が本当なら、少佐は・・・
「賢者の石・・・そのもの?」
「それについて確証が得られないから、私は今ここに居るの。分かった?」
と、体に無意識に入っていた力を抜いて、師匠が答えた。
「あんた達もそうでしょう?
 に謎解きを与えられてここにいる。
 ま、さっきの私の話で、もう一度最初から考え直さなければならないところもあるんじゃない?
 というわけで、を探すと共に、犯人を捕まえる。これが解決への近道かしら」
と、師匠はそう結んで話を終わらせた。
 
 
 
 
 
「なぁアル。本当に・・・少佐は師匠が話した通りなのかな」
本当に、救いたかった母さん。
分かってる。
世界を見てみると、死んだのは母さん一人じゃないってことくらい。
それでも、あの時はどうしても母さんを創りたかったんだ。
だけどその結果負った代償は、アルの体丸ごとと記憶。そして自分の片方ずつの腕と足。
そして、人の形をしていなかった母さんの体。
二人じゃ、全くといっていい程『足りない』と言われた。
そして、人体練成の手助けをしていると師匠に言った少佐。
ここに、どうして彼がそれを『等価交換』と言ったのか・・・それがまた、分からなくなってくる。
一度は掴みかけた答え。
だが、また新たに謎が増えたことで、それが遠のいてしまった。
近づこうと思えば、遠のく。
遠のいたかと思えば、近くにあったり。
一体どっちなんだよ!
「ねぇ兄さん。もし・・・もしさんが賢者の石の情報を持ってたら、兄さんどうするの?」
アルに聞かれて直ぐには答えられなくなった。
ずっと求めてきたんだ。
そのために国家錬金術師までなった。
そして今その情報は、消えた少佐が握ってるかもしれない。
そう思うと、どうしても会って話をしたいと思うし、情報も聞きたいと思う。
何より師匠の話だとベンチに新芽を生やしたというらしいのだから。
もしそうなら、色々聞きたいことが沢山ある。
だけど今は・・・
今は・・・
「アル、兎に角少佐を探そう」
それだけ言うと、石畳の上を駅に向かって走り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「エルリック兄弟に、お前のことが伝わったぞ。
 されど、これもまた、お前が望む道故のことか・・・」
そう言うと、古本屋の老人は、ここではない虚空を見つめ静かに呟いた先に居たのは、姿の見えない、狭間に居る彼の姿。
そして、その前には扉が立ちはだかっている、そんな光景が広がっていた。
アトガキ
さーてと・・・まだ中盤の最初です。
2023/07/07 CSS書式修正
管理人 芥屋 芥