SuperStrings Alchemist
15.Riddle
「ここは・・・」
と、少佐がスッと入っていったのは彼の、南方での部屋だった。
 
 
 
「なんか、東方と変わらないですね」
そう言ったのは、弟のアルフォンス=エルリックだった。
「そう簡単に配置は変えられないよ。それで?」
部屋の中央に置かれているソファにに座ってと兄弟が向かい合う。
聞きたいことが、今沢山出てきた。
まず最初に聞いた言葉の意味。
そして今、あの女と話していた内容。
『開ける』とは何を意味しているのか。
道への扉のこと。
やっぱり、この人は何か隠してる。
いや、何かを知っている。
でも今答えてくれるのか、それはわからないけど・・・でも、人体錬成をしたと言った時に言った『等価交換だよ』の言葉。
あれがずっと引っ掛かってる。
なんで?
って。
人体錬成。
思い出したくない思い出。
母さんを創ろうとして、失敗したこと。
それが何故・・・等価交換に繋がるんだ?
その答えを、この人から見つけようとしたけれど、はぐらかされた。
だけど今なら聞ける。
何かが動いてる、今なら・・・
「さっきは、あの人に襲われてたみたいだけど、どうしたの?」
そう思った矢先に質問された。
「答える義務はないね。あんたあの女と知り合いだったんだろ?」
警戒を込めてそう言った。
アルが「兄さん」と言ったが、ここは譲らない。
「アル、黙ってろ。この人は、あの女と知り合いだった。こっちはあんたに聞きたいことが山と出てきたんだ。今度は答えてもらう。」
厳しい表情で真っ直ぐに彼を見た。
僅かに逸らした視線に、確信した。
少佐は、やっぱり何かを知っている。
と。
 
 
 
 
「あんた、一体何を知ってる!?この街で一体何が起こるってんだ!答えろ!俺たちが人体錬成のこと言ったらあんたはそれを『等価交換』だと言った。人体錬成で等価交換なんかするようなモノなんてない!俺たちだってアルは体と記憶、俺は右足と左腕持っていかれたんだ!それをあんたは!」
「兄さん!」
「アル、黙ってろって言っただろう?!なぁ少佐。あんた一体何者なんだ!」
掴みかかる勢いで、テーブルを挟んで飛び出した。
いや、既に腕は彼の襟を掴んでいた。
オートメイルの鈍い音が部屋に響き渡る。
それでも、は静かなままだった。
何も言わず、彼の怒声に黙って耳を傾けている。
やがて、ゆっくりと目蓋が閉じ、
「ま、少し落ち着けよ。な?」
と言って再び開いたその瞳に覗いたもの。
ゾクッ!
背筋が凍る位の冷たい瞳が、そこにはあった。
いや、漆黒の闇をその瞳は宿していた。
その奥にあるものを、エドは無意識の中に感じたものがあった。
だけど今のエドは気付かない。
瞳に引き込まれたら最後だと、心のどこかが警告する。
急に黙った兄を見て、アルが
「兄さん?」
と恐る恐る声を掛けた。
その声にハッとして、掴んでいた襟からエドが手を放す。
「最初に言ったことについては、謎は解けたのか?」
静かに、言った。
 
 
 
 
再び、向かい合って座る。
「解けてないよ。あんなの・・・だけどなんとなくなら掴んでる。『一は全・全は一』俺たちは師匠からその答えを導き出すように言われて特訓したんだ。」
「その答えは?」
静かに問いただすの瞳を今度は真っ直ぐに見て。
「自分は世界・世界は自分。それが俺たちが出した答えだ。あんたの言う言葉の答えにはなってないかも知れないけどな」
「それで?」
「あんたの言う、『常に流れるものを見ろ』っていうのは、一体何を表してるんだ?」
「それを解き、答えるのが君たちがやるべきことだろう?答えだけ聞いてしまったら意味がない。そうじゃないかい?」
冷たく、何者も引き込みそうな瞳をそのままに、口調だけはいつものの口調で。
「そこら中にあるものだよ。今、まさに流れているもの。この世界じゃまだ扱いきれない存在。それが、あの扉の向こうにある世界、そのままさ。そして、それが君たちが探している賢者の石とも繋がってくる。ココまでヒントを与えたんだ。後は自力で答えを見つけてみてくれ。じゃ」
いい終わると、が手を彼らの前にかざす。
二人の目の前に、黒い空間が出現した。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!あんた!」
空間は徐々に広がり、やがて彼らが一瞬にしてそこから消えた。
 
 
 
 
彼らが消えた瞬間、闇が部屋の片隅に発生した。
「まさか、お前」
声と共に現れたのは、東方でよくが出入りしていた古本屋の店主の姿をした老人。
「いい加減、終わらせたいんですよ。」
と静かに答える。
「終わりたいと、望んでいるのか」
「また、巻き込んでしまうことになっても、いい加減疲れてしまって・・・生きるのが、つらいと思ったことも沢山あった。普通に死ねたらと、そう思うことも山ほどあった。それでも振動し、循環しつづける体を背負って生きるのは・・・もう既に狂気ですよ。元からその扉の向こう側にいるあなたには分からないでしょうが・・・」
ゆっくりとが話す。
「彼らの話の中で、随分長く気付かなかったことがようやく見えてきました。俺が毎回あなた達のところに向かう途中で開ける扉。あれは、真理の扉。彼らが人体錬成したときに見るもの、そのものだったんですね。今まで気付きませんでしたよ。普通に行ったり来たりしていましたからね。」
「命はまだまだ沢山余っている。後数千年という単位でな。一人では抱えきれない量。それほどの量の命を、どうやって消化するつもりじゃ?」
「今、もし扉を開けようとしたら、更にどれくらい増える?」
「儂とて分からん。」
即答だった。
「開けるのに、必要な量は?」
次の質問に、老人は答えを窮した。
「・・・まさか、?」
「答えて下さい。」
「数百万・・・二・三百万といったところか。あの時よりも量は減っておる。それは、この世界がドンドン加速しておるからな」
「一人や二人の人体錬成なんて、比じゃないほどの加速率・・・か。それにしても、ラスト達の動きも厄介ですよ。彼らもまた開けようとしてますからね。『最初の方法で』」
 
 
 
 
 
 
放りだされたのは、部屋の真中。
しかも、自分達があの女に襲われた部屋だった。
「兄さん、ここ・・・」
「あぁ、借りた宿だ。あの少佐、なんでこんなことができるんだ?」
どうして?
まるで、師匠の言葉を探った時のような感覚。
いや、もっと難しい。
賢者の石・・・常に流れているものを見ること。
あの、真理の扉の向こうで得たこと。
一体なんだ?
思い出せ・・・
唐突に理解した、あのことを。
 
 
「そうか!」
ビクッ!
「兄さん?」
驚いたアルが、思わず問い掛ける。
「分かった。最初の質問の意味が!やっと分かった!」
夜遅くにも関わらず、エドが声を上げる。
「兄さん、落ち着いて!夜遅いんだから!」
アルが言うが、
「分かったんだ。最初の質問の意味が!あの扉の向こうで見た真理そのままだったんだ。なんでもっと早く気付かなかったんだ!」
「ど・・・どうしたの?!」
「そうだよ。常に流れているもの。あの時、真理の扉の向こうで見たもの。そのままだったんだ。でも、なんでそんなこと少佐が知ってるんだ?」
人体錬成の過程で持っていかれた代償に、得た真理。
それは、師匠も同じだった。
あの人は、内臓をほとんど持っていかれて・・・
じゃ、あの少佐があそこから得た代わりに持っていかれたものって何かあるのだろうか。
と、エドは考える。
人体錬成を、等価交換と言った彼。
今自分が見つけた一つの答え・・・かもしれないこと。
そこで考えが行き詰まる。
分からなくなる。
彼がいった言葉を、頭の中で反芻する。
この世界じゃ扱いきれない存在・・・?
なんだ?
一体なんなんだ?
扱いきれないそれは、あの扉の向こうで得たことと何か関係あるとでも?
世界、そのまま・・・?
「あーくそ、分かんねぇなぁ」
難問すぎる。
これが解ければ恐らく、答えが見えてくる。
最後のキーワード。
自分達が、賢者の石に近づくための、恐らくこれが最後のヒント。
それにしてもなんであの人は賢者の石を俺たちが求めてるって知ってる?
持っていかれたものを戻すには、賢者の石が必要だって知ってるからか。
 
 
 
 
「全軍、動かす」
「容疑は?」
と、女が問う。
「ん?」
と男が答える。
「何、なんとでもなるよ。ラスト」
アトガキ
謎がまだまだ解かれないようですね・・・
2023/07/06 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥