SuperStrings Alchemist
18.Ominous Omen
「ここね、彼がいるのは」
そう言って、汽車から降りた二人の男女は、どうやら夫婦のようだった。
「司令部の街・・・か」
と、男が言う。
「悪いわね。私のワガママに付き合わせて・・・でも、が動くって言って来たから。少ししか役立てないかもしれないけど・・・」
あの時、『手伝いましょうか?』と言って来た一人の少年。
『いいの。これは、私の問題だから』
そして、真理を見てしまった自分に、襲い掛かった現実。
『だから・・・手伝いましょうか?って言ったんですけど・・・』
何時の間に隣にいたのか、少年はそう言って、扉の向こうに消えた。
 
 
 
「どういうことなの?あんた、一体・・・何者?」
扉の向こうから出てきた彼に、厳しい口調でそう聞いた。
彼も何かを、代償としてるのだろうか。
でも、そうは見えないんだけど。
「さぁ。何者でしょう。少なくとも、あなたのように『持っていかれない』ことは確かですね」

その言葉を聞いたとき、いつもの調子で体を動かそうとした。
だけど・・・
「うっ・・・ッ痛・・・」
代わりに出たのは、うめき声と・・・そして、血だった。
僅かに目を見開いた少年がしてくれたのが、背中を擦ったこと。
そして、
「恐らく、あなたの内臓は持っていかれている。もう、二度と元には戻らない。」
姿は少年なのに、纏う雰囲気はまるで青年のそれ。
いや、青年よりも、もしかしたらもっと上の・・・
「だから、手伝いましょうか?って、言ったのに・・・」
とても悲しい目をして、私を見たの。
「何者なの?あなた。」
「何者って言われても・・・少なくとも、人体錬成をする人たちの手助けをしてることは、間違いないんですけど・・・それ以上のことは、今の俺は、『戻ってないから』分からない。」
そう言って、静かに笑う。
と同時に、その言葉に引っ掛かりを覚えた。
「戻ってない?」
ベンチへと移動しながら、彼に質問をぶつける。
それにしても、どうやって私のことを嗅ぎつけたのか。
誰にも内緒で、やろとう決めた。
当然夫にも、子供を生き返らせようなどとは、一言も言ってない。
なのに・・・
「あなた、軍部?」
覚悟を決めて、そう聞いた。
だけど、返ってきたのは、否定の言葉。
「まさか。ちがうよ。」
そう言って静かに笑う。
外見は少年だけど、空気が違う。
彼は、『少年』なんかじゃない。
「じゃ。どうして私の・・・「向こうから、声が聞こえたから」」
『やろうとしていたことを?』の言葉は、彼によって遮られてしまった。
代わりに、また、謎が増えてしまった。
「声?なんの?」
「・・・あなたの息子さんの声。運命だと受け入れたあなたの息子さんの、制止を求める声が、聞こえたから。」
 
バシッィ・・・
体は弱っていても、手だけは動いた。
「あなたに何が解かるの。子供に、名前すら付けてやれなかった親の気持ちが。あの子以外、子供を産めなくなってしまった親の気持ちが、解かるって言うの?」
「では、反対に聞きますが、あの子の気持ちは、確かめましたか?」
静かに問われた言葉。
「静かに眠らせてあげていたら良かったのに・・・そうすれば、あの向こうから俺に助けを呼ぶこともなかった。中途半端に肉を与えられて、苦しむのはあの子の方です。」
「どういうこと?」
「魂だけの存在は、血肉に餓えてます。あなたにとって亡くなったのはあの子だけかもしれませんが、向こうからすれば扉の前に来る人間は数少ない血を持った、『人間』です。」
「ま・・・さか・・・」
たった今、見せつけられた『真理』というものが、頭をよぎる。
人が生まれて、死ぬまでの道。
あの気持ちの悪い映像に、心がパンクしそうになった。
そして、唐突に悟るあの・・・『真理』
『独りだけ、お前等と同じ物が居るんだ。そいつには、俺たちよりも数万倍の血肉と命が注ぎ込まれてる。』
確かに、そう聞こえた。
まさ・・・か・・・
「あなた、まさか」
真理を見てしまった自分にはわかる。
もしかしたらこの子・・・
「謎解きは終わり。もし、成長した俺に会ったら、その時はよろしく。」
話をそこで切って、彼は去った。
 
「イズミ」
黙ってしまった女の名前を、男が呼ぶ。
「私の最後のワガママだけど・・・」
「あぁ・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
「なんで大佐がここに居るんだよ!?」
尋ねた南方司令部に居たのは、話をしようとしていた相手ではなく、ここには居ないハズの東方司令部の大佐・・・だった。
なんで此処・・・っていうか、まさか南方で会うなんて・・・
「悪かったなここに居て。それよりも鋼の。を見なかったか?」
と、南方の司令部で会った東方の大佐は、居なくなった少佐を探していた。
少佐が居ない?」
「あぁ。つい先日までは確かに居たんだがな。ここ数日姿が見えん。一体どこほっつき歩いてるんだか・・・」
探そうにも、動けない。
上層部からの命令だった。
「クソ・・・早く俺の答え、聞かせてやりたいのに・・・」
と、少し苛立たしげにエドワードが言う。
「なんだ、鋼の。に何か用事か?」
あの石そのものか・・・かもしれない物を持つ者が、鋼のに何か言ったのか?
「あぁ。ちょっと問題を出されててね。その答えを自力で見つけてみろって言われてるんだ。」
「ほう・・・で。その問とは?」
気にならないといえば、嘘になる・・・か。
「なんだよ大佐、気になるのか?」
意外に、というか、いつも通り鋭い子供だ。
「まぁ俺も突拍子もなくて、っていうか、スケールがデカすぎて考えつかなかったんだけど・・・視点変えてみたら、なんとなく解かったっていうか、解けたっていうか・・・そんな感じかな。」
「なるほど」
で、その『問』とはなんだ?
「あ。でもこれは俺の『とっておき』だから、大佐には内緒だよ。」
っていうか、言うつもりは全然ないんだけどな。
でも、あの真理の扉の向こうで得たことと、少佐の言うことは、なんとなく、どことなく、似てる。
なんでか知らないけど、そう思う。
「兄さん・・・」
とアルが呆れた声を出すけど、こればっかりは・・・って、今の!?
なんとなく窓の外に目を向けたとき、その下に居たの・・・まさか!
少佐?!」
勢いをつけて部屋を飛び出したけど、下に降りたときには誰も居なかった。
「どうした、鋼の?!」
後から付いてきた大佐に
「今・・・少佐が・・・」
少佐が居た・・・そう言おうとしたけど、息が切れて上手く言葉が繋がらない。
「誰も居ない・・・ぞ・・・」
周囲を見渡していた大佐の視線がある一点で止まり、大佐の声は、そこで途切れた。
代わりに、
「キャァァァーーーーーーーー!!」
と、通行人の女性が切裂くような声を響きわたらせる。
と同時に、「病院へ運べ!」と、まるで怒鳴るようにして、大佐の声が後ろから響いた。
そこには、大量の血を流した、見知らぬ人間が、横たわっていた。
アトガキ
一応区切りの第一章終わり
2023/07/06 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥