SuperStrings Alchemist
16.Near or Long
この街から出られないというのは、本当のようだな。
と、ロイは考える。
どうやら、相当に裏で動きがあるらしいのが目に見えて分かる。
しかも、それがどうやら中央から下されているらしいことも、なんとなくだが、わかる。
「大佐、これには何か訳が?」
と中尉が聞いてくる。
「さぁ・・・な。ま、私たちはしばらくここで休んでいいって言うことだけは、確かだな。」
と、すっとぼけてみた。
 
 
 
 
 
 
普通に過ぎる日常。
街の人たち。
それらが自分とは違う時間を生きている・・・
窓辺に立つの視線には、複雑な感情が宿っていた。
 
 
「エンヴィか・・・」
扉を挟んでそこにいる彼の名前を言う。
「動くってさ。でも、ボクも知らなかったなぁ。あの時代にまさかそんなことが成功していたなんて。ホント、全く知らなかったよ。」
と、扉の向こうから声が響いた。
「いいのか?これからはお互い敵同士だぞ?」
が言う。
「いいんじゃない?別に。だって、ボクは君のこと好きなんだもん。」
と、彼らにしては本当に珍しいことを言った。
「ヒューズ中佐を殺したのは、お前だな。」
今なら答えてくれるかもしれない、そう判断して聞いてみた。
「そうだよ。だって彼、気付いちゃったんだもん。それで殺すしかなかったんだ。最後は彼の奥さんの姿になってね。それで・・・」
そこで彼の言葉が止まる。
いや、止めるしかなかった。
扉の向こうからの殺気。
それに、圧された。
「わかったよ。これ以上は話さない。そうだよ。彼を殺したのはボクだ。それだけ」
 
 
扉の向こうにある気配が消えた。
?」
扉を開けると、やはり彼の姿はどこにもない。
恐らく空間を伝ってどこかに行ったんだろう。
一息つくと、彼のソファにドカっと座る。
「これから、一杯人が死ぬよ?どうするの?ま、ボクにはもう関係ないけどね。」
そう言って少し投げやり気味な声で言う。
その表情は、彼の心を如実に物語っていた。
 
 
 
 
まさにこれこそ、四面楚歌の四面楚歌・・・八方塞がり・・・
か?
と、どこかの本にあった一節を取ってそう考えてみた。
恐らく向こうでも動いているのだろう。
街裏・路地裏・廊下裏・・・
暗闇に潜む『彼ら』の動きがあわただしくなっている。
恐らくあの主が、一声かけたのだろうが・・・
果たしてどこまで通用するか。
光が浸透するごとに追い込まれる彼らが、果たしてどこまでできるのか。
世界の崩壊を意味する境界線に、その力が果たして通用するのか。
依然、未知数。
世界は加速しつづけている。
それは、誰にも止められない。
戻ることは許されない、そんな世界で唯一『止まった』存在の俺は・・・
やはり、この体か・・・
と、思う。
死ねば、この中にある今までのエネルギーの全てを解放して世界を壊すだろうな。
なんせ、約・・・いいや。
とりあえず、溜め込んでいくしか方法がないのだ。
例え、意識が飛びそうになる位の年月を生きたとしても、そうやって抱えて生きていくしかない。
覚悟なら、もうとっくに決めたはずだろう。
この体に入って、最初に人を殺した瞬間から。
 
 
 
 
 
「全軍動かすには、それ相応の理由と少々の時間というものが掛るものだ。」
と、男が言う。
「いいけど・・・ボクあんまり乗り気じゃないよ?」
と、もう一人の男がいう。
「私に逆らう気かね、エンヴィ。その気になれば、今君は・・・」
今日二度目の殺気に圧され、
「わ・・・かったよ。やればいいんだろ?やれば」
と言って、渋々ソファから立ち上がる。
「では、後はよろしく」
男は、そう言ってエンヴィが部屋から出て行ったあと窓辺に向かって足を進める。
そして
「ふむ。いいところに部屋を借りているじゃないか。大通りがよく見える。この道が血に染まるとき、果たして君がどう行動するのか、私としても大変興味があるのだよ、少佐。」
 
 
 
 
 
空間を抜けた先にあったのは、どこか見覚えのある部屋だった。
「ここは・・・」
見覚えのある男達二人と、部屋。
雑多な部屋だった。
書類が辺り一面に散乱している。
中央には机があり、そして一角にも机がある。
扉以外のところには本棚が並び、中には書類・ファイル・文書・本・・・とあらゆる物が詰まっている。
机の上も、乱雑だ。
だがこの二人のどちらも、それを気にした様子はなく一人の男は書類を抱えて本棚にもたれてそれを読み、一人は角にある机に向かって何かを書いている。
その二人共、顔は見えない。
昔の自分の研究室。
思い出すまでに随分時間が掛った。
自分が元の名前・・・もう既に忘れてしまったが・・・だった頃の世界のものだ。
懐かしいな・・・そうは思っても、声にはならなかった。
遠い、昔。
何かの拍子に引き込まれ、あっという間に・・・そこにあった体の中に入らされた。
『・・・さん』
後ろからそう呼ぶ誰かの声に、ゆっくりと振り向く。
だが、そこにいるはずのその声の主の姿は、霞みがかっていてハッキリとは見えない。
それに、遠い。
近いようで、遠い。
この世界から、随分遠ざかってしまった自分が、今の自分。
 
 
 
「大丈夫ですか?」
目が覚めると、空が見えた。
そして、
「中尉・・・」
頭を巡らせると、見慣れた中尉の顔があった。
「またお前は倒れたのか。これで二度目だぞ。大丈夫か」
と、呆れた様子をその声に宿して言うのは・・・
「大佐」
「今度は何があったなど聞かん。全くお陰でこの街に足止めだ。」
不機嫌そうにそういう大佐に
「何かあったんですか?」
と、今度はの方から切り出した。
「何があったかは、そちらが知ってるのでなはいのか?」
と、言って彼はの前に立つ。
見上げたを見下ろす形で
「全部吐き出させたハズだがな。まだ足りないか?」
と言った。
「別に・・・もう十分ですよ。」
そう言いうと、大佐がベンチに座った。
「今この時でさえ、私とお前の時間の差は縮まるどころか、広がっている・・・か。ま、その答えが出るのは数十年先のこと。全く、厄介な体だな。」
そうは言うが、皮肉ではないのだろう、表情が明るい。
「ま、俺にとって人の方が去っていくっていう感覚なんですがね。あっという間です。今まで毎日毎日の繰り返しでここまで来ました。一日が一瞬の感覚。一週間が一日の感覚。それが少しずつ速くなって・・・今じゃもう・・・一ヶ月経っても一日っていう感覚がないんです。不思議なものですよ。」
遠い過去を見つめてそう話すは、どこか穏やかな表情だった。
「少し、昔の夢のようなものを、見ていました。夢・・・ではないでしょうね。この体に入る前の俺の記憶。もう、遠い昔の話です。自分の名前も思い出せないほどの昔。でも、その部屋だけは、何故か自分が昔使っていた部屋だって分かるんです。」
唐突に、が口を開く。
二人は、黙ってその話を聞いている。
「その部屋には二人の男がいました。一人は机に向かって座っていて、一人は本棚にもたれて本を読んでいます。ただ、それだけなんですが。なぜ、あの部屋だったのだろうって。その部屋は俺の研究室なんです。顔も見えない男が二人。・・・ただ黙ってそれぞれの作業をしている。そんな・・・昔の記憶です。」




「ちょっと待て。『研究室』・・・だと?」
アトガキ
謎は少しずつ解かていくようですね・・・
2023/07/06 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥