SuperStrings Alchemist
13.Be in time!
転移弾・・・
オリジナルの弾頭
彼等のような存在を消すことが出来る、唯一のもの。
自分を襲ってくるたび、後悔と絶望に襲われながらも、引き金を引くしか自分にはできない。
転移弾で撃った彼の体はどんどん風化していき、あっという間に消えた。
時間が元に戻ったのだ。
とっくに死ぬはずの肉体年齢が、死んだあと訪れる。
救いなんかじゃない。
こんなのは・・・
狭い路地の壁に背中を預け、銃に未だ手を掛けたままそのままズルズルと座り込む。
いっそこの弾を自分に撃って、それで死ねたらどんなに楽か。
 
 
 
 
 
 
わかってるはずだろう?
と、心の中で自分の声が響く。
お前はこんなものじゃ死ねない。
その体が境界線だ。
もし死んだら、それはこの世界が崩壊するって自覚しろよ?
と・・・
そういえば、昔誰かが言ってたっけ。
『僕には美しさも権力もあるし、この社会の影響力だってすごいんだよ?でも一つだけ心残りがあるんだ。誰もが欲しがる、永遠の命。それが

ない。
なぁ、そう思わないか?』
欲にまみれたソイツの顔はとても醜くて、直視できなかったのを覚えてる。
だけど、二度目・・・死に際に見たそいつの顔は、驚きと、俺に対するある種の悲しみの表情に似ていて戸惑いを覚えた。
『まさか、本当に変わってないとは驚いた。昔、『永遠の命』が欲しいと言っていた頃に知っていたら、きっと君に対して強烈に嫉妬して、捕

らえて、どうしてもその命を欲しがっていたんだろうけれど・・・今は違う。
君のような、変わらない人間には分からないことだろうが・・・人はいつか必ず死ぬ。その意味ってヤツさ。俺の人生も、なかなか悪いものじゃ

なかった。今なら、死ねることが幸せにすら感じるよ。 死ねない君には失礼だろうがね。』
『変わったな、君は・・・』
『月日は人を変えるのさ。なぁ、君はいつからその姿なんだ?いつから存在してる?それだけを聞きたい。』
あの時はつい答えてしまって・・・
その直後に流れた彼の涙を、綺麗だと思ってしまったんだっけ。
あの涙が憐れみだったのか、悲しみだったのかは分からない。
だけど俺は、その流れる涙を『綺麗』だと思った。
 
どれだけ生きても、真理なんて見えてこない。
襲ってくる彼等に対しても、結局は殺していくしかできない。
己が生まれる過程で、そのエネルギーに充てられて死ぬに死ねなくなった人々。
他人の『命』で生きている自分・・・
まるで寄生虫だな・・・
と、は自分に冷笑を浮かべる。
いっそ、心も人の心じゃなくなれば、どれだけ楽になるんだろう。
そう考えたが、は首を振って否定した。
自分は人だ。
いや・・・人でありたい・・・
自分で自分の体を抱くと、右腕を膝の上に乗せて手にある銃口をそのまま下に向ける。
しばらくそうしていたが、眠ってしまったのかの意識は途切れた。
 
 
 
 
寝かされていたのは、白い部屋。
「ここは?」と、思わず呟くと、
「病院です」
と返ってきた。
その声の方向へ視線を向けると・・・
「ホークアイ中尉?」
と、
「大佐・・・」

 
どうしてこんなところに?という言葉は飲み込んだ。
どうせ言ったところで返っては来ない。
「ヒューズがな・・・死んだ」
え?
その言葉に、真っ白になる。
だって、彼は俺よりも遅く東方司令部を出て、中央に帰ったはずじゃ?
「お前、何か知らないか?」
そう言われ、首を振った。
知るはずがない。
だって・・・
「ならいい。」
それだけ言うと、大佐は部屋を出て行こうとする。
何も言わないことに感謝しながらも、それでも口に出さずにはいられなかった。
「何も言わないんですね。」
そう言うと、大佐の足が止まる。
「聞いたところで、答えが返ってくるわけでもなかろう。それに、私なんかより数倍も生きているお前に助言できるほど、私は年は取っていな

い。」
それだけ言うと、こっちに向かって足を向ける。
「不安定だと、トコトン不安定だな。しかし、何をし、どう行動するかは、おまえ自身で決めることだ。私はヒューズを殺したヤツ

を必ず見つけ出す。そのためには形振り構わんとさえ思っている・・・」
「大佐」
制止を込めた中尉の声が割って入った。
「止めるな中尉。そう、例えそれが中央の意思に反していてもだ。」
強烈な殺気を込めた言葉だった。
そう、この人はこの人で、追うものがある。
俺は・・・
俺にできることは・・・
俺がしたいと思うことは・・・
彼等を、見つけ出すこと。
そして・・・
「自殺なんて考えるなよ。もしお前まで死んでしまったら、私は本当に部下には恵まれていないというレッテルを貼られてしまうか

らな。」
そう言って微かに笑う。
それを見て、何故か泣きそうになった。
何故、こうも先回りするんだろう。
「長く生き過ぎるというのも、大概にしてしんどいものだな、。」
 
 
 
 
泣いた。
自分でも、本当に、あきれるくらい涙が出た。
もう、とっくに枯れたと思っていたのに・・・
感情なんて、すでにないものだと、そう思っていたのに・・・
彼等に頼ってからは、特にそうだと思っていた。
彼等には欲望しか存在せず、またそれのみによって動く。
人体錬成のなれの果て。
「彼等」よりも更に中途半端な『人にあらざるもの』
心自体が既に人ではない、肉の塊。
だけれど、彼等よりも情報を持っていたために、最初に接触を持ったのは自分からだった。
『賢者の石』について、何か情報を知らないか?
と・・・
まさか。
「それだけ泣けるなら、お前は十分に人間らしいぞ、。っと、あまり長居はできんな。それじゃ。また近いうちに顔を出しに来い。

俺もそろそろ中央からお呼びが掛りそうだからな。前より近くなるぞ?」
それだけ言うと、中尉と共に部屋を出て行った。
去り際に、中尉から
「お大事にね。あなたまで死なれたら、ホント今度は大佐、何するかわからないから。」
そう言って釘を刺された。
死ぬに死ねない体だと、そう言ったはずなんだけれど・・・
なんだか素でそうは思ってないところが、この中尉のいいところ、なんだろうな。
と思う。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を洗って、鏡に顔を向けたら、その向こうにいた人物に背筋が凍るかと思った。
「ラスト!」
振り返り、叫んだ俺に近づいて来る。
「聞いちゃった。焔の大佐も、そろそろ邪魔だから、このまま消しちゃっていいかしら?」
そう言って指を変形させ、ドカッと壁にのめり込ませる。
「その前に、私たちを騙してた罪、大きいわよ??」
根底に流れる恐怖心を隠しながら、ラストは言葉をつむぐ。
怖い・・・怖い・・・コワイ・・・
逆らえない。彼には・・・
彼は、私たちなんかよりも完璧な存在。
彼は、私たちなんかよりも人間に近い存在。
埋められない、絶対的な差。
もらった命や体の、差・・・
その体の奥底にある、回ってるものの大きさ。
そして、核である・・・賢者の石を持つ・・・人間。
欲しい。
ホシイ。
ほしい・・・
「ヒューズ中佐を殺したのは誰だ」
言葉なんかいらない。
欲しいのは、その体の中にあるモノ。
「そんなこと聞いてどうするわけ?」
「お前等か?」
「さぁ、どうかしらね」
「質問してるのはこっちだ。答えろラスト」
体の中にある、石の回転が速くなる。
と同時に、体の中で何かが震える。
その振動はやがて体全体に行き渡り、そして
トン・・・
と、壁に手が触れたその瞬間。
壁が変形した。
彼女に向かって・・・
「ホント、また命一つ無駄にしたじゃない。ま、あんたほどじゃないけどね・・・」
腹に大穴があいて、体が固定されて、動けなくても平気でいる彼女に対して、
「そうやって固まってろ。ラスト、吐け。ヒューズ中佐を殺したのは誰だ?」
「誰が言うもんですか。」
「エンヴィーか」
「さぁね」
そういうラストの表情が僅かに曇ったのを、は見逃さなかった。
今からでも間に合うか。
上着を取り、駆け出そうとした後ろから、ラストの声が響く。
「ちょっと、これ解いていきなさいよ!」
誰が解くか!と返事をかえさず、心の中だけにして、は走った。
間に合え! と、心の中で祈りながら・・・
アトガキ
少し謎が見えてきた・・・かな
2023/07/06 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥