SuperStrings Alchemist
21.The First Junction
「とんでもない・・・奴・・・だった・・・という訳だなイズミ。」
よく知る男だったが、それでもそう言わずにはおれなかった。
まさか、あの体の中にあんな真実が隠されていようとは思いもしなかった。


「人ですら・・・いいえ、連中の仲間とも言い難い存在だった・・・と言う訳・・・ね。全くあの子も難儀なモノねぇ」
恐らくこの時点で彼のことを知っているのは本人と、さっき話してくれた時軸から外れたモノたちと私。
そして夫のみ・・・ということになるわね。
そして、その話の印象。


それは、『とても禍々しい』ということ。



でも、それでも・・・
私はあんたの味方だからね。
そう言えるくらい、彼もまた悲しみを抱えていると思うから。
その体と記憶を、引きずって生きる、その辛さ・・・
『解かる』と言えばウソになる。
しかし、それでも・・・あの時からの付き合いだから・・・

それにしてものバカ・・・何処行った?
彼の気配をこの街から感じるくせに、今こうして閑散とした街を歩いてみても、見つからない。
そして、軍からは指名手配されたと・・・街のあちこちで彼の写真が載った紙が貼られている。
だから出てこないのだろうか?と思ったが、だが何かが『違う』とそう告げる。
この街で起きている、彼を装った何者かの殺人と、消えた彼になんらかの関係でもあるのだろうか?


―――わし等は、この世にいるものが『使い切れなかった』力を使って生きているのだよ。


使い切れなかった力?
あれは、一体どういう意味なのか。
そして、それがの失踪と果たしてどう関係してくるのだろう。


―――この世界にあるものは、全てに『力』が宿っている。
お前たちはそれをなんて言うのかは知らないが、『物』が『物』として在り続ける力を、奴の言葉を借りるなら『強い力』という名前なのだそ うじゃ。
だが、お前たちはこの『強い力』の相当上辺だけを取り出して生活、あるいは錬金術を行うそうじゃな。
だから、あやつに与えられた。
『弦』とな
は言った。
自分が国家錬金術師になったとき、総統から与えられた銘は『弦』
的を得ている銘だ・・・と。



『弦』
それが、『的を得ている』?
一体どういうことなの?
あの有名な東の大佐は『炎』
そして、あの馬鹿弟子は『鋼』
その他、豪腕・綴命・・・
でも、そのどれもが意味が分かるものばかり。
でもだけは・・・『弦』
そこから何が読み取れる?
空間を裂いて現れる
一度だけその原理を問うたことがあるけれど、返事ははぐらかされた。
そこに何か・・・
そう思ったときだった。
夫が腕を引っ張ったのは。
「イズミ・・・」
と言って私に前を見るように言った。
?」
街の中心にある広場のベンチへ座っていた私たちの前に現れた
だが、すぐに空気のように消えてしまった。
「待ちなさ・・・グッ・・・」
昔のように急な運動はできない自分。
だけど・・・
それでも、後悔していない。
「イズミ!」
そう言って夫が支えてくれる。
それでも、彼が消えたところから視線を外さなかった。
「あの馬鹿・・・」
発した声は、やけに虚しく響いたけれど。



「クソ・・・また死んだ」
今度は南の広場近くで、三十人一気にやられた。
犯人と目される少佐の行方は依然不明のまま。
だから、を探していた民間の自警団だったようだ。
もう、汽車は破壊され他の街へと出られない状態では、自分たちの命は自分たちで守るしかないと、自発的に発足した自警団。
だが・・・
通報したのは、その後広場を警戒に来た軍人だった。
そんな、消えた彼のことを考えながら、エドとアルの二人は南の広場から中央通りへと足を向けていた。


「兄さん・・・あれ・・・」
と、弟の少し震えが混じった驚いた声に顔を上げると、そこには・・・
―――な・・・な・・・なんでだぁぁぁ!!
思わず叫びそうになるのを、必死で耐える。
「し・・・し・・・師匠・・・」
師匠が、どうしてこんなところに?
っていうか・・・なんで?
どうして・・・?
などと、赤くなったり青くなったりしていると横のアルが「あ・・・気付いた・・・」と、これまた震えた声で言った。
・・・殺される!!


・・・カッカッカッ・・・
甲高い靴の音が石畳をふみ、やってくる。
恐怖の靴音がやってくる。
カッ!
一際高い音を鳴らして、その人物が目の前に立った。
途端出た言葉は
「「ごめんなさい!!」」
と二人してハモる。


「なぁんで謝るのよ、このバカ弟子は」
と、何時もの師匠らしくない言葉が出た。
あまりにも何時もらしくないその声と口調に、一瞬、いやかなり呆気に囚われる。
「え?・・・だ・・・って・・・この街がその・・・」
危ない街になってしまったから・・・
の言葉は、次の師匠の言葉で遮られた。
「どうせが呼んだんでしょう?」
と、どうして師匠から少佐の名前が出たってことに驚いた。
「師匠と、さんは知り合い・・・だったんですか?」
といち早く驚きから脱出したアルが聞いている。
「ま・・・色々とね。」
そう言って、師匠は視線を一瞬だけ俺たちから外した。
そして話を変えるように
「で、この街に起こっていること、何かわかった?」
と聞いた。



一通り話しを聞いた師匠は
「そう・・・この殺人を引き起こしている犯人が、っていう訳・・・ね。」
と言ったきり黙りこんでしまった。
しばらく黙り込んだ後
「で、どうしてそんな危ない街にウロウロしてるの?」
と、聞いてきた。
「え・・・いや・・・その・・・俺たち・・・は・・・」
さんを見つけてこの惨劇を止めようとしている・・・
というとギロッて睨まれた。
「あんた達、本当にこの状態をが引き起こしてるって本気で思ってるの?」
と聞いた。
「いや・・・ただ、この事件が発生する少し前から少佐は行方がわからないし・・・」
と言った。
「でも、俺たちはその・・・さんが犯人だなんて思ってなくて・・・ただ、理由を・・・」
「それは、『消えた理由』?それとも、この状態を引き起こしてる理由?」
「師匠・・・」
恐らく、怒ってる。
だって、手が・・・震えてるから。
「ボクたちは、さんがどうしていなくなったのか知りたい。ボクたちに謎解きさせておいて、いつでも来ていいよって言ったきり消える

なんて、そんなことさんがするはずないって思ってるから・・・」
「謎解き?」
アルの言葉に師匠が反応した。
「俺たち、少佐から謎をもらってるんです。
 でも、それが中々解けなくて・・・でも、なんとか解いたと思って言いに行こうって思った途端、消えたんです」
ベンチに座っている師匠の目を見て言う。
だから、彼は・・・
彼は犯人ではないと、俺たちはそう信じていると・・・
恐らく、師匠も少佐がこんなことを起こすはずないと信じてるって、思ったから。
アトガキ
さてさて,謎は深まるばかりなり
2023/07/07 CSS書式修正
管理人 芥屋 芥