《降ってきたな》
相棒として組んだ男は、無線でそう言ってきた。
片羽の妖精、Solo Wing PIXY、ラリー・フォルク。
その昔、片方の翼のままで帰還したことがキッカケで、敵からも味方からもそう呼ばれる男。
そのときに落とした翼を象徴してか、右の翼に赤のペイントを入れて飛んでいる男。
だがお喋りが過ぎる。
最初の印象はそんな感じだった。
隊長にするとなのか、それとも僚機としてもそうなのかは知らないが、どうやら勝手に行動してしまうらしく性質があるらしく、その制御に苦心した管制から苦情があったのか、あのときは僚機になっていた。
命令されて、渋々受けなければならなかった僚機というポジションがそうさせたのか。
出撃前の、あいつの俺を信じていない目が懐かしい。
名前は知っていた。
でも組んだのは初めてだった。
で、飛んでみて分かった。
こいつは、出来る。ってね。
全体の動きをよく見てる。
お互いの位置をよく把握している。
こいつとなら、こいつなら、背中を預けても良さそうだ。
そう思った。
そうだな。
一緒に組んで初めての戦の戦闘が終わった後、あいつは言った。
《お前とならやれそうだ。よろしく頼む。――相棒》
認めたな? そうも思ったよ。
降り立ったときの俺を見るあいつの目は、出撃したときとは正反対だったからな。
そして周りの反応も面白いものがあったなぁ。
あの片羽が『相棒』だって? 信じられん。だとよ。
あいつのことを甘いと思ったのは、そう。
171号線奪還の時だ。
攻撃対象に民家があった。
その攻撃判断を、俺に任せてきた。
その時思ったね。
――あぁ。こいつが何故ガルム1に選ばれなかったのか。その理由が分かった。
その甘さが、いつか命取りになる。
腕だけで生きていけるほど、この空は、甘くない。
首都奪還の時、あいつの方から仕掛けてきた。
二機のスホーイがたどり着く前、あいつは俺の機体の左側少し下後方に機体を寄せて、俺を見たあと首を僅かに動かした。
――ジャックナイフだ。タイミングを合わせてきたな。サイファー
何故か、そう言っているのが理解できた。
腕はお互いが認めるところ。
なら、やってやろうじゃないか。
そう思った。
円卓に飛び込む前、いつかのお返しで仕掛けてみた。
背面になり、世界をひっくり返す。
が、あいつ
《よし。 花火の中に突っ込むぞ》
といってな。
合わせてくる。
背中合わせの相棒。
言葉がなくとも通じる相手がいるっていうのは、そこそこ嬉しいもんさ。
交戦中、オーシアのパイロットと面識があるらしい会話が流れてきて、最初は何を言ってるのか分からなかった。
ただ、ラリーの知り合いなら頼れそうだなと思った。
あの円卓の空を、二機でなんて無理だからだ。
でも、あのガルム隊だ。よく見ておけ、なんて。
おいおいおい、って感じだった。
いくらオーシアの正規兵だからって、それはないだろ。
そう、言い返しそうになったけどね。
その時に言われたんだ。
あぁいうのは、鬼神って言うんだって。
最初聞いたときは耳を疑ったね。
なんで俺なんだ?
でも、そんなことはどうでも良かった。
何て呼ばれようとも、やることは、変わらないからな。
あいつの知り合いは、やはり頼もしかった。
部隊の指揮も良かった。
敵としては、あまりやり合いたくない手合いというのか。
なんとなく、そんな感じを受けた。
戦いのさなかPJが
《俺は平和のために戦ってる。だから世界の空で飛ぶ》
と言った。
それに答えようとしたら、先にラリーが
《その平和の下、世界では何万ガロンもの血が流れているんだよ。小僧》
そう答えているのを聞いた。
あぁ。
こいつらの差は、なんて大きいんだ。
そう思った。
――板ばさみになった俺の身にもなれ。
思いながら戦闘を続けていると、更に会話は進んでいた。
《理想で空を飛ぶと死ぬぞ》
この言葉は、まるでラリー自身に言い聞かせているように思えた。
PJは知らないだろうが、ラリー。お前はその心の底にある『理想』で、前の作戦で民間の家の破壊を俺に委ねたのだろう?
とね。
誰よりも、理想で空を飛んでいるのは、あいつのような気がしたんだ。