生存は絶望的なんて話は信じていなかった。
自分の進む道は地獄か? などと自虐的に呟いた男が死んでいるはずはない。
そう確信してた。
停戦後、契約が切れなかった俺は腕をなまらせまいと訓練を続けていた。
とは言っても多少は鈍る。
そしてあの事件が起こった。
半年後にクーデターが起こって、それで借り出された。
そのことは、歴史から消えていると思う。
そうだな。
V2のこともXB-0のことも、知っている人は、今や少なくなってしまった。
基地が襲撃され、サピンのエース達と戦ったあと、馬鹿デカイ航空機を一機落とした。
こんなものが飛ぶのかと、目を見張りながら操縦桿を握っていたよ。
そのときだった。
暗号無線が入ってきたのは。
『ヨウ アイボウ マダイキテルカ?』
俺にそんなことを言うのは世界にただ一人しかいない。
言葉がなくとも通じた相手。
そう。
片羽の妖精だ。
戦う理由は見つかったか?
相棒
PJを撃ったあいつは、無線でそう言ってきた。
ラリー・PIXY・フォルク
あぁ、いるんだな。
そしてお前は敵として、俺の前に立つんだな。
そう思った。
《不死身のエースってのは 戦場に長く居た奴の過信だ》
《お前のことだよ 相棒》
過信。
俺は、何も過信などしていない。
それは、お前が見た俺への印象でしかないだろ。
《ここから境目が見えるか? 国境は俺達に何をくれた?》
そうだ。境目など、人が作った架空の線でしかない。
だがラリー。それは必要なのだ。
何もくれはしない。
それでも、人がテリトリーを主張する動物である限り、それは必要なんだよ。ラリー。
それに今国境をなくしたところで、また別の見えない線が引かれるだけだ。
《全てをやり直す そのための『V2』だ》
《相棒 道は一つだ 信念に従い行動する それだけだ》
あぁ。
そうだな。
お前がお前の信念に従うのであれば、俺もまた俺の信念に従おう。
その言葉で、決意した。
《戦いに慈悲はない 生きる者と死ぬ者がいる それが全てだ》
《奮い立つか? ならば 俺を落してみせろ》
奮い立ちはしなかった。
ただ、あいつのいう『ただ悲しいだけだ』という言葉の意味を、どことなく理解したような気がした。
《時間だ》
無慈悲にもV2は発射され、残された時間も少なくなっていく。
撃つしかないのか。
ならば、撃とう。
そうすることで、これが終わるなら。
《惜しかったなぁ 相棒》
《歪んだパズルは一度リセットするべきだ》
《このV2で全てを『ゼロ』に戻し、次の世代に未来を託そう》
違う。
ラリー、それは違う。
お前のやっていることは、未来へ負の遺産を押し付けるようなのもだ。
ゼロなんかじゃない。
そういうのを、マイナスというのだ。
《俺とお前は鏡のようなもんだ》
《向かい合って初めて 本当の自分に気づく》
《似てはいるが 正反対だな》
鏡じゃない。
鏡なんかじゃない。
俺は、お前と背中合わせに立てて嬉しかった。
言葉がなくとも機動を合わせてくれる相棒がいたんだ。
それだけで、俺は……ッ!
《もう一度 正面からだ》
真正面からあいつは向かってきた。
その意味を、加速させた機体の中で必死に考えていた。
事前にAWACSからの解析データは無線で入ってきていた。
機体下部正面のエアインテーク。
なのに、何故あいつはその弱点をさらけ出すような真似をする?
もしかしたらこれらの言葉は、あいつ自身に向けられたものなのではないか? と。
本当はラリー。
お前は止めて欲しいのではないか? と。
《撃て 臆病者!》
挑発してきたあいつの声が、未だに頭に響いている。
《撃て!》
クロスする瞬間、やはり、お互い言葉はいらなかった。
腹面でお互いクロスし、操縦している俺の姿はラリーには見えなかったはずなのにな。
絶好のタイミングで、俺は……
その後あいつがどうなったのかは俺は知らない。
ただあの後、手が震えていたことだけは確かだ。
恐怖で、じゃない。
でも、もう二度とあんな真似はしたくない。
だがそうもさせてもらえないのが、兵の辛いところでね。
というより、契約が切れて国に帰ればこのザマさ。
このインタビューは、あいつは聞くのか?
そういえば、俺から言ったことはなかったな。
『Yo buddy. Still alive? 』