SuperStrings Alchemist
14.Newspaper
「大佐!」
彼が駆けつけたとき、中尉の銃声が響いていた。
?!」
燃え上がる焔が見える。
人一人炭にするのに、たいした時間を要さない焔が・・・
そしてそこに、空間が震えた。
ギュインッと、いびつな音を立てて震える空間の中に、二人を襲っていた奴らが吸い込まれていく。
 
 
 
 
 
それは、縦にできた底なし沼のようだった。
空間が震え、肉を裂き、吸い込んでいく。
「お・・・前・・・・・・か・・・」
肩まで吸い込まれている男が、の姿を見てそう呟いた。
「そうです」
そうが答えると、男は納得いったような、悔しいような顔をして、
「ふん。結局、お前を・・・殺せなかったよ。今の今まで・・・誰もだ。あれだけ居た死損ないも、今の襲撃でさい・・・ご・・・」
言葉を最後まで言えずに、男は暗い闇の中へと、消えていった。
男が、最期に何を言いたかったのか、はっきりと分かる。
今の襲撃で最期。
そう、あの時の「犠牲者」は、今回で全て、死んだ。
結局、全員を手にかけた。
最初の頃の、殺していくたびに襲ってくる後悔・悲しみ・・・
それが途中から怒りに変わり、声が枯れるまで泣いたこともある。
だけど、怒りを通り越して何の感情も抱かず、殺せるようになった頃には、彼等が『出来て』既に600年が過ぎていた。
何の感情も抱かなくなったからといって、己の最低限のひとの部分だけは、涙も流さずに泣いていたことくらい、は分かっていたけれど、あえて気付かない振りをして・・・
表面上は、明るい振り。
だけど、これで終わり。
後は、ラストたちの問題を片付ければそれで事態は終了・・・
になるはずだった。
だけど、おかしい。
どうして『彼等』は自分じゃなく大佐たちを襲った?
「大佐」
「ん?」
襟をただし、上着についたほこりを払っている彼に、声をかけた。
「どうして、『自分』の相手が大佐たちに来たんですか?」
疑問だった。
なぜ?
「さぁな、私は知らんよ。中尉。分かるか?」
話を振られたリザは、静かに首を振った。
おかしい。
部屋に来たラストといい、大佐を襲った己が殺すべき者達といい・・・
なにかがおかしい。
首筋のあたりがチクチクする。
こう言うときは、大抵ろくなことが起きない。
「そうですか・・・なんでもありません」
それでも、そう言って引き下がるしかない。
「今日は晩い。お前は休め、。そしてこのことは上には言うな。この三人だけで処理するんだ。いいな」
命令を含ましてそう言うと、
「了解しました」
と、敬礼で彼等を見送った。
 
 
それにしても、多分部屋にはまだラストが固まってるかと思うと、正直ゾッとするが・・・
ま、いないだろうがね。
そう想像して、は少しその顔に笑みを浮かべた。
それでもやはり違和感は拭えなかった。
どうして?と。
自分と大佐達とのつながりなど、何故彼等が知っている?
彼等の敵は自分であって、大佐たちじゃない。
裏で、誰かが糸を引いている?
出来そこないになった人間達を煽動させた誰かがいる。
ラスト達か?
いや・・・違う。
ラストはあの時なんて言った?
『・・・焔の大佐も、そろそろ邪魔だから、このまま消しちゃっていいかしら?』
消しちゃって、いい?
そのセリフを肯定するかのように、彼等が大佐たちを襲っていた。
クソ!
気付いたら走っていた。
上手いことあいつ等に騙された。
いつの間にグルになってたんだ?
やはり誰かが糸を引いている!
しかし、いつから?
一体いつから分かっていたんだ?
軍内部の人間か?
しかし、今の軍の中で自分の素性を知る者は誰一人としていないはずだった。
昔一時期、この軍ではなかったが所属していたともあるにはあるが・・・
今から200年も前の軍隊で今の軍じゃないし、それに自分自身の素性を残した資料など残っていないはずだった。
いや・・・一枚だけ残っている。

ホークアイ中尉が探し当てた、あの新聞


ガシャガシャと、世界が音を立てて崩れ始める。
ゆっくりと、だが確実に、敵が周りに増えていく。
これからは、いつも通り誰も信じてはならぬ。
いつも通りにすればいい。
いつも、そうしてきたじゃないか。
自分との代償で扉につながれ、生きる屍になった人間達をいつも殺してきたように。
襲ってくるもは、敵。
自分を見ているものも、敵。
周りが敵だらけ?
そんな状況、今まであったじゃないか。
国一つ滅ぼしてまで彼を生き返らせた結果の、これが結末だよ『父さん』。
結局、自分からは何も生まれなかった。
俺は歩く死人だから、何も生めないのさ。
そんなのことも分からなかったの?
彼の死を受け入れることができなかった、自分を呼んだ張本人はとっくの昔に死んだけれど。
あなたの領民の一部は、さっきまで気が狂いそうになりながらも生かされ続けていたんだよ。
皮肉だね。『父さん』
死んだ魂は戻らなくて、代わりに俺がこの体に繋がれているなんて。
結局、あなたは何一つ果たせてはいないんだね。
あなたがやったのは、この体の復活だけで魂まではできなかったんだ。
だから俺がここにいる。
恨むこと意外に簡単で、それを解くのが難しいなんていうけれど。
正しく、合ってると思う。
一度だって忘れたことがないよ。
最初に見た、あの情景。
体と魂の融合の衝撃で屋敷が吹っ飛び、その瓦礫の山の間から覗いた最初の情景を。
延々と続く、死体の山を。
その中から、充てられた人が俺を殺そうとしてきたことを。
あの、狂気そのものになってしまったあの国で無我夢中で行った最初のことは殺人だった。
初原の記憶。
忘れたくても忘れられない、その思い出と呼べるもの。
中尉の新聞を、誰かが読んだか取ったか。
いずれにしても既にどこかに持っていかれているはずだった。
でなければ彼等とラスト達が手を組むなんて有りえないし、第一そうするメリットがない。
彼等とラストたちは基本的には同じものだ。
ただ一つ違うのは、彼等の方がより「人間的」であるところか。
高純度な賢者の石が作られたときの副作用・・・だからな。
走っていて、誰かにぶつかった。
「うわぁ」
と少し高めの声が響く。
「兄さん?」
と、その奥からさらにどこかで聞いた声が響いた。
「君達・・・」
その声は更に大きな声で遮られた。
「兄さん逃げて!」
振り向いたそこには、ラストの姿。
「あの女、まだ・・・」
え?
「鋼の、これはどうなってるんだ?」
周りに注意深く視線を送る。
「俺に聞かれたってわからないよ。いきなりあの女が・・・」
状況説明を聞く時間はなさそうだな。
「兄さんだけでも逃げて!」
そう叫ぶ弟君に対し、俺は
「ラスト、どういうつもりだ。」
彼を貫き、壁に磔ている彼女に対して口を開く。
「予定が大幅に狂ったのよ。あんたが持ってるものくれないから、ここで開けちゃえって、そう命令が降りたのよ。」
その言葉に、が僅かに目を見開く。
「あけるって、まさか・・・」
「そう、あんたも通ってきた道への扉よ。言っておくけれど、鋼の少年も、焔の大佐も、そしてあんたもこの街から出られないから。」
そう言い残して、彼女は闇に消えた。
「大丈夫か?」
そう言うと、弟君は不信な声をこちらに放ってきた。
少佐。アイツのこと・・・」
「知り合いさ。今は敵同士だけどね」
「なんで?」
後ろから掛った声に振り返る。
「とりあえず、移動しよう。ここじゃ立ち話もなんだからね」



あの大佐がここにいる?
なぜ?
それに、この少佐が言ったことが頭をよぎる。
『流れる物を見ろ』
と言う言葉。
あれは、先生の『一は全・全は一』の言葉に似ている。
一体あんたは何者で、これから何が始まるんだ?
でも、今は前に進まなきゃ。
俺のためにも、アルのためにも。
アトガキ
絶望的な情景でよく・・・
少し急な展開になってきました。
2023/07/06 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥