SuperStrings Alchemist
19.Chase it
「どういうことだよ、さんが犯人って!」
言われたことに、何故か僕は納得がいかなかった。
なんで?
あの時、確かに姿を見たのは兄さんだけだけど・・・
だからって、それだけで犯人扱いはいくらなんでもヒドすぎる!
「俺だって、信じられねぇよ。だけど、上層部がそう判断したんだ。俺たちには、どうすることも出来ねぇんだ。」
そう言って、悔しそうに兄さんが下を見る。
だけど、
「ボク、イヤだ。」
と声を強くして言った。
「アル!」
顔を上げて兄さんが言う。
「ボク、イヤだよ。だって、さんが人殺しなんてする訳ないじゃないか!」
「アル!お前、何懐いてんだよ。そんなの分からないじゃないか!」
「だったらなんでボクたちに謎解きなんかやらせたのさ!?」
その言葉にハッとなる。
「こんなことするなら、『答えはいつでもいい』なんて言わないはずだよ、兄さん」
確かに、こんなことする予定だったら、『いつでも来ていい』なんて、言わない。
 
 
 
「アル、お前・・・よっく見てるなぁ」
と、少し体の力が抜けたエドが弟の観察力を誉める。
「兄さん、それを言うなら『よく聞いてるなぁ』でしょ?」
と呆れたように返すけど、でも信じてくれて良かったぁと、その声には少し安心感がこもっていた。
 
「で、どうするの?」
と聞くと
「どうもこうも、兎に角少佐を探さないと何もならねぇだろう?」
と答えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「首尾は?」
と、闇で男の声が響く。
「まだ一人だよ。これからなんだろ?」
答えたのは、・・・いや彼の姿をした・・・
「何、私の前ではお前の気に入っている姿で構わんのだよ?」
というと、相手の姿が変化した。
エンヴィー
「うん。やっぱり僕はこっちの方がいいや」
と一人納得するように言う。
「だが、やる時には・・・彼の姿の方が都合がいい。なんせ今彼は別のところに行ってるからね。ではエンヴィー、くれぐれも彼に成りすまして やっていきたまえ」
そう言う男に
「あまり気は進まないけどねー」
とアッサリ言って、内心に少しだけ恐怖が走ったのを彼は隠した。
「この町に、惨劇を」
闇も凍らせるほどの声音と表情で、男が言う。
それは、もはや人の出せる空気ではなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
一体どうなってんだ!
いたるところで殺しが横行している。
今日でもう既に十人が死んだ。
そして、目撃者の誰もが皆が皆犯人は一人だというのだ。
ここ南方司令部の少佐、=だと。
街中に彼のことが溢れてる。
彼を恐れて、市民が駅から街の外へ出ようとするけど、どこかが封鎖されているらしく出られもしない。
駅にはそんな市民達で溢れかえっていた。
「どこかが、変だ。こんなものは、軍の横暴だ」
そんな様子をその目で見ながら、吐き捨てるようにロイが言う。
「えぇ。同感です」
答えたのはリザ。
何かが起きる。だが、一体何が起きる?
訳もわからないまま、ただ、走り回る日々。
人手が足らず、間に合わないのだ。
そして、後の人間は、この一週間をこう言うことになる。
『七日間の死 一瞬の生』と
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
渦が巻いている。
消える渦と、生まれる渦とが、交互にやってきて体を揺らす。
あぁ、消える・・・
あぁ・・・発生する・・・
そのどちらでもないところに居ながら、どちらでも在る所に自分は今、立っている。
でも、今はここから動けない。
振れて、揺れて、それが大きくなったり小さくなったり忙しいから。
その余りの忙しさに、流石の自分の頭も、少々痛い。
もう少ししたら、全て戻る。
もう少ししたら、全部消えていく。
ほら、すぐに戻るよ?
ほら、直ぐに消えていくよ?
彼方と此処を繋ぐ細い細いその場所は、しかし確かにここにあった。
 
 
やがて、どこからともなくやってきて、どこかに飲み込まれていく無数の命。
どうしてソレが『命』だと分かるのか、見当もつかなかったが、なんとなくそう思った。
そして、それが一箇所に集まるのを見て、
あぁ・・・重くなっていく・・・
と漠然と思う。
ダメだよ。
そんなに重くたら、どんどん底にたまっていくよ?
入りきらなくなるよ?
 
ダメだよ。
重くしたら。
いいんだよ。
軽いよりはましだから。
 
重くしたら、伸びてしまう。
軽くしたら、どこかに行ってしまう。
重いのは、危ない。
軽いとダメ。
 
 
 
 
 
体が揺れながら、景色が変わる。
これでは、自分が進んでいるのか、周りが進んでいるのかも分からない。
そして、徐々に広がりを見せる穴にたどり着く。
 
これは危ない。
まだ大丈夫。
戻れなくなる。
危ないよ。
止めさせないと・・・
でも、まだ戻れない。
 
 
手遅れになる前に、誰かに報せないと・・・
手遅れ?
ナニイッテルノ?ダイジョウブダヨ・・・マダ・・・マダ・・・
 
 
 
 
 
 
トビラヲアケルニハ モノタリナイ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ダメだ!・・・っうわぁぁぁあっ!!」
大音量を立てて、ベッドから落ちた。
「兄さん、驚かさないでよね」
と、ソファで寝ていた?アルが非難の声を上げた。
「あ・・・あぁ。ごめん・・・」
と床で打ってしまった頭を擦りながら、エドが言った。
「あれ?俺、さっき何かを・・・止めようと・・・あぁぁぁクソッ、忘れちまったじゃねぇか・・・」
さっきまで見ていた夢の内容がスコーンと抜け落ちていた。
自分は、何かを止めたかったのに、それが思い出せない。
とても大切なことだったようで、どうでもいいことのようで、なんだか落ち着かない。
今自分たちが居るところは、司令部の一室。
夜は危険だからと、国家錬金術師の権限で借りている部屋だ。
ここの人間は犯人とされる彼、を捕まえようと、昼夜を問わず働いている。
だけど、彼らは少し違う動きをしている。
彼らは=が犯人ではないのではないか?という疑いの元に動いている。
そして昼間に会ったマスタング大佐も同じ意見だった。
 
 
 
「第一、が殺しをし続ける動機がない」
これまでここを守ってきた人間だ。
そいつが急にこんなことをするはずがないと、そう彼は信じていた。
そして、彼が言ってくれたことも・・・
それらを鑑みても、ロイには俄かに信じられないのだ。
だから、違うところを今探していると、教えてくれた。
それが何処かは自分たちには言ってくれなかったが。
「俺たちも、もう一度行こう。」
二人は再び、危険な夜の闇へと足を踏み出した。
アトガキ
主人公・・・また消えたorz
この章はあまり主人公出てきません。
2023/07/07 CSS書式修正
管理人 芥屋 芥