SuperStrings Alchemist
17.Turn Around
研究室という言葉に、妙に引っ掛かりをロイは覚えた。
つまりこいつは、は何かを研究していた人間ということになるからだ。
ということは・・・
錬金術師・・・だったのか?
しかし、話を聞く限り『そう』であるとは考えられない。
何故なら、話しの内容がこの世界とは少し違うような印象を受けるからだ。
 
 
 
 
 
 
何かの機械について、覚えている範囲ながらもが語ったその『世界』は、ここよりとても進んでいる世界の話のようだった。
それこそ、ここの世界では考えられないような・・・
例えば鉄の何かが空を飛んでいたり、巨大な装置が地中にあったり・・・といった、空想と呼べるものの産物のような話だったから。
かといって、それが全て嘘であるとも、の虚言によるものかどうかは、この際疑えないだろう。
彼自身、よく覚えてないので自信はないと言ったのだから。
その上で嘘を言うような人間じゃないことは、これまでの付き合いで分かる。
もし、彼の言うことが『本当』で、彼自身が何かを研究していたのだとしたら・・・
何かの実験が失敗したか、何かしたか・・・
恐らくその辺りなのではないだろうか、とロイは見当をつける。
確証は、得られない。しかも、仮定の上に仮定を重ねた話だ。
当然信憑性は

 
皆無。
黙ったロイに、が「大佐?」と声を掛ける。
その声にハッとしたロイは、「少し、考えていたのだ」と言った。
「お前は何かを研究していた。少なくとも調べていた。だから研究室という言葉がお前から出る。違うか?」
そうロイが言った途端、の顔が明らかに強張った。
「わ・・・かりません。ただ・・・最初は、何が起きたか分からなかった。ずっと続く死体の山に埋もれて、訳もわからず襲ってくる人たちを、殺して。どうしようもならなかった。ようやく彼等のことが分かったのは、既に俺が生きて100年も経った後だったし・・・平気で殺せるようになるまでにも・・・自分が何者かなんて、いつまで経っても見えてこないんです。」
 
否定するが、思い当たる節は、いくらでもある。
もしそうなら、は知っている。
少なくとも、気付いてるはずだ。
 
 
 
「賢者の石・・・か。お前、その身体の内側に賢者の石を持っているな」
 
 
 
長い沈黙の後、小さな頷きと共に『恐らく・・・』と、消え入りそうな声でそう言ったを、思わず焼きそうになったのを寸で止める。
「やはりな・・・」
一息ついて、そう言うと
「でも、違うものかもしれないんです。それを自分で調べるために、色々試してみたこともあるんです。俺は、自分がわからない。俺は何者で何処から来たのか。この身体のことは分かってます。人体錬成の結果生まれたものだというのは。だけど、『俺』のことは、分からないんです。」
と、静かにがそう答えた。




一国の民のほとんどの命をもってしても、この身体の本来の持ち主の魂は蘇ることは無く、別の人間の魂が入った、『別人』だった。
賢者の石が自分の中にあるのか、どうなのか・・・
自分は、あの光の扉の向こうで一体何をしていたのかさえ、覚えていない。
でも、感覚を頼るなら、この身体は死ねばとんでもないことをするだろう。
という、遠い何かの声が微かに聞こえるだけだ。
それは、確信にも似た、何か・・・
確証はないし、確かめてもいない。
だが、『お前の消滅は、世界の崩壊を意味する』
それだけは、やけに印象にある。
だから、『多分』そうなのだろうと、漠然と思った。
思ったからこそ自分で、自分を調べてみようと思ったのです。
 
 
最初にやったのは、空間を曲げてみようと思ったことです。
何故それができるようになっていったのかは、自分でもわかりません。
時折襲ってくる彼等の襲撃を交わしながら研究を続けました。
正に、自分探しの研究です。
自分の能力、『人』と違うところはなんなのか。
そして、自分は人なのか?
根本的なところを、探ってみようと・・・
ですが、それは余計に分からなくなってしまっただけでした。
 
 
まるで、探れば探るほど見えなくなっていく、そんな袋小路に追い詰められて・・・
それでも探るのを止める事はできなかった。
結果分かったのは、自分が『自己循環』していること。
その中心に何かがあるということ。
そして、自分がたまに足を踏み入れるあの場所こそ、真理の扉の内側の、『最初』の部分ということ。
貰い受けるあの白い球体は、『命』そのもので・・・
それを『入れて』自分の命を回している。
それだけだったんです。
 
 
最後に、は、己のことをこう言った。
『他人の命を自分の中にいれて、その力で生きてるんです。
 まるで、寄生虫ですよね・・・』

と・・・

 
 
 
 
 
 
「何かあったら、すぐに知らせろ。こちらも直に連絡をする。何かこの街で起きそうな、そんな悪い予感がずっとするのでな。」
そう言って、三人は分かれた。
一体この街で何が起きるのか。
それは、嵐の前の静けさにも似た・・・
アトガキ
『自分』がどこから来て,どこへ行くかなんて・・・ね。
最初が不透明な主人公,その向こうに何があったとしても・・・ですかね。→自分の研究
2023/07/06 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥